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小川公代『ゴシックと身体』(松柏社)、長年のゴシック小説研究から小川さんの問題意識の根となった部分が語られていて、非常に刺激的で面白かったです。ゴシック小説を角度を変えて眺めることで露わになる、怪物視される女性たち、家父長制への抵抗、理性と共感、政治性――特にウィリアム・ゴドウィンやメアリ・ウルストンクラフトの作品から、その娘メアリー・シェリーに至るあたりは白眉ですね。断片的な伝承バラッドの再話を、フランケンシュタインの怪物の創造になぞらえるあたりも面白い。

「小説新潮」4月号の「本の森」にて、北村浩子さんが『奏で手のヌフレツン』を取り上げてくださいました。丁寧であたたかな紹介に感激しています。ありがとうございます。

こうした下絵にデジタルで手を加え、掲載時はこうなる。

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リカルド・アドルフォ著 木下眞穂訳『死んでから俺にはいろんなことがあった』(書肆侃侃房)、不法滞在している言葉の通じない街で、妻と子と共にちょっとしたことから道に迷ってどうやっても家に戻れない悲哀が、ユーモラスな語り口で描かれていて、すごくよかったです。

装画(小山義人)からいいんですが、ほんとにこんな雰囲気。ブコウスキーが書いた『エペペ』みたいとも思いました。語り手は過去の経験のせいか妄想気味にいろんな可能性を考えすぎるあまり常に裏目に出る選択ばかりしてしまうんですね。地下鉄の場面には笑った。妻とのやりとりも妙にリアルでいい。

ウォルドロップの短編をいろいろ読み返してたら、クロスオーバーものを読みたい欲が増し、『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』を久々に開いたら、やたらと面白くて。

「第4回みんなのつぶやき文学賞」国内篇にて、『奏で手のヌフレツン』が小川哲さんの『君が手にするはずだった黄金について』と同位の第4位となりました。投票してくださったみなさまありがとうございます。

youtube.com/watch?v=Ak8d6bmfkS

ずっと読みたかったスタニスワフ・レムの「浴槽で発見された手記」、カフカを超える不条理さで官僚制や諜報戦を風刺していてむちゃくちゃ面白い…!  地下の巨大庁舎で、語り手はある任務を与えられるも、あらゆるものが暗号として解釈されるため各部署で出会う人々とも意思疎通が取れず、そもそも任務がなんなのかもわからない…。

カフカの『城』、ピンチョン『競売ナンバー49の叫び』、ヴァーツラフ・ハヴェル『通達/謁見』あたりも連想しました。

高柳聡子『埃だらけのすももを売ればよい』(書肆侃侃房)、100年前のロシア文学興隆期「銀の時代」から15人の女性詩人たちの詩が評伝を交えて紹介されていて、すごくいいです。〝古き都は死に絶えたかのよう〟から始まるアンナ・アフマートワの詩「キーウ」では一気に100年の隔たりが消える…。

毬矢まりえ 森山恵著『レディ・ムラサキのティーパーティ らせん訳「源氏物語」』(講談社)、松田行正さんの装幀がすばらしい。スピンは紫。『源氏物語 A・ウェイリー版』をおふたりがどう訳したのか、そりゃ読みますよね。

アンナ・カヴァン著 安野玲訳『眠りの館』(文遊社)を頂きました。自伝的エッセイと〝夜の言葉〟で書かれた散文詩的な小説が交互に綴られた、白昼夢を見ているような本で、すばらしいです。カヴァン自身は、本書を『アサイラム・ピース』と対をなす連作短篇集として捉えていたそう。

〝昼のあいだわたしはずっと夜の世界に帰る時間を、館での密やかな生活という現実へと帰る時間を、待ちわびながら過ごしました〟

訳者あとがきで触れられていた、アナイス・ニン『未来の小説』のアンナ・カヴァン評も読み返した。

わたしは『服をめぐる』22号に掌編を寄稿しています。KCIの公式サイトでもお読みいただけます。

kci.or.jp/publication/public-r

KCI(京都服飾文化研究財団)の広報誌「服をめぐる」24号、「一人一品」が歌人の大森静佳さんで、選ばれた三点の収蔵品と短歌によるイメージの膨らみがすばらしいです。
1810年頃の乗馬服に添えられた歌がすごい…
〝青空の底を駆ければいれかわる馬の瞼とわたしのまぶた〟――

久山宏一訳 芝田文乃訳 スタニスワフ・レム著『捜査・浴槽で発見された手記』(国書刊行会)を、訳者の芝田文乃さんから頂戴しました。『捜査』は持っていたのですが、『浴槽で発見された手記』は手に入らず、図書館にもなく、長年読みたかった作品なのでした。ありがとうございます。すごく楽しみ。解説は沼野充義さん。3月11日頃発売だそうです。

夏来健次編訳『ロンドン幽霊譚傑作集』(創元推理文庫)を頂いて読み終えたのですが、どうして訳されてなかったの…! と驚くくらい面白かったです。著名なウィルキー・コリンズから、準男爵で法廷弁護士の唯一世に出た創作まで、ヴィクトリア朝に書かれたロンドン舞台のゴースト・ストーリー全13篇中、12篇が初訳。語り口の良さで、どれも引き込まれました。

どれも面白いのですが、何百年も絵の中に潜み、再び自分の存在に気づいてくれる相手を待ち続けた女性との束の間の愛を描く「黒檀の額縁」や、出版社社長の元を訪れる幽霊となった女性作家のキャラ立ちがよすぎて笑ってしまう「シャーロット・クレイの幽霊」など印象的でした。あと特異なのが、姿の見えない、でも実体のある幽霊が現れ取っ組み合う「ウェラム・スクエア十一番地」で、描き方が正に透明人間なんですね。面白い…。

マルコ・バルツァーノ著 関口英子訳『この村にとどまる』(新潮クレスト・ブックス)、素晴らしかった……! 家族や村の過酷な運命を遠くにいるはずの娘への手紙として書かれた物語で、その語りかけるような言葉はページごとに書き写したくなる表現に満ち、最後まで引き込まれ続けました。

舞台は北イタリアのチロル地方の、ダム湖に沈んだ実在の村(徹底した取材を行ったそう)イタリアのファシストたちに母語を奪われるなか、ダムの建設計画が立ち上がるも、そんなこと起きるわけがない、と一部の村人以外は誰も気にとめない。ファシストから解放してくれるかに見えたナチスは移住政策を行って村人を分断していく。戦争が終わった後も、ファシストと変わらぬ企業がダム事業を蘇らせて強行しようとし――そんな激動のなか、語り手の女性は静かに抗い続ける。

言葉の持つ力と無力さが綯い交ぜになったような大きな余韻のなか、読者である自分もまたその渦中にいることを気づかされます。

これは以前、漫画『スティーブズ』原作の松永肇一さんが作ってくれた、『皆勤の徒』タロットカードです。

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