次回のライブ配信は9月29日(土)午後20時からとなります。ご注意ください。

イベントのご案内です。本をお持ちでない方もご参加できます。予備知識は必要なく、文学をとおして人と人とが出会い交流する場になればよいと思っております。

詳細情報とお申し込み: finneganswakeintokyo.peatix.co

ご都合つく方は、ぜひお申し込みください。

【配信後期・2023年8月18日】
「ベティー」がアイルランドを直撃した今日、「フィネガンズ・ウェイクを読む」の配信ではすべての偉人の墳墓がALPの大雨と大河によって完全に浸水する箇所を読みました。

17世紀アイルランドでは、ゲール・カトリック民族としての帰属性を構築しようという目的で、ドニゴールに集った「四導師」が『アイルランド年代記』(The Chronicles of Ireland)をつづりました。

この歴史書は、数々の年代記をまとめて編集したものですが、そこでは戦争や飢饉や王権の交代など、偉人やスペクタクルを軸とした歴史が語られました。

ジョイスはこうした歴史を洪水によって浸水させる一方で、その時代を生きた一般庶民のほとんど完全に忘れ去られた声の残響をなんとか響かせようと苦心します。まったく不確かで何も証拠らしい証拠がない中で、そうした声の「聞こえなさ」を過剰に強調することによって、ジョイスは逆説的にそうした声を際立たせることに成功しています。

フィネガンズ・ウェイクの夜は歴史の夜でもあり、そして歴史の夜には思い起こすべき声の残響が今なお木霊していることを再確認したページでした。

アーカイブ: kenjihayakawa.com/portfolio/20

【配信後記・2023年8月11日】
叙事詩てんこもりの回でした。

ホメロスの『イリアス』(エミリー・ウィルソンの新英訳が待ち遠しい一冊!)に加え、ロシアの『ブィリーナ』(筒井康隆の『イリヤ・ムウロメツ』とあわせて読みたい)やフランスの『ローランの歌』も登場しました。

中の人は、はずかしながらホメロス以外は未読なのですが、この機会に『ブィリーナ』と『ローランの歌』をそれぞれ読んでみようと思いました。

あと、ダブリンの悪名高き「尖塔」に対して、地元の人たちが放ったブラック・ジョークをキャロルが紹介した部分もとても楽しいものでした。個人的には「pin in the bin」がお気に入りです。

ユーモアが光る一方で、ジャガイモ飢饉や貧しい老婆(Shan Van Vocht)が厳かに扱われたページでもあり、敬意を払うべきところには最大限の敬意を払うジョイスの作家としての礼節・品位が伝わってきました。

『ユリシーズ』でスティーヴンは歴史を「悪夢」に喩えていますが、日本が原爆投下の日や終戦記念日をむかえる昨今、悲惨な歴史をどう記憶に留めるべきかという問題を考える上でも、フィネガンズ・ウェイクは他の作品にない独特の切り口を与えてくれると思います。

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8月16日に、ジェイムズ・ジョイスご本人(?)を特別ゲストにお招きして、ライブ配信を行います。お気軽にご参加ください。 youtube.com/watch?v=7xUB9lobJl

【配信後記・2023年8月4日】
気がつけば54ページ目とは、ちょっとした達成です。だいぶ入念に読み込んできたため、繰り返されるテーマやモチーフにも馴染みが出てきました。

バベルの神話はそのようなモチーフのひとつですが、今回はこれをさらに深く掘り下げました。番組中で参照したHiebertの論文は以下です。 jstor.org/stable/27638419

聖書の和訳と英訳をいくつか読み比べることで、神話の特徴がいくつか浮き彫りになりました。その中でも特に印象深かったのが、神が人類を多言語化するときに、言語を「混ぜる」と書かれている点でした。

多様性へ人々をひらくために言語を「混ぜる」という発想はまさにフィネガンズ・ウェイクの方法そのものであり、ジョイスもあるいは神(エホバ)との共通点を意識してこの手法を選択したのかもしれません。

また、今回の配信では「ライブ翻訳」も試してみました。翻訳に集中するとつい口数が少なくなってしまうのですが、思考プロセスをていねいに言語化するのは翻訳においても重要なので、中の人の自己陶冶も兼ねてまたやってみようと思います。

