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『リカーリング・シフト 製造業のビジネスモデル変革』(青嶋稔)

リカーリングビジネス(=製品の販売後も顧客と取引を継続できるビジネスモデル)について、リーディングカンパニーの事例を用いながら、リカーリングビジネスを導入するための提言を行う。私のような担当者レベルより上の部課長レベルが読んだ方が行動に直結させやすいため「刺さる」度合いは高そうだったが、彼らがなにを考えているのかを推測する材料となった。端的に、リカーリングビジネスとは、従来の売り切り型ビジネスとはビジネスモデルが全く異なるものであるため、ビジネスマインドの再定義が必要との主張。本書は、なにをどう再定義すべきかを説く。
紹介された各社ともコングロマリット的な超巨大企業であるため、明日から導入できるものではない(そもそもリカーリングビジネスとはそのようなものではない)が、スモールスタートでもそう目指していくことが重要なのだろう。
そもそも本書を手に取ったきっかけとは、私の職場のいくつかの製品が「リカーリング」と定義されたことである。何となくのイメージしかなかったが、具体的なビジョンを持てるようになった気がした。意識合わせに使えるかもしれない。

『エフェクチュエーション 優れた起業家が実践する「5つの原則」』(吉田満梨・中村龍太)
amazon.co.jp/エフェクチュエーション-優れた起業

大組織ではない小規模な個人やスタートアップのためのプロジェクトの走らせ方を解説する。スタートアップを立ち上げた友人に教えてもらったのだが、個人事業主であるところの作家(同人作家)にも通ずる原則だろう。

1.「手中の鳥の原則」
ないものねだりをしないで、自分が保有していて確実に使える資源(手段)からスタートする。その手段から生まれる効果を大切にする。
2.「許容可能な損失の原則」
なにが得られるかではなく、なにを失うことができるか、からスタートする。チャレンジの損失が許容できる範囲ならまたチャレンジできる。
3.「レモネードの法則」
望んだものが手に入れられなかったときに、それを新たなチャンスとリフレーミングできるか。甘い果物ではなく酸っぱいレモンしか手に入らなかったときでもレモネードを作れる。
4.「クレイジーキルトの法則」
いかに多様なパートナーを作れるか。直接の顧客にならなかったとしてもチャンスをもたらしてくれる可能性はある。
5.「飛行機のパイロットの法則」
予測に基づく行動ではなく、コントロールできる範囲での行動に焦点を当てる。

『他者と働く 「わかりあえなさ」から始める組織論』(宇田川元一)

平田オリザが推薦文を書いていたため手に取った。著者は「わかりあえなさ」を扱う点では平田と共通の課題意識を持っているが、「組織論」とあるように、よりspecificな課題、つまり会社ではたらく私たちサラリーマンに向けての本だった。繰り返し書かれるのが「自分のナラティヴ(立場)をいったん脇にやって、相手のナラティヴ(立場)を眺めてみる」ということ。本書はその先も語るのだが、いったん自分の判断を留保して相手の判断に耳を傾けてみることの重要性を滔々と説いていた。また、印象に残ったのは「仕事のナラティヴの中で主人公になる」というフレーズ。誰でもなく自分自身のナラティヴを確立することだと私は解したが、いいフレーズなので使わせてもらおうと思った。
amazon.co.jp/他者と働く──「わかりあえなさ」か

『外資系コンサルのスライド作成術ー[作例集]』(山口周)

仕事で幹部層向けのプレゼンをすることになったので。スライドの「型」が多く収録されているのだが、そのものを流用するよりも、1枚のスライドに詰めるべきメッセージをどんな観点から分割できるか発想するためのトリガーという感じだった。手の届くところに置いておき、都度見直そう。
amazon.co.jp/外資系コンサルのスライド作成術-作

はてなブログに投稿しました
240731 2024年7月度月報 - 箱庭療法記
ラノベ3.5万文字、ジャズ9枚、本12冊でした。
yobitz.hatenablog.com/entry/20
 

『テクノ新世 技術は神を越えるか』(日本経済新聞社)

円城塔と津村記久子の短編を目的に。それぞれ、テクノロジーそのもの中心とテクノロジーに翻弄される人間中心と、好対照だった。両者とも持ち味が活かされていて読めて良かった。本編はノーコメント。

『サイバースペースの地政学』(小宮山功一朗・小泉悠)

