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【ほぼ百字小説】(5279) 見せてくれたのは、なんと小指の先ほどの大きさの猫なのだ。茶と白と黒の三毛猫そのままの配色で、そのまま小さい。これはいいなあ。飼いたくてたまらないが、そのためには、ひとさし指大にならねばならないらしい。
 

【ほぼ百字小説】(5278) パソコンのキーボードの具合が悪くて結局、外付けのキーボードを買ってきて、キーボードの上にキーボードを載せる。何かのことわざみたいになってしまったが、まあ私の小説には似合っているのかも。亀に似ているし。
 

【ほぼ百字小説】(5277) 次から次へと問題が持ち上がって、もうテレビの中だけで行うことに。もちろんテレビ局にも異存はない。最初からこうしていればよかった。テレビの中で笑っている。視聴者も笑っている。テレビはタダだと思っている。 
 

【ほぼ百字小説】(5276) そればっかり履くから破けてしまって、ほど良い短パンがない、とぼやいていたら、妻がフリマで百円で買ってきてくれた。ほど良い。そして私くらいの人間が履くと、たとえ百円の短パンでも百五十円くらいには見える。
 

【ほぼ百字小説】(5275) 外海に捨てたはずの鯨の死骸が、怪獣化して帰ってくる。怪獣は何かに惹かれるかのように万博会場である埋立地に上陸するが、踏み抜いたアスファルトから噴き出したメタンガスによって大爆発。その頃、東京では――。
 

【ほぼ百字小説】(5274) 時を遡って伏線を張ってくるだけの簡単な仕事。そう聞いて引き受けのだが、せっかく張り巡らせたどの伏線にも主人公はまるで気づいてくれず、仕方がないから代わりに回収を続けていくうち、いつのまにやら主人公に。
 

【ほぼ百字小説】(5273) 妻は指だけ安静状態。針金入りの小指だけがぴんと立ったその形は、そういうマイクの持ちかたをする人のそれで、見るたび笑ってしまうが、小指が使えないだけでこんなに不自由。骨折って知る小指の恩、てなところか。
 

【ほぼ百字小説】(5272) ずっと葉っぱだとばかり思っていたが、よくよく見ると緑色の薄っぺらな手で、それらが蔦のようにあの空き家を覆いつくしていたのだ。手だとわかったのは、これまでパーだけだったのに、グーやチョキが出てきたから。
 

【ほぼ百字小説】(5271) 空き地に幽霊が出る。雨が続くと伸びる。大人の幽霊ではないのに大人より背が高くなったり。空き地を埋めつくす幽霊たちで地面が見えなくなる頃、全ての幽霊が刈り取られる。刈り取るところは、まだ見たことがない。
 

【ほぼ百字小説】(5270) ルーレットだったのか。巨大なリングが完成してからそうだとわかる。負けることは決まっている。軟弱地盤の上に作られた水平ではないルーレットだ。もう有り金は勝手に黒に置かれた。玉は赤字にしか止まらないのに。
 

【ほぼ百字小説】(5269) 幽霊祭りがあると聞いてさっそく来てみたのに、それらしきものはどこにもない。幽霊の祭りではなくて、幽霊部員みたいなものなのかな。お祭りの券だけを買ってお祭りには行かない幽霊参加者という方法を勧められた。
 

【ほぼ百字小説】(5268) 夜、三十分ほどかけてゆっくり走るコースがあって、順番に現れるいろんなものやいろんなことに呼び名をつけ、頭の中でその呼び名にもっとふさわしい形を与える。ゆっくり走りながらその風景の中へと入っていく遊び。
 

【ほぼ百字小説】(5267) ガラスケースに入った人形が道路脇に捨てられて回収を待っているのだが、そのガラスケースは鎖や縄で何重にもぐるぐる巻きにされていて、おまけにケースの両開きの扉に何枚も貼り付けられているのはお札らしいのだ。
 

【ほぼ百字小説】(5266) またやるって言ってるよ。勝つまでやるだろうね。そして、勝ったって言うだろうね。負けたんだからもう文句は言わせないって。それとは何の関係もないことにも。まあそのためにまたやるって言ってるんだろうけどね。
 

【ほぼ百字小説】(5265) 坂が好きなのに近所には坂がほとんどない。それでも、こんなところに、という場所に坂はあって、新しく見つけると嬉しくてその坂に名前をつける。坂でなくても坂の名前を付けると坂になることには、最近気がついた。
 

【ほぼ百字小説】(5264) 真夜中、どこからか話し声が。はて、と耳をすますと、どうやら小さな話たちが話しあっているらしい。お互いの小さな話について話しあうその中から、またひとつ話が生まれ、話の輪に加わる。そんな話も聞いたような。
 

【ほぼ百字小説】(5263) 娘が日傘を差して行った。あいつが日傘なんか差すとは。作るだけ作ったままでずっと使わなかったコンタクトレンズも使い出したし、いろいろ変わった。あ、あいつの好きな胡瓜がもうなかったな。今日スーパーで買おう。
 

【ほぼ百字小説】(5262) たまに錨が落ちている。どこから下ろされているのかは知らないが、それに身体を縛りつければ、出発のときいっしょに引き上げてくれる。あ、もう先客が、と思ったらそうではなく、錨に縛られて投げ込まれたのだとか。
 

【ほぼ百字小説】(5261) 木の枝に傘がぶら下がっている。あんなに高い枝にいったい誰が柄を引っかけたのか。首を傾げていると、ばさ、と開いて、逆さまのまま何度か羽ばたき、くるりと反回転して夕空に消えた。蝙蝠傘はああやって眠るのか。
 

【ほぼ百字小説】(5260) 急降下に宙返りにきりもみに逆走、怖いジェットコースターにもいろいろだが、なんと言ってもいちばん怖いのは、安全性に不安があるジェットコースター、と確信している今だが、これ本当にジェットコースターなのか。
 

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