【ほぼ百字小説】(5211) いや、人魚じゃないよ。ほら、下半身の魚の部分、目も口もあるだろ。言われてみればたしかに。口を開けた大きな魚が人間の下半身を呑み込んでいる、というのが人魚の正体か。肩まで呑まれてたら人面魚に見えるとか。
 

【ほぼ百字小説】(5210) どこからかラッパの音が聞こえる。天使のラッパという感じではなく、豆腐屋のラッパ。もうそんなものはないだろうから、それに似た何かか。なんにしても黄昏にはぴったりで、これはこれで世界の終わりによく似合う。
 

【ほぼ百字小説】(5209) 捕獲された猫と金網越しに対面する。金網で隔てられてはいるが、もちろん安心はできない。猫は液体でもあるのだ。どんな隙間でもすり抜けて、どんなところにでもすんなり入ってくる。それが心の隙間なら、なおさら。
 

【ほぼ百字小説】(5208) 落としたと思っていた財布が家の中で見つかって、天にも昇る心地。でも同時に、何も与えることなく人間を幸せな気分にして感謝させるのはなんと簡単なことなのだろう、と実感できて、天にも昇る心地の中で怖くなる。
 

【ほぼ百字小説】(5207) 地上にも天使の通路があって、天使は通路を低空で飛行する。そんな通路の交差点には天使の衝突を避けるための信号があるが、人間がそれを信号と気づくことはない。まあ何らかのサインを受け取ることはあるらしいが。
 

【ほぼ百字小説】(5206) 尻尾は食べるもんじゃないよ。いや、おいしい、おいしくない、とかじゃなく。ほら、こうやって植えておくと、また尻尾から再生して一人前になるんだ。諺にもあるだろ、フライの尾はフライに、天ぷらの尾は天ぷらに。
 

【ほぼ百字小説】(5204) 砂漠のどこかに目に見えない階段があって、それを使えば昇っていけるが、使えるのが猫だけなのは、そもそもこの世界が猫のトイレとして作られたから。トイレに発生した余計なものをどこまで許容してもらえるのやら。
 

【ほぼ百字小説】(5203) ヘルレイザーとスケバン刑事は2が好き、という川柳を思いつき、2だけやん、と突っ込んだが、この二つの2には自分の嗜好や指向や思考が深く関わっている気もして何度も唱えている。当然だが、2はツーと発音する。
 

【ほぼ百字小説】(5202) 窓のすぐ外に何かが浮かんでいる。なるほどこれが評判の饅頭型UFOというやつか。たしかに巨大な饅頭みたいな見かけで、見かけだけでなく味もそうなのだとか。でも試してみるのは湯呑み型UFOが現れてからだな。
 

【ほぼ百字小説】(5201) 牛の子供が行列を作っている。先頭が見えない長い列だが、それでも買うためには並ぶしかないのか。人間が飲むものではなく牛の子供が飲むもの。牛乳をそう評していたのは誰だったかな。すぐ後ろに牛の子供が並んだ。
 

【ほぼ百字小説】(5200) 楽器のように見えるが武器なのだ。いや、もともとは楽器に偽装した武器だったのだが、その形状を生かして次第に楽器としての能力も手に入れて、だから今では楽器でもある。その点は、人間のように見えるあれと同じ。
 

【ほぼ百字小説】(5199) 楽器を演奏に使うのではなく押し潰すことでそれらを演奏する以上の効果を上げることができるのでは、と考えた誰かによってもっとも効果的に押し潰されることができる楽器の頂点に選ばれて効果的に押し潰される栄光。
 

【ほぼ百字小説】(5198) 洗濯物を干しているといつのまにやら足もとに亀がいる。首を伸ばして私の足の甲に顎を載せて、そのままじっとしている。はたして亀は何を求めているのか。いや、煮干しを求めているのはわかっているが、それ以外に。
 

【ほぼ百字小説】(5197) 朝から苦労してコンタクトレンズをつけて学校へ行った。何年か前に作ったくせにずっと使わなかったズボラな娘だが、ようやく出番か。そう言えば、私はいつからか舞台の上でもコンタクトレンズをしなくなってるなあ。
 

【ほぼ百字小説】(5196) 深い谷のようなその隙間の突き当りに穴がある。それがトンネルの入口だとわかったのは、そこに出入りする小さな連中を見かけるようになってからで、今は線路が敷かれ模型のような列車が入っていく。開通したらしい。
 

【ほぼ百字小説】(5195) 数年前の台風で吹き飛ばされてしまった物干しの波型プラスチック屋根の代わりに、安売り店で見つけた遮光シェードを貼ってみたのだが、それ以来、あの屋根が変わり果てた姿になって帰って来る夢を見るようになった。
 

【ほぼ百字小説】(5194) トンネルの入口がなぜかふたつ。山腹に半円形の穴が並んでいたら、片方はうわばみ、いわゆる大蛇が開けている口だから、道からずれた方には入らないように。そんな話が広まっているが、実際は両方とも大蛇の鼻の穴。
 

【ほぼ百字小説】(5193) 川の中洲でたくさんの亀たちが甲羅を干しているが、たまに何かから逃げるようにいっせいに水中へ駆け込んでいく。すぐ側の背の高い水鳥はただ突っ立っているだけ。亀だけに感じられる何かがあるのか、と橋の上から。
 

【ほぼ百字小説】(5192) 川に棲んでいる動物の親子を橋の上から見る。大きいのと小さいのがいつも寄り添っている。何年も前からそうだから同じ親子のはずはないのだが、いつ見ても親子でそこにいる。こっちの娘はもう妻より背が高くなった。
 

【ほぼ百字小説】(5191) 光っている竹はけっこうあるが、割ってみなければわからないし、入っていたとしても育ててみなければわからないが、そう次々試してみるわけにもいかず、竹ガチャと呼ばれている。向こうからすれば親ガチャだろうが。       

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