素直に興味深かった。タイトルには『サイバースペースの』とあるが、それを支えるのはフィジカルなケーブルとそこに接続されたフィジカルなサーバーであるということに尽きる。フィジカルな存在である以上は、容易に破壊工作が行われうる……。そのリスクを推し量るチャレンジが本書の読みどころである。サイバーをフィジカルな視点から解説した本は(少なくとも私は知らないが)貴重に思われるし、なによりデータセンターや海底ケーブルやエストニアまで足を運んで実地で取材しているのが気に入った。力の入ったルポである。一つのベンチマークとなる一冊だろう。
amazon.co.jp/サイバースペースの地政学-ハヤカワ

『半導体最強台湾』(李世暉)

ダメ。台湾を中心とする地政学を扱うのだが、すべてフンワリとしたオピニオンで、極めつけは論点出しに「ChatGPTに訊いてみたところ~」とか出てきて投げた。お前が考えんかい。しっかりした著者に見えて期待していたので残念至極。

『TUGUMI』(吉本ばなな)

ドライでありながら瑞々しい。情景描写と直接的な内面の描写とのバランスに秀でているように感じられた。淡々と情景が描写されたかと思えば、それに対する反応として独白がある。独白はあくまで情景に対する反応の体裁を取っているが、明らかにそれより深い洞察から生じたものである。
筋書きとしては(2024年にエンタメ小説を書こうと手に取った不誠実な読者にとっては)シンプルでイベントの数も少ないのだが、その間を埋める情景や内面の描写がまったく埋め草になっておらず、むしろその描写こそがページをめくる手を止めさせない。次に彼女たちは何を「思う」(≠「する」)のだろうと想像させては、毎回それを上回る複雑な描写を見せてくれた。
吉本ばななの長編を読むのは初めてだったが、何作かさらに読んでみよう。
amazon.co.jp/TUGUMI-つぐみ-中公文庫-吉

『オフ・ブロードウェイ奮闘記』(中谷美紀)

1人3役が求められる演劇『猟銃』をブロードウェイで演じた中谷美紀の手記。1ヶ月に及ぶ公演はトライアスロンのようだ、というのが印象的で、ひとつひとつの舞台への集中以上に、全公演に耐えるだけのメディケーションが重要とのこと。その完走のために完璧なプロフェッショナルが役者のみならずスタッフにも求められる様子が淡々と描かれていた。
直接の参考にはなりそうにないが、プロフェッショナルの態度を垣間見ることができた。演出家の「演劇という黄金の牢屋」という台詞はなにかで使いたい。

『2040年 半導体の未来』(小柴満信)

読むに値しない。ラピダスの中の人が何に賭けているかをアツく語るが、まだ始まっていないプロジェクトなのですべてフワフワと雲を掴むような話。

『半導体逆転戦略 日本復活に必要な経営を問う』(長内厚)

読みましたといった感。最先端技術での多品種展開を目指すラピダスへの期待が過大に膨らんでいると冷静に指摘し、むしろ枯れた技術のJASMが生み出すスケールメリットにこそ日本の活路があると説く。ラピダスの多品種展開、つまりスケールメリットを追わないビジネススキームは日本の製造業の必敗パターンであると解説する。二社の対比が面白かったが、半導体の歴史については類書のおかげで頭に入っており目新しい気付きはなかった。日米貿易摩擦を研究した韓国が残存者利益で勝てたところはなるほどね感はあった。

『青春ブタ野郎はシスコンアイドルの夢を見ない』(鴨志田一)

イベントの繋げ方(Yes, but...式)が巧み。イベントのためのイベント感、言い換えると「ダンドリ感」が薄い。それぞれのイベントが読者の感情を動かすことに寄与しているからだろう。

『演劇入門』(平田オリザ)

再読に次ぐ再読。今回はやや俯瞰して読んでみた。
本書はあくまで「演劇」その中でも「一幕もの」のための一冊。つまり、一つの場所や登場人物で繰り広げられる物語のための手引きだ。それゆえに当たり前なのだが、エンタメ小説やマンガといった複数のシーンから成る物語の作り方を教えるものではない。それを断った上で、やはりエンタメ小説にも適用できるノウハウが詰まっている。
一幕ものは一つの空間や登場人物しか使えないために、観客への情報の出し方が著しく限られる。本書の読みどころは、その情報の出し方のノウハウであり、最重要なのは「セミパブリック」という概念だ。プライベート(内部)とパブリック(外部)の中間に位置する。例えば、葬儀所のような。個人と親しかった親族(内部)ー仕事の関係者(中間)ー出入り業者(外部)が出入りする空間だ。三者の間の情報の濃度の違いこそが、情報を観客に与えるためのきっかけとなる。

amazon.co.jp/演劇入門-講談社現代新書-平田オリ

『777』(伊坂幸太郎)

