小説を書いたりしてます。
【ほぼ百字小説】(5087) たまに巨人がやってくる。こっちを見て感心したような顔をしたり、腕組みして頷いたり、小さいのによくできてるなあ、と言う。小さいけど本物そっくり、とも。我々の作った物を見て笑う。子供の絵を笑うように笑う。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5086) いつも猫が日向ぼっこしている路地だが、今日は雨。いつもの石段に猫はおらず、でもまたあの犬がいる。雨の中にだけ見える犬。雨に投影されているのか、雨で出来ているのかわからないが、子犬のときからそうだった。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5085) 工場の向こうを黒い雲のようなものが二本足で歩いていて、早く逃げねば、と思う間にもう隣の動物園のところまで来てしまった。かなり大きく見えていたが、キリンより小さいのか。でもこのくらいのが怖いな、と思う。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5084) 縁の下の闇を飼っている。このあいだ新しく出来た更地で拾ったのだ。長らくそこにあった空き家の縁の下にいたのが、取り壊され住処を失くしたのだろう。うちに縁の下はないので、とりあえず天井裏に住まわせている。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5083) 猫たちがよく日向ぼっこしている路地で、こんなにぽかぽかいい天気なのに一匹もいない。首を傾げて通り抜け、しばらく歩いてから、いないのは猫だけではないことに気づく。道路に出た。信号は赤だが、自動車もない。
【ぼほ百字小説】(5082) 長いブロック塀の上に猫が並んでいる。近隣の猫勢ぞろい、といったところか。ただ並んでいるだけではなく、なんらかの規則に従って次々に入れ替わる。ごろごろとつとつ音がする。何かを計算しているのだろうと思う。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5081) 生きているほうならいいが、死んでいるほうに確定してしまうかもしれないから、あえて確定させずにきたのだが、ここまできたらやるしかないか。まあ最近では、死んでいると確定しても動き続ける方法もあるらしいし。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5080) 期限までに確定させねばならないのに、ついつい観測を先送り。期限は前から確定していたのだから、そこに向けてちゃんと収束するだけなのに。まあそれができるくらいなら、こんな曖昧に発散したまま暮らしてないか。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5079) 毎日歩いている道で見かける馴染みのあの亀もこの亀も、そろそろ冬眠から目覚めた様子だが、ではうちの物干しの亀は、と見れば、盥の水の底で目を閉じたままほんの少し首を伸ばしただけ。視線は感じているらしいが。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5078) 虫たちが蠢き出す季節になって外出は楽になったが、ばらけないように自分を維持するのが大変。まあ虫の集合体という形態を選んだのは自分だし、すぐに慣れていろいろできるようになる。ぼくらはみんなで生きている。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5077) みんな白くなったなあ。舞台の上にいるのを客席から見ているからよけいにそう思うのか。まあ白くて当然の年齢だし、そういう年齢の役で、わざわざ白くするまでもなく白い。トイレの鏡の中の自分の頭ももちろん白い。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5076) 毎年この時期になると、いつも通る歩道沿いのガレージの入口に水を入れた衣装ケースが置かれていて、中に亀がいる。冬眠から目覚める亀に日光浴させているのだ。おお今年もかわいがられてるな、といつも声をかける。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5075) 完成予定図からすると、ここに出来るのは底なし沼らしい。毎日大量の土砂が投入されているが、もちろんその上に立つためのではなく、立ったものを沈めるための土砂。完成しないことによって完成する底なし沼である。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5074) 液体で満たされた丸いガラス瓶の中の脳は今も生きていて思考もしているとか。いや、そんなことより、と自慢げに博士。この細口の瓶の中にどうやって入れたのか、わかるかね。わかる。博士がだいぶイカれているのも。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5073) 人間をひと繋がりの文章として読めるようになって、ごく稀にだが繋がった文章になっている人たちがいたり、繋がってはいないが並ぶといい感じな人たちがいることがわかった。だからどうだということもないようだが。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5072) 船底の穴を塞ぐため、という名目なら乗客は仕方なく追加料金を支払うことがわかってしまってからというもの、船員たちの主な仕事は船底に穴をあけることになったらしい。ああ、救命ボートにも穴をあけちゃったかあ。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5071) 通路を隔てて向かいの席の人がテーブルに突っ伏して寝ている。その連れの人も突っ伏して寝ている。まあ春だしな、と見回すと、その両隣の席の人も窓際の席の人も壁沿いの席の人も寝ているが、私が寝ているだけかも。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5070) 四角く加工されるのは、空間を隙間なく埋めるため。そう聞かされていたのだが、たんに食べやすいからだ、と知って、でも食べられて吸収され何かの一部になるというのは、空間を隙間なく埋める、と言えなくもないか。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5069) 我々の身体がほぼ同じ大きさでほぼ同じ形なのは、それがちょうどいいからだという。いったい何にちょうどいいのかは知らないが、それを知ったところでちょうどいいのは我々にとってではなく、誰かにとってだからな。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5068) ざうざうざうと寄せる波はすべて螺子で出来ていて、この螺子の海の底には全自動螺子工場が沈んでいる。螺子だけでは何も作れないようにも思うが、長い時間さえあれば、太古の海がしたように生命くらいは作れるかも。#マイクロノベル #小説
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