8月に読んだ本
・三体 死神永生(上)/劉慈欣
・三体 死神永生(下)/劉慈欣
・精霊に捕まって倒れる/アン・ファディマン
・水中の哲学者たち/永井玲衣
・人はどう死ぬのか/久坂部羊
「三体」、恋愛描写は最後まで苦手だったけどSFパートと展開の読めなさには圧倒された。2の黒暗森林で終わりにして良かったと言う感想もよくみるけど、私は死神永生あってのひとつの物語だと思う。
「人はどう死ぬのか」もすごく良かった。「延命治療はしません」と日頃言うのなら、実際にいつどういう選択をすべきなのか。そもそもどうして人は死を怖がるのか。他にも死への恐怖や安楽死問題など死に関するテーマをかなりはっきりとした物言いで書くので、少し驚くけど納得する。人によっては拍子抜けするかもしれない結論も私には響いた。
8月に観た映画
・ウーマン・トーキング
・哭声
・1987、ある闘いの真実
・ベルファスト
「ウーマン・トーキング」
観た後しばらく呆然とした。妄想とねじ曲げられた女達の計り知れない傷と痛み。オーガストが早期教育論を信じると言っていたように、私は対話の可能性を信じたい。
「哭声」
村の怪異はあの日本人のせいなのか?だけでも撮れたと思うのに、自分がなにを掬い取るかで信仰や事実が揺らぐさまも描いていて良かった。ミン・ジン・リー「パチンコ」にも聖職者のイサムがいたので少し驚いた。
「1987、ある闘いの真実」
たった30数年前の史実のあまりに辛い史実。この頃日本はバブルだったなんて信じられない。韓国は痛みに創作で向き合う熱意や覚悟が群を抜いているなと思うけど、それは度重なる激動を生き抜いてきた証でもある。この国とはあまりにも異なる歴史になんだか恥ずかしくなる。
読んでいて凄く辛かった。どちらも最善を尽くしたいだけ、でもそれは異文化から見たら簡単に理解出来るものではない。
そもそも「ラオスからの難民として来たモン族が医療を受けられるのはアメリカのおかげだ、どうしてもっと歩み寄らないのか」と考えるアメリカ人に対して、モン族は「アメリカの代理戦争で多くを犠牲にして戦ったのに、どうして尊重してくれないのか」と考える。代理戦争については知らないアメリカ人も多い。(執筆時)
お互いの文化を尊重するということが、とりわけ緊迫した医療現場ではどれだけ難しいかというのがひしひしと伝わった。アメリカ人にはアメリカ人の誇りがあるように、モン族にも彼らの歴史と誇りがある。住む場所が変わってもそのアイデンティティは奪われてはいけない。
彼らが何をタブーとしていて何を望んでいるのか、分かり合えなくてもまずは分かり合おうとする姿勢がどれだけ大切なのかを感じた。
加筆された「15周年記念版に寄せて」、この本で知識を止めるのではなく、常にアップデートされていることを忘れてはいけないと書いてあり、それもまた強く印象に残った。
アン・ファディマン「精霊に捕まって倒れる 医療者とモン族の患者、二つの文化の衝突」読了。
1980年代のアメリカ、ある日モン族のリア・リーという女の子が救急で運ばれ、てんかんと診断される。一方モン族の両親はこれをカウダペ、「精霊に捕まって倒れ」たと考えた。カウダペはシャーマンになる素質のある特別な病いともされている。
医療者もリー家ももちろんリアを治したいと思っているのに、文化や言語の違いが重く立ちはだかる。西洋医療は薬に頼り、体に穴を開け、モン族はシャーマンに頼り、薬草を使い、生贄を捧げる。お互いにそれが最善だと信じてやまない。
だからどうして医者は娘を押さえつけるのか、どうしてリー一家は薬の容量を守らないのかが全く分からない。リアは病院に行くたびに悪化しているように見え、医者から見たら薬の容量を守らないからリアはどんどん悪化しているに違いないと感じる。そうして少しずつ壁が作られ、双方の関係に軋轢が生まれてしまう。
イラン・パペ「パレスチナの民族浄化」読了。
民族浄化がどれほど計画的に行われたものだったか、その中で何が起きたのか時系列順で事細かに説明されていく。
村人の男性が一度に殺され、唯一生き残るのは彼らを埋めるための要員としてだけ。そして終われば殺される。人間であることを辞めたくなるような暴力ばかり…。
歴史的な建物が破壊され西洋風のショッピングセンターや公園になったと書いてある所は何度読んでも辛い。
イスラエル指導部が人々に「第二のホロコースト」が起こると警告したのも、恐怖によって団結させ自分達の攻撃性を正当化するため。自分達がホロコーストを起こしているとは考えもしない。
入植のためのユダヤ民族基金との癒着、UNHCRを妨害し帰還権を認めさせないためにシオニスト達が作ったUNRWA。
※UNRWAは日常生活のサポートが主であり、難民の帰還には関与しない。ただ今回の資金停止問題は撤回すべきだと思っている。
村を「緑化」して環境保護のように見せるのも、まさに今起きているピンクウォッシングと繋がっている。
大崎清夏「目を開けてごらん、離陸するから」読了。
「あなたの言葉よ、どうか無事で」。
本のタイトルとこの言葉に惹かれて手に取ったら、内実はとても重みのあるものだった。
この言葉は国際詩祭で知り合ったベラルーシの二人の詩人に向けたもの。ベラルーシは東にロシア、南にウクライナと接している。
2023年現在もヨーロッパで唯一独裁政権が続いていて、反体制メディアへのアクセスは断絶、チャンネル登録やいいねをしたら逮捕される危険性がある。
その中で詩人として生きること、自由を求め続けることが彼らに取ってどれだけ危険で苦しいものか。それでも彼らは自分の言葉で語りかける。彼らが一番恐怖している言葉を使って。
著者の文章に強く惹かれた。
読んでいたら視界がぱっと開けるような明るさとエネルギーで、なぜか激しく泣きたくなる。個人的に小山田咲子さんと同じ熱量を感じる。
私にはこんな力強さはないかもしれないけど、それでも言葉にし続けよう。
映画、音楽と本。不穏な海外文学が好きです。