今年もまた、例の夏がはじまる。いつもの夏が。みどり色した疲弊をしょいこんで、あちこちを犬みたいにうろつく夏が。(略)夏におこることは、たいてい尾をひかないから、いい。きしみをあげるような光と、ぐったり湿った空気がなくなると、全部がウソだったような気がするから。パッケージにひとまとめにして、天井ちかくの戸棚にしまっておけるから。とりだしてあげると、時間感覚の奇妙さのせいで、いつでも新鮮なのだ。何年まえの夏だろうが、関係なく。そして、三年前の夏が、二年前の夏より遠い、ということはない。
鈴木いづみ『ハートに火をつけて!』(文遊社)