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7月の特別ゲストは、ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』を628ページ丸ごと音楽に変えて録音(しかも2回!)したデレック・パイルです。世界各国数十名もの歌手(?)とコラボした経験も深堀りしたいと思います。日本語通訳付き、チャット参加歓迎です。 youtube.com/watch?v=Lpj6LbDTqB

【配信後記・2023年7月15日】
今週は少し配信の内容とは関係がない所感になるかもしれません。

私は中古で買ったパソコンを何年間も使っているので、機器の老朽化が進んでいます。それでもなんとか低空飛行を続けてきたものの、今月の初めに冷却ファンがついに壊れました。

これまでも、配信中にマイクに冷却ファンの高音が入って音質が悪くなるというケースが多々ありましたが、今回はそもそもベアリングが磨り減ってしまい、ファンがものすごい音を発し、廃熱ができずにパソコンが強制終了したりもしました。

仕方なく修理屋さんに持っていくと、130ユーロ(約2万円)で修理してくれるとのこと。正直、パソコン本体の中古価格と同じくらいの値段なので少し躊躇をしたのですが、本の翻訳から「ウェイクを読む」の配信まで長年ともに歩んできた「戦友」への愛着から、修理を依頼することにしました。

結果として、これは正解でした。ファンを交換したことで、冷却効果が大幅にアップし、パソコンは新品のように生まれ変わりました。

これが今週の配信に間に合ってくれたということが、一番のニュース(?)です。

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【配信後記・2023年7月7日】
第3章がスタート。移民とディアスポラの国アイルランドは、歴史を通じて国外へ多くの人々が移住しましたが、今回のページではその終わりなき移住の歴史がこれでもかというほど細かく書き込まれていました。しかし、このモチーフをキャロルがウィスキーのレーベルとつなげて絵に描いたことで、この悲劇と辛酸の歴史がユーモラスな文脈に移植され、いかにも『ウェイク』的なものに変身しました。

ジョイス家に伝わる「バクリーとロシア将軍」の話は実にへんてこりんで、そもそもどうやって語るのが一番良いのかもはっきりしません。ジェイムズ・ジョイス自身は、パリやトリエステでこの話を周りの人たちに語ったのだろうか、もしそうならばどういう語り口をとったのだろうかという興味がわきます。

YouTubeの新機能を使って、第3章ではクイズも定期的に出題していく予定です。あと、毎週の配信は内容が濃すぎてついていけないけど『ウェイク』は読んでみたいという方に向けて、毎月の配信内容から要点をピックアップした『ウェイクを読む・Lite』を作ってみようかなとも思いました。

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【配信後記・2023年7月1日】
第2章の総集編「フィネガンズ・クイズ」でした。今関さんが博識かつeasy-goingな方なので、出題する側も安心して楽しく作問ができます。今回も色々な角度から第2章の魅力を濃縮した10問を作りました。

今週は早川のPCの調子が特に悪く、配信が途中で落ちるのではないかという懸念もありましたが、無事に2時間の配信と録画が完了でき、技術面でも一安心でした。

個人的には、第7問で衣装の問題を出したとき、今関さんが即座にTrotterの研究を参照し的確に答えていたのが印象的でした。この問題は、メンバーの一人であるWinstonさんから着想を得て作りました。

アイルランド大使館からの協賛も決定し、順風満帆で来週は第3章を読み始めます。配信の締めでも述べたように、『ウェイク』は各章で読者が振り出しに戻るような本なので、第3章ではまた読者全員がスタートラインに立って始めることになります。

どのような展開になるのか、主催である早川もまったく予想がつかない状態ですが、ジョイスが描く夢の世界を引き続き探究していくことを楽しみにしています。

アーカイブ: kenjihayakawa.com/portfolio/20

【配信後記・2023年6月24日】
ついに第2章も最後まで行きました。これだけ多くの参加者の方々がついてきてくださったことに喜びを感じています。

第2章「ハンフリアード」の終幕にふさわしく(?)、私は前日の結婚式の影響で二日酔い、しかも土曜日の正午過ぎで回線が込み入り、接続の調子も悪い。そんな状態で始まった配信では、私の不備から、冒頭で今関さんのカメラが数分フリーズするなどのトラブルもありましたが、さすが今関さん、冷静に対処してくださり、気がついてみると話はハンプティの殻のごとく四方八方へ散乱し、あっという間の2時間半でした。

今関さんも指摘していたとおり、『ウェイク』は『ユリシーズ』よりも実は楽譜の登場が若干少なく、しっかり歌えるページは今回が最初で最後の可能性が高いです。その一度限りの機会を二日酔い状態で迎えたことへの反省はあるものの、それなりに歌っぽくはできたかなという自負も密かにあります。

来週は総集編もといフィネガンズ・クイズです。メンバーのみなさま、クイズのアイデアをぜひ連絡フォームからお送りください。水曜日あたりにスライドを作る予定なので、それまでならばいつでも歓迎いたします。配信日は土曜日となるのでご注意を!

