【お仕事告知】本日発売の『SFが読みたい!2023年度版』で春暮康一さんのインタビュー記事の聞き手・構成を担当しました。『法治の獣』で国内編1位を獲得された春暮さんの貴重なインタビュー(実は初とのこと)ですので、ぜひお読みくださいませ。
ほそぼそやっているPodcast「こんなん読みましたけど」第19回更新しました。
今回はアニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」の山田リョウの良さについて20分くらいからふね氏相手に語ってます。
https://open.spotify.com/episode/6rK6iAG44P4UEtBwlAeln8?si=OfLbuQ5OTDSwdnjB84uTcw
ヴァジム・シェフネル「沈黙のすみれ」(SFマガジン2007年6月号/合田直美訳)読んだ。
これは傑作。飛行機の墜落未遂事故の影響で全く話せなくなってしまった女性——「沈黙のすみれ」——を妻に娶った男だったが、二度目の飛行機急降下のショックによって、元の状態に戻ってしまう。元の状態、つまり病的な饒舌に……。
常軌を逸したおしゃべりっぷりに、元々無口な男は耐えきれず、見ず知らずの語り手に「あなたをなぐらせてください」とせがむ始末。その後もわざと車に轢かれたり……。最終的に妻はその饒舌を口ではなく筆で活かして文豪となるというオチも何ともとぼけていてよい。
ユーモアに満ちた知られざるロシアSFの名作。ユーモアSFアンソロジーを編むことがあればぜひ入れたい。
ジョン・ケッセル「バッファロー」(SFマガジン 1993年1月号/古沢嘉通訳)読んだ。
20世紀初頭、肉体労働に従事していた移民である作者の父親と、ちょうど米国を訪問していたH・G・ウェルズ。その両者がもし邂逅していたとすれば……という架空の出来事を綴る趣向の短編。ウェルズの大ファンであった父は、直接本人にその熱を伝えるも、移民である父と、社会主義国家の樹立を真剣に望んでいたウェルズとのあいだには、越えがたい格差が広がっていることが分かる展開はあまりにほろ苦い。
余談だが、ウェルズを使ったある種の歴史改変ものといえば、リチャード・カウパー「ハートフォード手稿」(『ベータ2のバラッド』)なども思い出す。
1992年ローカス賞短編部門&スタージョン賞受賞作。
アルヴィン・グリーンバーグ「ホルヘ・ルイス・ボルヘスによる『フランツ・カフカ』」(ナイトランド・クォータリー vol.24/垂野創一郎訳)読んだ。
ボルヘスが残した読めない文字で記された一編の物語。インディオのある部族の方言で記されたというその記事のコピーは、好事家の間で複写され増殖していく。
そして、そのなかに見られるあるシンボルが、全世界に、誰にも気づかれることなく浸透していく。そしてとうとう、フランツ・カフカ「変身」冒頭に登場する「虫」の概念をも上書きしてしまう……。
フィクションが現実を塗り替える逆説性、そして「カフカとその先駆者たち」の顕現とも言える世界の変容。素晴らしいボルヘストリビュート短編。これは読まれるべき。
鯨井久志。翻訳・書評・ときどき精神科医。SFとラテンアメリカ文学とお笑いが好き。サークル「カモガワ編集室」主宰。ジョン・スラデック『チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク』(竹書房文庫)好評発売中。 Hisashi Kujirai /translator, reviewer