第11回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作 矢野アロウ『ホライズン・ゲート 事象の狩人』(早川書房)を頂き読みました。巨大ブラックホールを探査する者たちの物語が、詩的でいてソリッドに描かれていてよかったです。日常的に描かれるウラシマ効果のずれや、探査に伴って発生する仮想実体の狙撃(着弾までに一週間、時には一月を越える)、右脳に祖神を宿した狙撃手の女と時間を同時的に見通せるパメラ人との愛情の在り方――などの要素を面白く読みました。
面白かったのを厳選して紹介しました。
過去作の再録では、サラ・ピンスカーのロボットミステリ“Bigger Fish”も悪くないですが、ちょっと引っ張りすぎかもしれません。犯人はほぼ確定しているから、実質動機と手法のみを明かす話なので。
既訳あり→「もっと大事なこと」(佐田千織訳、ジョナサン・ストラーン編『創られた心 AIロボットSF傑作選』、創元推理文庫収録)
https://www.uncannymagazine.com/article/bigger-fish/
仕事を納めた達成感のあまり、Uncanny magazineで英語の短編を10作ほど立て続けに読みました。
P・ジェリ・クラークの"How to Raise a Kraken in Your Bathtub"は、野心ある若者が一山当てるために「浴槽でクラーケンを育てる方法」通りにイカの怪物を育て、彼と大英帝国の破滅を引き起こす。
https://www.uncannymagazine.com/article/how-to-raise-a-kraken-in-your-bathtub/
"The Music of the Siphorophenes" (2021) by C. L. Polkは歌う巨大生物や宇宙海賊が出てくるスペースオペラ。やや冗長。
https://www.uncannymagazine.com/article/the-music-of-the-siphorophenes/
“Six Versions of My Brother Found Under the Bridge” by エヴゲニア・トリアンダフィルは、たぶんダークおとぎ話風家族小説。弟を亡くした少女は橋の下から計6回も弟を連れて帰る。
https://www.uncannymagazine.com/article/six-versions-of-my-brother-found-under-the-bridge/
"The Pandemonium Waltz" by ジェフリー・フォードは熱病の中で見た悪夢のようなとりとめない話。しかしはっとさせる1節が多く、良い。移動ダンスホール怪奇譚。
https://www.uncannymagazine.com/article/the-pandemonium-waltz/
発売2日目にして重版が決まったそうです。
QT: https://fedibird.com/@dempow/111588609128158881 [参照]
クリスマスや年末年始のお供にいかがですか。
吉羽善
「五時の魍魎」
「ノートパソコンの誤字にお悩みでいらっしゃるでしょう」
ある日僕の家を訪ねてきた訪問販売業者は、パソコンやスマートフォンの誤字を減らすサービスを販売しているという。半信半疑ながらも好奇心から業者の話を聞いていた僕だったが──。
小説を書いたり記事を書いたりメールを書いたり……。
色々な誤字に悩まされたことのあるみなさんにぜひ。
来年(2024年) 1月中旬頃から店頭に並び始める、新帯付き・文庫版『火星ダーク・バラード』(ハルキ文庫)の書影が届きました。
発売まで、もうしばらくお待ち頂ければ幸いに存じます。
杉江松恋さんとの月例SFレビュー番組「これって、SF?」、12月号その3です。
私は、劉慈欣/大森望・古市雅子訳『白亜紀往事』(早川書房)を取り上げました。
恐竜と蟻が互恵関係を結び高度な文明を築き上げている白亜紀を描く、『三体』作者の初期長篇です。文明発祥までのプロセスや、種族間のスケールの違いを乗り超える数々のアイデアがおもしろいです。
杉江さんが紹介されたのは、井上雅彦監修『乗物綺談 異形コレクションLVI』(光文社文庫)です。
全篇外れなしですが、SF読者には、冒頭の久永実木彦~坂崎かおる、中盤の柴田勝家~上田早夕里~斜線堂有紀~空木春宵の並びがとくにおすすめ。それに意外な人のSFも……。
