アン・ファディマン「精霊に捕まって倒れる 医療者とモン族の患者、二つの文化の衝突」読了。
1980年代のアメリカ、ある日モン族のリア・リーという女の子が救急で運ばれ、てんかんと診断される。一方モン族の両親はこれをカウダペ、「精霊に捕まって倒れ」たと考えた。カウダペはシャーマンになる素質のある特別な病いともされている。
医療者もリー家ももちろんリアを治したいと思っているのに、文化や言語の違いが重く立ちはだかる。西洋医療は薬に頼り、体に穴を開け、モン族はシャーマンに頼り、薬草を使い、生贄を捧げる。お互いにそれが最善だと信じてやまない。
だからどうして医者は娘を押さえつけるのか、どうしてリー一家は薬の容量を守らないのかが全く分からない。リアは病院に行くたびに悪化しているように見え、医者から見たら薬の容量を守らないからリアはどんどん悪化しているに違いないと感じる。そうして少しずつ壁が作られ、双方の関係に軋轢が生まれてしまう。
読んでいて凄く辛かった。どちらも最善を尽くしたいだけ、でもそれは異文化から見たら簡単に理解出来るものではない。
そもそも「ラオスからの難民として来たモン族が医療を受けられるのはアメリカのおかげだ、どうしてもっと歩み寄らないのか」と考えるアメリカ人に対して、モン族は「アメリカの代理戦争で多くを犠牲にして戦ったのに、どうして尊重してくれないのか」と考える。代理戦争については知らないアメリカ人も多い。(執筆時)
お互いの文化を尊重するということが、とりわけ緊迫した医療現場ではどれだけ難しいかというのがひしひしと伝わった。アメリカ人にはアメリカ人の誇りがあるように、モン族にも彼らの歴史と誇りがある。住む場所が変わってもそのアイデンティティは奪われてはいけない。
彼らが何をタブーとしていて何を望んでいるのか、分かり合えなくてもまずは分かり合おうとする姿勢がどれだけ大切なのかを感じた。
加筆された「15周年記念版に寄せて」、この本で知識を止めるのではなく、常にアップデートされていることを忘れてはいけないと書いてあり、それもまた強く印象に残った。