アーカイブ動画: kenjihayakawa.com/portfolio/20

【配信後記・2023年6月17日】
いつもならば配信の前日はお酒を飲まないようにしていますが、今週は前日がブルームズデイだったため、やむなくお酒を(しかもけっこうな量を)飲んだ翌日の配信となってしまいました。

幸い、二日酔いはなく、出だしに少し時間がかかりましたが本編に入ってからはわりといつもどおりのスムーズなペースで読み進めることができました。

パブ「The Old Sot's Hole」に「超群衆」が会し、ホスティによる「パース・オライリーのバラッド」の上演を今か今かと待っている。背景にはフェニックス公園殺人事件と「無冠の王」パーネルを失墜させた人々の罪の意識、そして聖スティーヴンの日に歌う「レンの歌」(The Wren Song)がありました。

Wren(レン、ミソサザイ)が鳥の王になるまでの話には、ジョイスが過去のあらゆる現象を使って空高く飛翔した後で、ほんの少しだけ自力でも飛ぶという、ウェイク執筆の方法が種明かしされているような気もします。

来週はまた土曜日の配信で、今関さんをお招きしてのゲスト回です。はたして、我々はバラッドをしっかり歌うことができるのか...?

アーカイブ動画: kenjihayakawa.com/portfolio/20

【配信後記・2023年6月9日】
パブに会した「超群衆」リストが強烈でした。

• dublinos
• a truant officer
• busy professional gentlemen
• palesmen
• massgoing ladies
• wandering hamalags
• an oblate father
• bricklayers
• a fleming
• an aged hammersmith with chisellers
• cudgel players
• sheep with braxy
• two bluecoat scholars
• four broke gents
• a portly & a pert
• Peter Pim
• Paul Fry
• Elliott
• a deuce of dianas
• a particularist prebendary
• a lace lappet head
• good old souls
• a jolly postoboy
• a plumodrole
• a half sir

毎週思うのですが、扱う情報の量がヤバイですね!

アーカイブ動画: kenjihayakawa.com/portfolio/20

ブルームズデイまであと1週間になりました。ジョイス愛読家にとっては、1月6日と並んで大切な1日です。中の人は、今年はホウスの丘を登ろうと思っています。

さて、今週はリバティーズ区のパブ「The Old Sot's Hole」に観衆が集まってくるシーンを読みます。

ジョン・マコーマックも歌った「Molly Brannigan」をジョイスがモリー・ブルーム用に変えたバージョンが登場したり、ジョイスが『ダブリナーズ』の出版に苦戦していたときに公開書簡を掲載してくれたベルファストのNorthern Whig紙が参照されたりと、かなり個人色が強いページです。

Molly Brannigan: youtube.com/watch?v=w6GrTL-u-c

かと思えば、他方ではガリポリの戦いやクリミア戦争などの歴史的な出来事も参照されています。そして、マラルメがマガモになったりと、著名人がしっかり揶揄されてもいます。今週も私的なものと公的なものを融合するジョイスの筆力が味わえそうです。

配信ページ: kenjihayakawa.com/finneganswak

【配信後記・2023年6月2日】
ブルームズデイまであと2週間になりました。今週は糖蜜トムの後編、主役は相棒のホスティーです。ホスティーとはドイツ語で「ご聖体」のことですが、本編では銃を入手したり泥酔したりと、散々な振る舞い。

音楽への参照が多い章でしたが、それでもジョイスは必ず政治的な何かを含めてもくるもので、それが今週は「お祭り王」聖フィナータへの言及でした。フィナータ王は674年に即位し、1世紀から7世紀までレンスター県民に化せられ続けてきた「ボルー税」を撤廃します。これによってダブリンを含むレンスター県の人々は潤い、イチゴ売りや蜂蜜売りの声、そして花売りや漁師が鮭を売る声がミーズ通りの市場に響き渡りました。

