新しいものを表示

個人的に今年好きだったのは、エリー・グリフィス『窓辺の愛書家』。
女性でインド系イギリス人でレズビアンという、警察組織の中では三重にマイノリティである刑事ハービンダー・カーのシリーズ。彼女の物語をもっと読みたい!

前作『見知らぬ人』も今作も、ハービンダーをはじめ、苦手な相手だとしても意外な面への驚きや素直な受容がさらりと描かれていて、好意とは無関係に助け合う、ベタベタせずとも女性同士に普通に流れる緩いネットワークが底にあるのがとても良い。

スレッドを表示

今年のミステリランキングは、クリス・ウィタカーの『われら闇より天を見る』が強かったのだなあ。
私は小説でも映像でも、ひどい境遇や状況にある少女が闘う物語がとても苦手なので、『われら闇より天を見る』も、話題の『グレイス・イヤー』(こちらはミステリではないが)も読めないまま今年が終わりそう…。

同じ理由で『ザリガニの鳴くところ』も『拳銃使いの娘』も『父を撃った12の銃弾』も『優等生は探偵に向かない』も、たぶん好きなのは分かっているのに読み出せず、買ったまま積んでしまっている…。

ホロヴィッツは『カササギ』シリーズでも、作中作の著者アラン・コンウェイを筆頭に何故か「邪悪なゲイ」を多く登場させてくるのがとてもキツイ。
著者のセクシャルマイノリティの描き方が危うくて毎回ハラハラするの、もう嫌だよ…。
特に2作目の『ヨルガオ』は相当にヤバかったと思ったが、誰も言ってなくない…?

『ヨルガオ』では作中作であるアランの小説の中で、障がいを持つ人物を変質者として描いていることに、主人公のスーザンが「障がいをよくないことと言っているにも等しい!」と、アランの本が偏見を助長することに憤っているのだが、それ、この『ヨルガオ』であなた(著者ホロヴィッツ)がセクシャル・マイノリティへ対してやってることでは!?と、今でも思い出すたびに新鮮にキレてしまう。

スレッドを表示

年末の各種ミステリランキング本で毎年上位のアンソニー・ホロヴィッツ、今年の新刊『殺しへのライン』は、謎の散りばめ方も、登場人物たちの会話にも行動にも無駄な描写が何ひとつ無かったことに最後一番驚いた。
ミステリ小説の伏線(のように読める、というものも含めて)は全て回収されるべきとは思っていないけれど、ここまでキッチリしているのも凄い。
もはや腹が立ってくるほどに描写に矛盾も無駄も無くて、ここまで徹底してるミステリも珍しいと思う。

ただこの『ホーソーンとわたし』シリーズにおけるホーソーンのホモフォビア設定は、今後彼のどんな背景や過去が明かされようと絶対にダメだよ…。
「納得できる」ゲイ嫌いの「理由」が描かれるのかもしれないと想像するのもしんどい。
そこに触れる感想を全く見かけないので、新刊が出るたびに起きる絶賛ムードには毎度モヤモヤしている…。

『ダ・ヴィンチは誰に微笑む』
『ロスト・レオナルド』

ロシアから国外脱出した新興財閥(オリガルヒ)が買い手に名乗り出て、その代理人はジュネーブでアートを金融資産として保管する大倉庫「フリーポートの王」。
彼が売買契約時にオリガルヒから5千万ドルをちょろまかす事件などは、ミステリ小説やドラマで見ることそのままが現実で起きていてビックリした。

クリスティーズによる、エモーショナルさを最大に利用して大衆に訴えかける(ディカプリオまで使った)あざといプロモーション戦略の大成功は、改めて見るとグロテスクだなあ…。

スレッドを表示

『ダ・ヴィンチは誰に微笑む』と『ロスト・レオナルド』を続けて鑑賞。

史上最高額で落札された「サルバトール・ムンディ」を巡るドキュメンタリー。補完し合う内容で2作とも面白かった。

真作か否かの論争や疑惑は置き去りに、過熱するマネーゲームの果てに国同士の外交問題、作られた熱狂に乗っかる大衆…。
ダ・ヴィンチ展に際しルーヴル美術館による鑑定では真作とされなかったが、フランスがサウジアラビアとの外交を優先していたら、サウジの要求をのんで真実を捻じ曲げ真作と結論づけた(その場合用に制作済みだった図録はお蔵入りしたがが、流出した)ということ…?

『ダ・ヴィンチは誰に微笑む』ではフランスが「国とルーヴルの信頼性を守る道を選んだ、(ロンドンの) ナショナル・ギャラリーは軽率だったね!」と言いつつ暗部も隠しきれていなくてエグいし、『ロスト・レオナルド』では真作であると信念を持つ修復士ダイアン・モデスティーニに迫る撮り方がエグかった。

エリザベス・ストラウト『私の名前はルーシー・バートン』、すごくすごく良かった。

「私」が経験した過去の様々な出来事の回想が、ばらばらな時間軸で語られる。言ってしまえばそれだけなのに、めちゃくちゃ好きだ。
交わした会話の引っ掛かり、忘れがたい感情、今も残るその感覚。今となっては曖昧な、しかし確かな感触を伴う記憶の断片の積み重ね。

人生における些細な記憶や感情は自分の裡にだけあるもので、それを言葉にしたり残したり誰かと共有するわけでもなく、しかし消えたりはせず、ふとした瞬間に記憶が鮮やかに浮かび上がってくる。
読んでいる最中は物語と並行して、自分の裡にもある、今は沈んでいる感覚をずっと探っていた。

そういえば昨日投稿した画像に、「閲覧が難しいユーザーへの説明」を入力したつもりだったけど、表示されてない…?ブラウザ版だと出ているとかなのかな…

10月に買った本。

アフガニスタンの女性作家たち18名による短篇集『わたしのペンは鳥の翼』は、作家たちが虚構の物語にのせた現実の苦難とその表現に衝撃を受けた。
今年2月にイギリスで出版されたこの本が今日本で手に取れることに感謝。
23篇の作品はもちろん、このアンソロジーをめぐる経緯と2021年のタリバン支配前後の女性作家たちの状況も詳しく記した序文と後記、古屋美登里さんの訳者あとがきも含めて、作家たちと同時代に生きている今この時に、広く読まれてほしい。

Fedibird

様々な目的に使える、日本の汎用マストドンサーバーです。安定した利用環境と、多数の独自機能を提供しています。