ムロージェックの『漫画(未訳)』には作家による序文が付されているのですが、この散文、「ボルヘスとわたし」、“Updike and I”の系譜に連なるような、「スタイル化された、芸術家による自己についての文章」の傑作だと思っています。
拙ブログの過去記事:https://air-tale.hateblo.jp/entry/2023/03/02/003950
フリオ・コルタサルCronopios and Famas(未訳)。
中国の日本文学翻訳家がコルタサルではこの作品集が好き、と書いていて表題作のみ読む。短章形式でCronopio、Fama(そしてEsperanzas)の生態を描く不可解な一篇。
あまりに幻惑的な書き出しに、Cronopio、Famaとはヒトなのか、それとも(『動物寓意譚』に登場する) マンクスピアのような人外なのか?とはじめは判然としなかった。しかし読み進めていくと、CronopioはCronopio、FamaはFamaと呼ぶ以外にない存在なのだとすぐに了解される。それでも、おのおのの節を因数分解してみればその断片は鏡として私たちの生きる世界を鋭すぎるほどに逆展望してやまない。(つづく)
芝田文乃さんによるポーランド文学紹介の記事。レムとムロージェックの書簡集が刊行されているというのは知らなかった…。https://eubungaku.jp/articles/poland/ポーランド文学の状況/
ここ半年ほどの収穫。
ジャン・ジュネ『判決』(みすず書房)
小松理虔『新復興論』(ゲンロン)
『ちくま日本文学 尾崎翠』(筑摩書房)※一部再読
鈴木いづみ『ハートに火をつけて!』(文遊社)
Samantha Harvey Orbital (Grove Press,2024)
アンリ・ミショー『魔法の国にて』(『アンリ・ミショー全集4』青土社)
『山本陽子全集 第二巻』 (漉林書房)
四元康祐『噤みの午後』(思潮社)
辻征夫『かぜのひきかた』(書肆山田)
山田参助『あれよ星屑』(1)~(7)(エンターブレイン)
阿良田麻里子『世界の食文化 インドネシア』(農山漁村文化協会)
海老島均一・山下理恵子編『アイルランドを知るための70章 【第3版】』(明石書店)
高橋睦郎×佐々木幹郎×栩木伸明×大野光子「詩は周辺に宿る アイルランド現代詩の魅力」(「現代詩手帖」2001年10月号)
(映画)「奇跡」カール・ドライヤー監督
(その他)The Times Literary Supplement Podcast
『鈴木いづみ語録』などはなぜか3回購入し決まった箇所をくりかえし読んだりしてきたのだが、この自伝的長編についてはいまは感想として散文化できそうにはない。ぼんやりといま考えているのは、むしろ「女と女の世の中」のこと。The New York Times書評では英訳SF短篇集がル=グィンと関連づけて論じられていたりするが、個人的にはかならずしも大文字の文学として捉えなくてもいい、とも思っている。「女と女の世の中」は、男の子が出てくるシーンがとても印象的。鍾愛する、マーガレット・セントクレア「街角の女神」「地球のワイン」のような、夢見がちな(ほとんど)ふつうの女の子が夜も更けて自分の手帖に書き始め書き上げたような、満月の夜の夢の残り香をお裾分けしてくれるような、小粒なるものだけが発散するアンビアンスがだいすきなのだ。
ひさびさの鈴木いづみ、『ハートに火をつけて!』(文遊社)。大学時代、SFセミナー企画『鈴木いづみRETURNS』ではじめて存在を知り、ル=グィン『闇の左手』を扱ったゼミ発表で「女と女の世の中」を引いて恩師に建設的助言を賜ったのもいい思い出。愛に餓え70年代を光よりも速く駆け抜けたこの作家が、いまや国内よりも国外で熱心に読まれているというのは数奇さを感じずにはいられない。
読後感をうまく整理できず自分以外の感想を少し探してみて、惹かれたのが「作中に漂う力強い諦念と、プラスチックみたいな透明な明るさが、切実で美しい。」との三浦しをんの言。諦念とは、ふつうはよわく脆いものなのではないか?それが、鈴木いづみの場合は力強いなにかへと、転化されているというのだ。
中はまだ読めていないのですが、管啓次郎がカレン・テイ・ヤマシタを訳しているサイトを発見。都甲幸治が『21世紀の世界文学30冊を読む』で紹介していた『サークルKサイクルズ』の抄訳でしょうか……?http://www.cafecreole.net/travelogue/
学生時代に佐藤弓生さんに教えていただいた素晴らしい歌人、大滝和子の既刊歌集すべてを収録した歌集が4月に刊行されていたと知りました。多田智満子さんの詩、川野芽生さんの短歌、恩田侑布子の俳句などお好きな方に強くおすすめしたいです。https://tankakenkyu.shop-pro.jp/?pid=180407058
SFセミナーの翻訳家パネルでも話題のあった翻訳訳語辞典って、もとは山岡洋一が作成したものだったんですね。ためしにafter allで検索したら「畢竟」と訳している用例が出るとか、なかなか面白いです。https://www.dictjuggler.net/
本好き、旅行好き。 海外詩/翻訳文化論/日本文学普及/社会言語学etc.文章のアップはSNSよりも主にブログのほうで行っています。よろしくお願いします。https://air-tale.hateblo.jp/