「これじゃあTOT優勝できない。私にはどうしても叶えたい願いがあるのに…」古泉瑠璃が叶えたい願いとは、【自分を捨てた元恋人たちへの復讐】。
瑠璃はこれまで、結婚を誓い交際した男性が3人ほどいたが、全員が若い女性に心を奪われ、自分の元を去っていった。いつか家庭を持つことを夢見て恋人に尽くしてきたが、5年前に振られたのを最後に瑠璃は独り身になった。
そんな彼女にとって、年齢を理由に見限られることは1番辛いことだった。瑠璃「また年齢のせいで大事なものを失っちゃうの……?」「私の…私の大事な時間を奪った男たちに復讐できてないのに……」「そんなの嫌だわ。私より不幸になって、苦しんでもらわないと割に合わない」
「……不幸?」瑠璃は自身の言葉に疑念が沸いた。「私って、今不幸なのかな」
翌日、夜──退勤後、入院していたみりあへのお見舞いに行った帰りだった。瑠璃は「今日は雑談でもしようかな─」と、疲れからか無意識にリルルの時の口調で呟いた。その時───
瑠璃の頭に強い衝撃が走った。
あまりの衝撃に瑠璃は意識が朦朧とし、後頭部を押さえて倒れ込んだ。後頭部に鈍い痛みが走る。自分は殴られたのだと自覚した。
頭を押さえながら振り返ると、そこには中肉中背の見知らぬ男性が立っていた。その男の顔は怒りに満ちていた。男性「リルルたゃは女子高生だ…こんな、こんな年増の女じゃない!」
男は瑠璃に掴みかかり、押し倒した。瑠璃「いやっ…やだ、誰か──!」中年「お前がリルルたゃの声を出すな!お前はリルルたゃじゃない!」
男は持っていた鈍器で瑠璃を再び殴った。その言葉で瑠璃は理解した。彼は水母リルルのリスナーなんだ。リルルを演じている人間が、本物の女子高生だと信じ込んでいたんだ。
彼は何度も瑠璃の頭部を鈍器で殴りつけた。何度も。何度も。何度も。
自分の崇拝していた少女の、理想とそぐわぬ部分を消そうとした。強烈な痛みで意識を手放しそうになりながら、瑠璃の頭の中に、水母リルルとして活動していた頃の記憶が流れた。
リルルが登録者数1000人以下の時代から応援してくれていた人たち。TouTubeをきっかけに生まれた繋がり。炎上した時も「年齢なんて関係ない」「リルルちゃんの人柄が好きだ」と言ってくれたコメントがいくつもあったことを思い出した。
そうだ。私は不幸なんかじゃなかった。幸せだったことを自覚できてなかっただけだ。復讐に囚われて、数字や否定的な意見ばかりを気にするようになってしまっていた。これはそんな私への罰なのだろうか。
私を殴っている彼も、水母リルルを愛していた者の1人だ。私の迂闊さで、彼の夢も壊してしまった。本当にごめんなさい。もし叶うなら、みんなが愛してくれた水母リルルは、どうか生き続けてほしい。瑠璃はそう願いながら、意識を手放した。─────────────
『続いてのニュースです』
『東京都○○区で、40代の女性が集合住宅の路地で頭から血を流し倒れているのが発見されました』『女性は鈍器のようなもので頭部を複数回殴られており、意識不明の重体です。犯人はいまだ見つかっておらず──』古泉瑠璃が暴行された事件を見て、彼女と面識のある者たちは驚いた。
そんな彼女の不幸が報道された夜、“それ”は動いた。
『プランクトンのみんな〜こんリル〜!』
『みんな今日もお疲れ様。最近ずっと寒いよね。さぁて、今日は雑談配信をしていくよー』
chapter4 END
旧惑星「そんな、どうして…」自身の経営する店のお客であった古泉瑠璃の不幸の報道に、旧惑星こと九星 護大悟は愕然とした。瑠璃とは親しい間柄だったことに加え、『女性』が不幸に遭ったという話は彼の心を痛めた。旧惑星「やっぱりこの国が変わらないと、そのためにも優勝しなきゃ……」旧惑星は強く拳を握った。
百連撃、ゆうちゃむ、ZarameP────相次ぐ顔見知りの不幸に、Minatoや餅付食人は『人気者』の代償を強く意識した。Minato「このままでいいのかな、オレ…」餅付「でも、せっかくこんなだけの登録者がいるのにやめるわけには…」それとは対照に、自分に自信を持って活動を続けるあっくん。
TOT開始から4カ月、TOTに参加するTouTuberたちの様々な思いが錯綜した。
モレソ「モモモ!人気者が落ちぶれるのたまんねぇレソ!次は誰が燃えるかな~」
???「おいおい、あんまり遊びすぎるなよ。モレソ」
前編 END
護大悟「よし、あとは音源提出するだけだな」動画制作がひと段落し、旧惑星こと九星護大悟は腕を大きく伸ばした。
昨今、幾度か事実無根の炎上を経験し、1000万以上いた登録者も半分以上減ってしまった。それでも信じてくれるファンは残ってくれた。しかし…この調子では優勝は期待できないかもしれない。護大悟の中にそんな不安が過ぎった。
TOTを優勝した際の彼の願いは、【全ての女性とニューハーフが安心して生きられる国を作ること】。それを願うようになったのは、あの日の出来事がきっかけだった──
─数年前─護大悟が当時付き合っていた女性が、1人での外出中に暴漢に襲われた。身体的にも精神的にも深い傷を負った彼女は、“男”という生き物全てに拒絶反応を起こした。それは愛する彼も例外ではない。
