夏来健次編訳『ロンドン幽霊譚傑作集』(創元推理文庫)を頂いて読み終えたのですが、どうして訳されてなかったの…! と驚くくらい面白かったです。著名なウィルキー・コリンズから、準男爵で法廷弁護士の唯一世に出た創作まで、ヴィクトリア朝に書かれたロンドン舞台のゴースト・ストーリー全13篇中、12篇が初訳。語り口の良さで、どれも引き込まれました。
どれも面白いのですが、何百年も絵の中に潜み、再び自分の存在に気づいてくれる相手を待ち続けた女性との束の間の愛を描く「黒檀の額縁」や、出版社社長の元を訪れる幽霊となった女性作家のキャラ立ちがよすぎて笑ってしまう「シャーロット・クレイの幽霊」など印象的でした。あと特異なのが、姿の見えない、でも実体のある幽霊が現れ取っ組み合う「ウェラム・スクエア十一番地」で、描き方が正に透明人間なんですね。面白い…。
三月三日は上巳の節句ですが、『奏で手のヌフレツン』には初歯(ういし)の節苦や、五月(いつき)の節苦、腿(もも)の節苦など、痛みに関する儀式がいろいろ出てきます。痛みに耐えるほど苦徳(くどく)が高まると考えられている世界です。よろしくお願いします。
QT: https://fedibird.com/@dempow/111459371736220605 [参照]
マルコ・バルツァーノ著 関口英子訳『この村にとどまる』(新潮クレスト・ブックス)、素晴らしかった……! 家族や村の過酷な運命を遠くにいるはずの娘への手紙として書かれた物語で、その語りかけるような言葉はページごとに書き写したくなる表現に満ち、最後まで引き込まれ続けました。
舞台は北イタリアのチロル地方の、ダム湖に沈んだ実在の村(徹底した取材を行ったそう)イタリアのファシストたちに母語を奪われるなか、ダムの建設計画が立ち上がるも、そんなこと起きるわけがない、と一部の村人以外は誰も気にとめない。ファシストから解放してくれるかに見えたナチスは移住政策を行って村人を分断していく。戦争が終わった後も、ファシストと変わらぬ企業がダム事業を蘇らせて強行しようとし――そんな激動のなか、語り手の女性は静かに抗い続ける。
言葉の持つ力と無力さが綯い交ぜになったような大きな余韻のなか、読者である自分もまたその渦中にいることを気づかされます。
堀晃さんの最近の日記を読んでたら、「梅田地下オデッセイ」の舞台を堀晃さんと歩く企画が行われたらしい。
http://www.sf-homepage.com/mad-j.html
もし「皆勤の徒」短編版がお気に召しましたら、空から無数の生き物が降ってくる学園ものや、昆虫ハードボイルド、もふもふ隊商ものが連作短編として加えられた文庫版『皆勤の徒』もぜひ。
QT: https://fedibird.com/@dempow/111979766260551272 [参照]
『SFマガジン4月号』の特集は「BLとSF2」(監修 瀬戸夏子 水上文)。書評コーナーでは、あわいゆきさんが『奏で手のヌフレツン』について書いてくださっています。〝読者の固定観念を鮮やかに覆す球地の世界観〟連載第47回となる「幻視百景」では、ある惑星の希少な生き物を描きました。
伊達聖伸 木村護郎クリストフ編『世俗の新展開と「人間」の変貌』(勁草書房)をお送りいただきました。目次を見ただけで、ちょうどいま関心のあることにつながるテーマがいろいろ。
小川公代さんが、『クララとお日さま』『her』『オーランドー』などかから、「ポストヒューマンとAI少女」というテーマに迫っておられ、書くことにおける流動的な自己についての考察が興味深かったです。 [添付: 5 枚の画像]
「東京創元社 短編SFはおもしろい!」という電子書籍の100円均一セールが主要電子書籍サイトで行われています。わたしの作品では「皆勤の徒」短編版と「黙唱」が対象です。3月7日まで
松樹凛さんの初作品集『射手座の香る夏』(東京創元社)をお送りいただきました。第12回創元SF短編賞受賞作を含む4篇収録。解説(松樹さんへのインタビューも)は飛浩隆さん。私が特に好きなのは、イタリア南部で少女が9つの影を持つ少年と出会う幻想小説「影たちのいたところ」2月29日発売
とりしまです。Dempow Torishima 絵と小説をかきます。最新刊は長編『奏で手のヌフレツン』。著書に『皆勤の徒』(英訳版、仏訳版も)『宿借りの星』『オクトローグ』『るん(笑)』、高山羽根子さんと倉田タカシさんとの共著『旅書簡集ゆきあってしあさって』。SFマガジンで「幻視百景」連載中。