(掌編)扇いでくれた
どういうことだ。よりによってこんな時に壊れなくてもいいじゃないか、エアコン。
はあ、とあえて大きくため息をつく。スマホを手にして、修理会社を検索する。良さそうな会社に連絡すると、修理に行けるのは明後日になるという。仕方が無いのでその条件でお願いして、電話を切る。ソファに倒れ込む。その時、ある物の存在を思い出した。
そうだ、うちわがあった。何か買い物した時に貰った。部屋を見回すと、それは、雑誌の上に無造作に置かれていた。手にする。扇ぐ。風が来る。
「ぬるい……」
そりゃそうだ。ここにある空気を動かすだけだから。それでも扇ぎ続けた。うちわなんて使うの、久しぶりだ。
ソファに寝転がって、顔の辺りでぱたぱたとうちわを動かす。あれ、こんな光景、昔にも見たことがある。幼い僕の顔や、身体に、うちわが優しい風を送ってくれた。あの時、扇いでくれたのは……母だ。僕は熱を出して横になっていた。そんな僕を心配して、横についていてくれたのだ。
そんな感情が彼女に、今はかけらもないとしても。あの時の僕は、きっと愛されていた。
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(掌編)後ろから
「島田! 鎖骨かうなじか、どっちだ!」
「うなじ」
クラスメイト達がまた不毛な議論を始めていたが、これは即答だ。うなじだろう。そう、この間、目撃することができたんだ、彼女のうなじを……。ささっと結んだポニーテールだったから、後れ毛も出ていた。それがまたよかったんだよなあ……。
「おーい、島田、戻ってこい」
目の前で手をひらひらされて、我にかえった。
「あ、ごめん」
「鎖骨派の意見も聞いてくれ」
「ああ、聞いてやる。揺らがないけどな」
あの思い出がある限り、俺はうなじ派だ。
「鎖骨はあれだよ、胸への入り口なんだよ」
「ほう?」
「それに反して、うなじはただの後ろ姿だろう」
「後ろからいけばいいじゃないか」
何気なくつぶやいたら、クラスメイト達が一斉に引いた。
「え、何、島田、積極的」
「すごいな……」
「なのに、俺らの妄想話に巻き込んでごめんな……」
「ちょっと待て、俺のも妄想だから!」
言ってから、悲しくなった。そう、妄想。彼女のうなじにそっと唇を寄せるだとか、そんなの、無理。
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