彼女に拒まれた護大悟は、彼女の気持ちを否定せず、寧ろ歩み寄った。性転換手術で身体を女性に変えることで、彼女が恐怖を抱かない存在になろうとした。しかし、体つきや声帯など、どうしても残ってしまう『男』の面影を、彼女は受け入れられなかった。
数日後、護大悟は彼女に別れを告げられた。
その後に知った、性転換した人間が現代社会で生きる難しさ。そんな中で同じ性転換仲間と出会い、悩みや苦労を分かち合えた。仲間たちと「自分たちのいられる場所を作ろう」と誓い築いたのが、ニューハーフバー『失楽園(ロストエデン)』。
旧惑星は自分たちのように居場所を求める者、社会に安心を求める者たちに寄り添える社会を作りたいと思うようになった。Top of the Tubeについて知ったのはこの頃だ。
護大悟「ん?」机に置いていたスマホの通知がひっきりなしに鳴った。これはSNSの通知だ。
…嫌な予感がする。護大悟はスマホを開いた。SNSアプリを開くと、見知らぬ人たちからのDMが複数件届いていた。旧惑星は息を飲み、一つのDMを開く。
『旧惑星さん女だったって本当ですか?』護大悟は驚いた。他のDMにも、旧惑星の性別を追求するような内容が書かれている。護大悟はその原因を見つけた。
SNS上に、自分のプライベート写真が何枚か貼られている投稿が発見された。おそらく隠し撮りされたものだ。その写真の旧惑星の身体付きは、女性であることがうかがえるものだった。彼のファンはそれを見て、旧惑星に直接性別を問いただしたのだろう。
──翌日、Minatoは動画編集の合間にSNSを開いた。自身の作ったVtuber『みなとちゃん』のアカウントの呟きを確認する。みなとちゃんの配信やSNS更新はMinatoが全て行っていたが、活動両立のため友人である“雲雀”にそれらを任せるようになっていた。それがリスナーにバレた様子は特にない。
Minato「これは……」Minatoはみなとちゃんの数日前の呟きに目を止めた。
このポストが投稿された前日は、Minatoが事実無根の女性問題で炎上した日だ。その翌日にみなとちゃんからのこのような呟き──察しのいいリスナーからは「Minatoが自身の炎上をネタにしている」と取られるだろう。
《湊の家》Minato「この呟きヒバリだろ?こういうネタはやめとこうぜ、誰がどう見るか分かんねーし…」
雲雀「え?あれ俺じゃないけど…湊の自虐ネタじゃなかったん?勇気あるなーって思ってたけど」Minato「え?」
2人は顔を見合わせた。どういうことだ。と確認してみたところ、どうやらお互い相手がやっていると思っていたみなとちゃんの配信や呟き、他者とのやりとりが複数存在した。
雲雀「まさかコレ誰かに乗っ取られたんじゃ…」Minato「まさか。ログイン履歴もないし、配信なんて乗っ取りでできるもんじゃ──」そんなやりとりの最中、突如MinatoのPCで配信画面が立ち上がる。
みなとちゃん「おはよう諸君〜⚓️」
その光景にMinatoと雲雀は驚いた。彼らのどちらかが操作しなければ動かないはずの“ソレ”が、ひとりでに動いているのだ。みなとちゃん「ご機嫌だねって?ふふーん♪」
「ついにみなとはこのチャンネルの侵略を完了したんだよね〜!これからここではみなとが配信していくよ!」
みなとちゃんの口元が妖しげな弧を絵描く。
「言ったよね?みなとちゃんは侵略者だって!」
【マテヨ&モレソによる真相解説】ミナトは初めて炎上した時、同じことを繰り返さぬためにMinato Channelとみなとちゃんの SNSアカウントに『炎上の可能性がある動画や投稿を検出するAI』を搭載していた。
しかしAIは「Minatoこそが炎上の可能性を孕んだ危険要素」だと判断。Minatoを炎上させて表舞台から排除することで、チャンネルを清廉潔白なみなとちゃんだけで運用していこうと考えたのだ。
────────
全ての真相に気づいたMinatoは、新しいチャンネルを作ってその経緯を説明した。これまでの炎上は自身が搭載したAIによってでっち上げられたものだということ、そのAIによってチャンネルから排除されたこと。しかしそのような突破な話を納得する人はそう多くなかった。
それでも残ってくれたリスナーたちと、心機一転自分のペースで活動していこうと意気込んだ。彼に向けられた疑いは、今後の彼自身の活動で潔白を証明していくだろう。それに、Minatoとってこれは嬉しい誤算でもあった。
TOT優勝への意欲は強くはなかったものの、優勝した際の願いは持っていた。その願いは、【みなとちゃんを自立した存在にすること】。みなとちゃんは自分の“好き”を詰めた存在である。だからみなとちゃんには自立してもらい、堂々と推したかった。
Minatoの願いは、思わぬ方で叶ったのである。
Minato「でももう炎上はしたくね〜」
chapter6 END
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Minato「これは……」
Minatoはみなとちゃんの数日前の呟きに目を止めた。