伊坂幸太郎はエンタメを書かせたらきっちり及第点を出してくれる。プロのエンタメ作家。
こわい男から逃げようとする記憶力抜群の女を、不運な殺し屋がなんやかんやあって助けるハメになってしまう密室エンタメ。伊坂は殺しのアクションを描けば軽快で、殺しのハウツーにはロジックもあり、読者が忘れた頃に姿を現すお手本のようなミステリも仕掛けられる。
映画にすると二時間に収まるし、映像としても見どころがあるだろう、こういう真っ直ぐなエンタメを読むとひたすら勉強になる。
最も勉強になったのは舞台選び。密室になったのは二十階建ての高級ホテルなのだが、高級ホテルだけあって空間にバリエーションがある。密室モノでも手札をシンプルにする必要は全くなくて、物語の要求に応じて増やしていいんだ。そういう発見があった。
数多いる登場人物の使い方も卓越している。同じ目的を有する複数の人物は要素が共通する一つのチームにまとめてしまって、読者の認知の負荷を減らしている。で、ミステリのタネはその認知の隙間に差し込んでおく。異なるチームはしっかり毛色を変えておく。重要な登場人物は一気に出し切ってしまう。重要じゃなくなったらとっとと退場頂く。見事。
amazon.co.jp/777-トリプルセブン-伊坂-幸太

『生成AI 真の勝者』(島津翔)

2024年春前後の生成AIを巡る状況を概観するには楽な一冊かしら。どの企業が誰と組んでいてどこに投資していて……という相関図を頭に描くのに使うイメージ。ラピダス社長の小池淳義氏と『半導体戦争』のクリス・ミラー氏のインタビューは必読。
ところで、フェイスブックのメタ社が開発中の生成AIであるMTIAについて「同社は、MTIAをフェイスブックやインスタグラムなどの既存アプリのコンテンツ・広告表示に利用するほか……」との記述があって、地球の限りある資源が詐欺まがいの広告へと消えていく様子が目に浮かんだ。
amazon.co.jp/生成AI-真の勝者-島津-翔/dp

『Think Fast, Talk Smart』(マット・エイブラハムズ)

会話を有意義にするための一冊。コミュニケーションのためには相手を「聴く」ことが大事だと聞かされてきた。だが、「聴く」ことが何を意味するか語られることは少なかった。本書はその「聴く」に紙幅を割いたことが特徴だ。
「聴く」とは何か。一言で言えば、相手のニーズを汲み取ることだ。この会話に何を求めているのか、どんな会話がされたら嬉しいのか。それを相手の様子から探すことである。
ただ、注意しなければならないのは、会話とは正解を探すゲームではないということだ。ニーズと正解の違いは何か? 前者は相手を思いやった言い方であり、後者は自分の満足のためのものである。会話は「聴く」行為であり、相手のためのものであり、その結果として返礼を得られる。
本書はさらに踏み込み、互いの「聴く」を導く構成まで説く。六のシチュエーションが例示されていたが、一つだけ覚えておきたい。
「何」ー「それが何」ー「それで何」の構成。まずトピックを提示し、続いて説明し、最後にそのトピックによってどんな変化が得られるか、を示す型だ。

ほら、この感想もそうなっているでしょう?
amazon.co.jp/Think-Fast-Talk-S

『音と脳 あなたの身体・思考・感情を動かす聴覚』(ニーナ・クラウス)

正直、思ってたんと違ったかな。脳のはたらきそのものに割かれる紙幅が多く、期待していた思考・感情(というより、音によって形成される「社会」)は少なかった。複数の被験者の間でリズムを揃えると被験者の間に絆が生まれるという実験結果が一番記憶に残った。そういうのをもっと読みたかったが。

『会社四季報プロ500』
眺めましたといった感。四季報本体はスルーでこっちだけ読めばいいかな。

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