小説を書いたりしてます。
【ほぼ百字小説】(5108) いくら声をかけても頭から毛布を被ったまま黙っている。考えたら、別の誰かが中にいてもわからないし、誰もいないかも。あのシーツを被ってるみたいな姿をした西洋のオバケって、つまりこういうことなのかな、とか。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5107) 自分自身を買いに。そう長くは使わないだろうし補修で充分、とも思うが、交換部品はむしろ高くて、丸ごと新しいのに買い替えてしまうほうが安い。前はどうしたっけ、と記憶に欠落があるのもさほど気にはならないし。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5106) 上り坂と下り坂は、同じ坂に見えてもじつは別々の坂なのだ。その証拠に、坂を下ってあの店へ行くことはできるのに、坂を上って行くことはできない。行けた、と思わせられたこともあるが、よくよく観察すると別の店。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5105) 小雨の中、坂の途中の店へ行く。こんな春の雨の夜には、坂が生まれて急速に成長するはず。そう思って出かけてみると案の定、この前と同じあたりに坂があって、坂の途中にあった店もちゃんと同じあたりに出来ていた。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5104) 部品工場で働いている。毎日、違う部品を作っている。同じ何かの部品なのか、違う何かの部品なのかもわからない。たまに自分にぴたりと填まりそうな部品もあるが、もちろん自分のものではないから填めたりはしない。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5103) また猫騒動が起きたという。最近は毎日のようにあちこちで猫騒動勃発の話を聞く。その猫騒動なるものがどんなものなのかはわからないが、当事者以外にはわからなくて、当事者になれば嫌でもわかるのが猫騒動だとか。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5102) 雨雲レーダーを見ながら雨宿り。頭上の雲の塊はなかなかどいてくれそうにないが、これとまったく同じ雲の形を前に見たような気が、いや、何度も見た。使い回しだな、と確信する。雨雲なのか記憶なのかは知らないが。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5101) 生まれてから今まで、少しずつ東へ移動している。少しずつだから生活圏はわりと重なっていて、重なりながら移動しているのだ。だからこうして電車で西へ向かうと、窓の外の風景は過去へと移動しているように見える。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5100) 裏表のない人間という評判は聞いていたが、メビウスの輪だったとは。一発ネタとしてはおもしろいのかも知れないが、それだけのためにそんな手の込んだ改造手術をするとも思えない。何か裏があるのでは、と疑うべき。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5099) 馬鹿と鋏は使いよう、とは言うけれど、馬鹿の作った仕組みだから使うのに鋏が必要で、プラスチックのカードをコピーした紙を鋏で切り抜いて書類に糊で貼り付けねばならない、というデジタル化は、諺にはなれるかも。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5098) 幽霊の話を聞きに行った。幽霊に関する話だと思っていたがそうではなくて幽霊が語る話なのだった。幽霊の語る技術は大したものだったし話の内容もおもしろおかしくて、だから文句を言われる筋合いはないとは思うが。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5097) ヒトではないものを騙して架けたという言い伝えのある橋だったが、今後それは言い伝えではなくなったということか。ヒトが作ったヒトではないものたちが、橋の修復作業に取りかかった。今度は騙されるんじゃないぞ。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5096) 一日二つ落ちてくる。すぐに使えるのもあれば、しばらく寝かせば使えるのもあるが、雨垂れのように一日二つ落ちてくる。いつ落ちてこなくなってもおかしくないが一日二つ落ちてくる。めでたくもありめでたくもなし。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5095) 何を記憶していて何を記憶していないのかを選ぶことができるようになったのはよかったが、何を記憶していて何を記憶していないことにするのがよかったのかを忘れてしまった、というか間違えて消してしまったのかも。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5093) お墓に来たことはあるが、開けたのは初めて。こんなところが開くんだな。中は小さな洞窟のようで、小さくなった母をそこに置いた。小さな石段が地面の下へとどこまでも続いている。小さければ下って行けるのだろう。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5092) あの猫の影、猫の形をしていない。気がついたのはつい最近だが、それからはあの犬の影もあの鳥の影も、と次々気がついてしまい、ついにはあのビルの影も。きっとこの地球の影もそうだろうな、と夜の中で考えている。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5091) 朝から強い風が吹いていて、いろんなものが飛ばされてくるのは困ったものだが、おかげでここが袋小路ではないとわかる。ここで圧縮されて速度を上げ高音と共に向こう側へと吹き抜ける、そんな風に運ばれる者もいる。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5090) いつもの店へのいつもの下り坂。なのに最近、坂が急になってきている気がする。実際、自然と足も速くなっていつもより早く着くから、気のせいではないのかも。でも、帰り道の上り坂は急にはなってきてないからなあ。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5089) すっかり春めいて、毎日歩いている道端に黄色が増えた。黄色い花に黄色い蝶、それに、そう思って見るせいか今日は蜂の黄色と黒の縞模様もいつもより鮮やかだ、とよくよく見ると、それは蜂ではなくて小さな小さな虎。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5088) 薄暗い客席で波の音を聞いている。これは録音ではなく生の音。なにしろあの惑星から連れてきた生きている海によるライブなのだ。もう地球にはない生の波音だ。波音の向こうから汽笛が聞こえる。これは効果音らしい。#マイクロノベル #小説
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