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百連撃「何しやがる!!放せバカ!!」

通行人A「え?あれ百連撃じゃない?」

通行人B「なんか捕まってる笑」

通行人C「ウケる撮ろ」

百連撃「あぁ!?ざけんなテメーら!!見せもんじゃねーぞ!」

百連撃「撮ってんじゃねぇ!しょーぞー権侵害だぞ!!!」

横田百連撃こと横田 好生は容疑者として全国報道された。

百連撃は被害を訴えた人たちに示談金を渡したことで被害届は取り下げられたが、多くの人が横田百連撃を犯罪者と認識した。
示談金で財産を失い、件の不適切な動画でチャンネルも凍結された百連撃。
彼のこの後の人生が過酷であることは言うまでもない。

百連撃「TouTubeなんかこりごりだ〜!トホホ〜」

TOTの開催が宣告され、ゆうちゃむがTouTuberデビューしてから数ヶ月──
彼女はSNSにてエゴサーチをしていた。
「はぁ?なんでこんなことで炎上すんの。暇人ってホント細かいとこ気にするなぁ〜」

ゆうちゃむのTouTubeチャンネル『ちゃむch』は、破竹の勢いで登録者を伸ばしていった。
しかし、登録者が増える度にまとわりつく『アンチ』の数も増えていく。
自分のチャンネルは他のTouTuberに比べても、アンチの母数が多いということは自覚していた。

ゆうちゃむの中でその理由は確定している。
冴えない人生を歩む者たちが、自分の成功に嫉妬し、恨みつらみを吐き散らしているのだ。
昔からそのような嫉妬は多少なりぶつけられてきた。
そのような悪意に心を乱す必要はないことも、ゆうちゃむは理解していた。

「今度こそ成功するんだ……」
優勝を夢みるゆうちゃむの脳に、過去の記憶が蘇る。
─────────

『ゆうちゃむ』こと佐々木 真由は、幼少期から容姿の良さで周囲から持て囃されてきた。
そんな彼女は高校生の頃、都会に遊びに行った時に芸能事務所の人間からスカウトを受ける。

『まゆゆ』という芸名で読者モデルデビューした真由は、それを学校の友人たちに伝えた。
「すごー!真由有名人じゃん!」
「いいなー美人うらやま〜」

周囲の人たちから向けられる羨望に、真由は心が満たされた。
自分の美しさは学校の範囲に収まらない、世間に通用する美しさなのだと自負するようになった。
しかし、読者モデルとしての活動は真由が思い描いていた方向にはいかなかった。

読者モデルの世界には、彼女と同等、いやそれ以上に容姿の優れた女の子が何千人といた。
特別だと思っていた自身の美しさが初めて埋もれる経験をした。
真由にとっては人生最大の挫折である。

モデルとしての活躍が期待できなくなると、周囲の人間は真由を持て囃すこともなくなった。
中には、そんな彼女を陰で嘲る声もあった。
真由は焦った。
今更一般人の生活に戻れば、華々しい生活とは正反対の惨めな人生を歩むに違いない。
自身の未来に大きく期待していた真由にとって、それは許されざることだった。

自身の価値を高めようと、運動や、健康的な食生活、スキンケアやメイクの勉強は欠かさずやった。
高いお金をつぎ込み、美容整形にも踏み込みんだ。
しかしそれでも彼女がモデルの世界で輝くことはなく……
20代半ば。読者モデルの世界では“ベテラン”とされる域に達した頃、彼女はついにその道を諦めた。

そんな経験をして数年、
彼女の野望を呼び覚ました企画が
『Top of the Tube』だった─────

TOTを優勝した際のゆうちゃむの願いは
【売れること】。
現在のゆうちゃむのチャンネル登録者数
198万6782人は、十分にその願いを果たしていると言えた。
しかし、長年の挫折で満たされなかった彼女の欲望はさらなる高みを求めた。

「手頃にバズるには強めの発言をしていかないとダメだよね〜…」
それからのゆうちゃむは過激な発言が目立つようになった。
その中には、人気急上昇中のライバルたちを貶める発言も多くあった。

「身長175cm以上ない男は人権ないよ𐐃 ·̫ 𐐃」
「ZaramePってボカロPなの?知らなかった笑 曲より自分を売ってない?」
「女子で脱毛しない女とか美意識低すぎ(笑)恥ずかしくないの?」

それらの発言は、ゆうちゃむに関心のなかった者たちの目にも止まり、彼女に敵意を向ける者たちの数が増えていった。
数を増やしたアンチたちは、ゆうちゃむを貶めるための弱みを探り、暴いていった。

【ゆうちゃむ、名もなき読者モデルだったwww】

そんな文言と共にSNS上で明かされていくゆうちゃむの経歴。

『整形疑惑アリ。過去の写真と見比べ豊胸手術をしている可能性大(B→H)』
『鼻整形。唇ヒアルなど』
『年齢詐称?モデルの活動期間から考えると現在28歳説濃厚!』

ゆうちゃむ「なんだよこれ!誰がこんなもの見つけたんだよ……!」
ゆうちゃむのアンチたちは、それらの情報を武器に『ちゃむch』のコメント欄や
ゆうちゃむのSNSアカウントに誹謗中傷のコメントを書き込んだ。