「これって、SF?」、年内の更新はこれで最後です。1年間、ありがとうございました。
https://www.youtube.com/watch?si=3wbeoi23vKR8lZg_&v=A5rq8iQ4-Jk&feature=youtu.be
「オオカミは力の強い存在であるという認識から、古代ではオオカミ獣人が王位にあるものを載せた橇を引くことが多く、近代になってイヌ獣人による橇が盛んになったのは、古来の文化の影響が大いにあるとされる(なお、かつてはイヌ獣人もなるべくオオカミの血が濃いとされる犬種がよいとされた)
また、トナカイ獣人も橇を引くが、古来の慣習からオオカミに由来する名や似た特徴を持ったトナカイは橇引きとして魔除けの意味があるとされ、祝祭日の聖者であるルドルフも、その代表格と言える(一説には、ルドルフの赤い鼻も、太陽を咥えて天を走るオオカミの伝説に由来するとされる)」
ーーーオオカミはなぜ吠える 古来のオオカミ獣人神話の変遷 獣明書房 1987
あんまり血生臭くないマイルドな獣人世界だったらこうなる印象
百敷や古き軒端のしのぶにもなほあまりある昔なりけり
https://gyazo.com/a901f793769d1626f9a87317475fe698
絶対に翻訳不可能。日本語話者だけ、どころか「言語をひねくりまわす暇ばかりあった、超ハイソ&カシコたちにしか理解できないハイコンテキスト」の塊みたいな和歌が百人一首には少なくないのでは。一首も覚えてない自分が言うのもなんだが、そう予想させるに十分な一首である。順徳院のこの歌も順徳院が誰で、百敷とは何で、しのぶが何を指すのかがわからなければ、ほとんどまったく歌の意味がわからない。というわけで、百人一首。自分もとにかく最初の入り口は「わかんない」「わかってたまるか」から入ることにする。「わかんない」から入ったほうが「わかる」こと、多いし。
東京ではかなり珍しい沖縄菓子店が調布にあると聞いて、行ってみた。事前情報が全然なかったが、物凄く狭い店内でおじいちゃんがサーターアンダギーや胡麻団子などを安く売っていて、地元密着の空気を感じたのが良かった。
明治後期から大正にかけて活躍した彼女ら画家の死後の評価は微妙なところで、作品をみる限りぜんぜんよかったりするので、悪いのは美術史家たちである。とはいえ同時期の男性画家も忘れられていて、覚えられているのが東京美術学校とかの作家や特定のコミュニティ近辺の作家という状況ではある。アカデミズムが男性中心主義だっただけなんだけど、アカデミーは女性だけではなくいろんな属性の人間を排除している。
いずれにせよ「女性は美術の教育機会を奪われていた」というのは、(海外がどうかはともかく)自分が知るかぎりではそんなに正しい記述ではないというか、むしろそう書くことによって、当時活躍した女性画家の存在が無いことになっていることを正当化する理屈に見えてしまう。
Podcast「こんなん読みましたけど」更新しました。7ヶ月ぶりです……。9月に行ったジョン・スラデック『チク・タク×10』刊行記念・スペース公開収録の模様を再編集してお届け。
有料記事がプレゼントされました!12月13日 17:38まで全文お読みいただけます
戦場で犯した罪 繰り返される悪夢 医師が守った兵士のカルテ https://digital.asahi.com/articles/ASRCW7GGLRB9UTIL00R.html?ptoken=01HHEJVGMEVVP65462RSWDKNYQ すごい話です。歴史屋として、軍命に背いて資料を守った方がた、保存整理された方がたに心からの敬意を表し、感謝申し上げます。
「図書館はただ、本がたくさんある建物ではありません。ここは人々がなんの義務を果たさなくともただいられるという、稀有な場所のひとつです。何も買う必要はありません。図書館カードを登録していなくても構いません。誰もがぶらりと訪れることができて、一日中座っていられるところ。真の公共施設なのです」
「図書館で実施されている国際ワークショップは、地元のオランダ人も加わって、インクルーシブな文化交流の場になっています。また、子どもたちは図書館という公の場で継承語のイベントが開かれることで、『自分たちの言葉で公に堂々となにかをやってもいいんだ』という認識が生まれ、より自信を持つことができるようになります。図書館はすべてのバックグラウンドを持つ子どもたちにもオープンな場所なのです」
SF読者、1965年生まれ
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