そこから歴史を早送りし、ジョイスはプロテスタントの地主がカトリックの民衆を苦しめている19世紀末で、パーネルより先にグラッドストーンの記念像が造られそうになった一幕を想起します。ヘーゲルが歴史の進歩性を大陸で説教していたかたわらで、アイルランドの人々は地獄のような貧困と歴史からの抹消の危機に直面していたわけです。

フィナータ王が拾った少年が聖コロンバの伝記を書くという歴史も、なかなか味わい深いものでした。

アーカイブ動画: kenjihayakawa.com/portfolio/20

第2章「ハンフリアード」も終盤に差しかかっています。

今週読むページは、ダブリン市街でも昔から貧しかった「The Liberties」が舞台となります。ジョナサン・スウィフトの通い詰めのパブ、クエーカーの会堂、ハンデルが「メサイア」を世界で初めて公演したときの会場など、歴史的な場所もたくさん出てきます。

他方では、ヴァイオリン発祥の地クレモーナや、ウェールズの民俗楽器クルースのように、弦楽器への参照があり、そこから3人の弦楽奏者が「ティム・フィネガンの通夜」(あるいはその元ネタとなったWhack fol the Diddle) を奏でたりもします。

上記は今週のページに出てくる内容の10%くらいです。配信では他にも様々なモチーフを読解していきます。初めての方もぜひお気軽にご参加ください。


配信ページ: kenjihayakawa.com/finneganswak

【配信後記・20230527】
今日は翻訳家のルイーズ・ヒール・河合さんをお招きして、英語と日本語の混成インタビューを行いました。

まず、マンチェスター弁の音読がとても良かった。音読がここまで活き活きと成立する英訳も珍しい気がします。

また、方言の翻訳について質問をしたときに、ヒール・河合さんが繰り返し「味」という言葉を使っていたのが印象的でした。

原文を味わい、訳文でもその味を出すという考え方は、とてもよくわかります。他方で、英語の読者層はかなり平板で狭いテイストを持っているので、大手出版社が味わい深い英訳を採用できないという現実もよくわかります。

標準語への圧力は、大衆迎合への圧力やマスマーケットへの圧力でもあり、文学表現の自由にとって大きな障壁ですが、そうした圧力に負けずに先鋭的な仕事を続けておられるヒール・河合さんに、中の人も活力をもらいました。

日本でも、文学の未来は大手出版社や有名媒体ではなく、小規模な版元や媒体の自由な作品が担っていくのだろうと思います。

視聴者・参加者のみなさまに大感謝。

アーカイブ: youtube.com/watch?v=L29VR57eo2

今夜7時から、『乳と卵』「ミス・アイスサンドイッチ」(川上未映子・著) を英訳した翻訳家のルイーズ・ヒール・河合さんにお話をうかがいます。

方言やその翻訳の面白さ、そして日本文学の英訳や英語圏での受容のされ方にも言及できたらと思っています。

ライブ配信では、みなさまからのご質問やコメントを受け付けております。ふるってご参加ください。 youtube.com/watch?v=L29VR57eo2

【配信後記・2023年5月26日】
トムとフリスキーという2人の前科者が登場し、後半では泥酔や放尿への参照も多めのページだったので、やや不穏な回になるかと思いましたが、配信中にエレン・ハンリーの話を深堀りし、アイルランドの宗教差別・男女差別の歴史の闇の深さに改めて驚きました。

エレンへの敬意と追悼の意を込めて1911年に作られたサイレント映画『The Colleen Bawn』が、トリニティ・カレッジから公開されています。youtube.com/watch?v=FwR94ukHDd

これと対比をなすのが、イェイツの『The Countess Cathleen』です。そこでは現実とほぼ何の関係もない「高貴の女性(=アイルランド)の自己犠牲」という虚構が演じられます。ブシコやベネディクトの方が、イェイツよりもはるかにアイルランドの地べたの現実と向き合えていたと思います。

キャロルの子ども時代、医学の道を志すきっかけとなった病院が末尾で登場したのは、今回の配信にとってなかなか良いアクセントになりました。

アーカイブ動画: kenjihayakawa.com/portfolio/20

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