今までの嫉妬に満ちただけの誹謗中傷とは違い、自身の劣等感を刺激していくそれらの言葉はゆうちゃむの心を蝕んだ。

それから数日後、
ゆうちゃむのチャンネルやSNSアカウントは、なんの予告もなく突如閉鎖された。
一時の名声を得て転落したゆうちゃむのその後を知る者はいない。

「所詮は量産型配信者」とアンチから捨て吐かれ、彼女のその後を知ろうとする者はいなくなった。

自分の作った曲を全世界の人に知ってもらう。
それがZaramePこと立花みりあの夢だった──

初めて動画を投稿したのは高校の頃。
引きこもりがちだった彼女の唯一の自己表現が『音楽』だった。
しかし、無名の彼女の曲が人々の目に留まることはなく、ボカロPとして大成することのないまま社会人になった。

そんな中で知った『Top of the Tube』の存在。
自分の音楽が周知されれば、正当な評価をもらえるかもしれない。
そんな淡い期待を抱き、ZaramePはTOTへの参加を決意した。

─────
瑠璃「『かすてら』、私の職場でも聴いてる子が多いみたいなの。若い子の間で流行ってるそうよ」
嬉しそうに報告する女性は、みりあの母の友人、古泉瑠璃だ。
『かすてら』はみりあが一ヶ月前に出した新曲だった。

みりあ「そうなの?確かに今まであげた中でも1番伸びたけど…」
瑠璃「本当にいい曲だもの。やっぱりみりあちゃんは才能あるのよ」
みりあは嬉しくなった。
TouTube活動に専念するようになってから、曲の再生数は増え、登録者数も増えてきた。

しかしこれは音楽への純粋な評価だけではないことを、みりあは悟っていた。
というのも、みりあは自身の登録者数を増やすために、人気のTouTuberに倣ってゲーム実況やVlogで顔出し配信などを行っていた。

チャンネルのアナリティクスを見ると、新曲よりもそういった実写動画の方が需要が高いことがわかった。

学生時代から発達した身体を同年代の男子に揶揄われ、嫌な思いをしてきたみりあにとって複雑な気持ちではあったが、
これをきっかけに自身の音楽に興味を向けてくれるならと、容姿を武器にする覚悟を決めた。
それに、卑しさのない容姿への肯定的なコメントは素直に嬉しかった。

そこから2ヶ月後──

ZaramePの新曲『Zaratto』が異例のバズりを見せた。
いろんなインフルエンサーが『Zaratto』を歌うようになり、ショート動画の音源としてインターネットユーザーの間で流行した。

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そんな彼女にとって、年齢を理由に見限られることは1番辛いことだった。
瑠璃「また年齢のせいで大事なものを失っちゃうの……?」
「私の…私の大事な時間を奪った男たちに復讐できてないのに……」
「そんなの嫌だわ。私より不幸になって、苦しんでもらわないと割に合わない」

「……不幸?」
瑠璃は自身の言葉に疑念が沸いた。
「私って、今不幸なのかな」

翌日、夜──
退勤後、入院していたみりあへのお見舞いに行った帰りだった。
瑠璃は「今日は雑談でもしようかな─」と、疲れからか無意識にリルルの時の口調で呟いた。
その時───

瑠璃の頭に強い衝撃が走った。

あまりの衝撃に瑠璃は意識が朦朧とし、後頭部を押さえて倒れ込んだ。
後頭部に鈍い痛みが走る。自分は殴られたのだと自覚した。

頭を押さえながら振り返ると、そこには中肉中背の見知らぬ男性が立っていた。
その男の顔は怒りに満ちていた。
男性「リルルたゃは女子高生だ…こんな、こんな年増の女じゃない!」

男は瑠璃に掴みかかり、押し倒した。
瑠璃「いやっ…やだ、誰か──!」
中年「お前がリルルたゃの声を出すな!お前はリルルたゃじゃない!」

男は持っていた鈍器で瑠璃を再び殴った。
その言葉で瑠璃は理解した。
彼は水母リルルのリスナーなんだ。
リルルを演じている人間が、本物の女子高生だと信じ込んでいたんだ。

彼は何度も瑠璃の頭部を鈍器で殴りつけた。
何度も。何度も。何度も。

自分の崇拝していた少女の、理想とそぐわぬ部分を消そうとした。
強烈な痛みで意識を手放しそうになりながら、瑠璃の頭の中に、水母リルルとして活動していた頃の記憶が流れた。

リルルが登録者数1000人以下の時代から応援してくれていた人たち。
TouTubeをきっかけに生まれた繋がり。
炎上した時も「年齢なんて関係ない」「リルルちゃんの人柄が好きだ」と言ってくれたコメントがいくつもあったことを思い出した。

そうだ。
私は不幸なんかじゃなかった。
幸せだったことを自覚できてなかっただけだ。
復讐に囚われて、数字や否定的な意見ばかりを気にするようになってしまっていた。
これはそんな私への罰なのだろうか。

私を殴っている彼も、水母リルルを愛していた者の1人だ。
私の迂闊さで、彼の夢も壊してしまった。
本当にごめんなさい。
もし叶うなら、みんなが愛してくれた水母リルルは、どうか生き続けてほしい。
瑠璃はそう願いながら、意識を手放した。
─────────────

『東京都○○区で、40代の女性が集合住宅の路地で頭から血を流し倒れているのが発見されました』
『女性は鈍器のようなもので頭部を複数回殴られており、意識不明の重体です。犯人はいまだ見つかっておらず──』
古泉瑠璃が暴行された事件を見て、彼女と面識のある者たちは驚いた。

そんな彼女の不幸が報道された夜、“それ”は動いた。

『みんな今日もお疲れ様。最近ずっと寒いよね。
さぁて、今日は雑談配信をしていくよー』

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