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【配信後期・2023年8月18日】
「ベティー」がアイルランドを直撃した今日、「フィネガンズ・ウェイクを読む」の配信ではすべての偉人の墳墓がALPの大雨と大河によって完全に浸水する箇所を読みました。

17世紀アイルランドでは、ゲール・カトリック民族としての帰属性を構築しようという目的で、ドニゴールに集った「四導師」が『アイルランド年代記』(The Chronicles of Ireland)をつづりました。

この歴史書は、数々の年代記をまとめて編集したものですが、そこでは戦争や飢饉や王権の交代など、偉人やスペクタクルを軸とした歴史が語られました。

ジョイスはこうした歴史を洪水によって浸水させる一方で、その時代を生きた一般庶民のほとんど完全に忘れ去られた声の残響をなんとか響かせようと苦心します。まったく不確かで何も証拠らしい証拠がない中で、そうした声の「聞こえなさ」を過剰に強調することによって、ジョイスは逆説的にそうした声を際立たせることに成功しています。

フィネガンズ・ウェイクの夜は歴史の夜でもあり、そして歴史の夜には思い起こすべき声の残響が今なお木霊していることを再確認したページでした。

アーカイブ: kenjihayakawa.com/portfolio/20

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