『続いてのニュースです』
『東京都○○区で、40代の女性が集合住宅の路地で頭から血を流し倒れているのが発見されました』『女性は鈍器のようなもので頭部を複数回殴られており、意識不明の重体です。犯人はいまだ見つかっておらず──』古泉瑠璃が暴行された事件を見て、彼女と面識のある者たちは驚いた。
そんな彼女の不幸が報道された夜、“それ”は動いた。
『プランクトンのみんな〜こんリル〜!』
『みんな今日もお疲れ様。最近ずっと寒いよね。さぁて、今日は雑談配信をしていくよー』
chapter4 END
旧惑星「そんな、どうして…」自身の経営する店のお客であった古泉瑠璃の不幸の報道に、旧惑星こと九星 護大悟は愕然とした。瑠璃とは親しい間柄だったことに加え、『女性』が不幸に遭ったという話は彼の心を痛めた。旧惑星「やっぱりこの国が変わらないと、そのためにも優勝しなきゃ……」旧惑星は強く拳を握った。
百連撃、ゆうちゃむ、ZarameP────相次ぐ顔見知りの不幸に、Minatoや餅付食人は『人気者』の代償を強く意識した。Minato「このままでいいのかな、オレ…」餅付「でも、せっかくこんなだけの登録者がいるのにやめるわけには…」それとは対照に、自分に自信を持って活動を続けるあっくん。
TOT開始から4カ月、TOTに参加するTouTuberたちの様々な思いが錯綜した。
モレソ「モモモ!人気者が落ちぶれるのたまんねぇレソ!次は誰が燃えるかな~」
???「おいおい、あんまり遊びすぎるなよ。モレソ」
前編 END
護大悟「よし、あとは音源提出するだけだな」動画制作がひと段落し、旧惑星こと九星護大悟は腕を大きく伸ばした。
昨今、幾度か事実無根の炎上を経験し、1000万以上いた登録者も半分以上減ってしまった。それでも信じてくれるファンは残ってくれた。しかし…この調子では優勝は期待できないかもしれない。護大悟の中にそんな不安が過ぎった。
TOTを優勝した際の彼の願いは、【全ての女性とニューハーフが安心して生きられる国を作ること】。それを願うようになったのは、あの日の出来事がきっかけだった──
─数年前─護大悟が当時付き合っていた女性が、1人での外出中に暴漢に襲われた。身体的にも精神的にも深い傷を負った彼女は、“男”という生き物全てに拒絶反応を起こした。それは愛する彼も例外ではない。
彼女に拒まれた護大悟は、彼女の気持ちを否定せず、寧ろ歩み寄った。性転換手術で身体を女性に変えることで、彼女が恐怖を抱かない存在になろうとした。しかし、体つきや声帯など、どうしても残ってしまう『男』の面影を、彼女は受け入れられなかった。
数日後、護大悟は彼女に別れを告げられた。
その後に知った、性転換した人間が現代社会で生きる難しさ。そんな中で同じ性転換仲間と出会い、悩みや苦労を分かち合えた。仲間たちと「自分たちのいられる場所を作ろう」と誓い築いたのが、ニューハーフバー『失楽園(ロストエデン)』。
旧惑星は自分たちのように居場所を求める者、社会に安心を求める者たちに寄り添える社会を作りたいと思うようになった。Top of the Tubeについて知ったのはこの頃だ。
護大悟「ん?」机に置いていたスマホの通知がひっきりなしに鳴った。これはSNSの通知だ。
…嫌な予感がする。護大悟はスマホを開いた。SNSアプリを開くと、見知らぬ人たちからのDMが複数件届いていた。旧惑星は息を飲み、一つのDMを開く。
『旧惑星さん女だったって本当ですか?』護大悟は驚いた。他のDMにも、旧惑星の性別を追求するような内容が書かれている。護大悟はその原因を見つけた。
SNS上に、自分のプライベート写真が何枚か貼られている投稿が発見された。おそらく隠し撮りされたものだ。その写真の旧惑星の身体付きは、女性であることがうかがえるものだった。彼のファンはそれを見て、旧惑星に直接性別を問いただしたのだろう。
「ファンを思うなら先に言っておいてほしかった」「騙された気分」と、旧惑星のアカウントに失望の言葉が投げかけられた。
護大悟はショックだった。歌い手として活動する上で、性別を公言する必要も機会もないと思っていた。世間が自分を男性と認識しても、間違いではないと思い訂正しなかった。そういった行動がファンへの失望を買ってしまったのだと自覚した。
旧惑星は件の話について釈明する動画を撮り、明日改めて内容をチェックしてから投稿することにした。その翌日─
【大人気TouTuber旧惑星、性別詐称で大炎上www】暴露系インフルエンサー沢沢モレソにより、旧惑星の性別判明の件が炎上ごととして取り上げられていた。『旧惑星の性別詐称により、彼を男性だと信じて推していた多くのファンが悲しんでいる』そんな文言と共に、SNS上でのファンの反応とされるものをスクリーンショットしたものが貼られてれていた。
それらの内容は、昨日護大悟が目にしたものより強い恨みが吐かれており、中傷的な内容も多く見られた。この記事は、モレソが印象操作のためにSNS上の批判的な意見のみを抜粋し、大袈裟に書いたものである。だが、インターネットを始めて日が浅い旧惑星には、それを虚構と見抜く力はなかった。これが世間の総意なんだと本気で思い込んだ。
その日の夜、旧惑星は一本の動画を載せた。旧惑星「旧惑星です。今ネット上で言われている自分の性別の件について、お話ししたいと思います」
その後は、ファンや関係者に対する謝罪、自分の性別を明かさなかった理由や経緯を事実のまま述べた。そして──旧惑星「何にしても俺は自分を好きでいてくれたたくさんの女性を悲しませた。その責任を取るべきだと考えました」
「本日より、TouTube活動を引退させていただきます」
──────────
数日後─旧惑星は声帯の手術をした。自身を『男』たらしめていた、多くの女性を傷つけた声を完全に消した。
もう2度と世間を沸かせたあの声は戻らない。彼にとっての、TouTubeとの決別となった。
旧惑星のチャンネルが更新されることはもうない。それでも護大悟は、そのチャンネルを消すことはなかった。
多くの誹謗中傷コメントの中に混ざった「男でも女でも旧惑星さんが大好きです」「いつも元気もらってます」と言った、最後まで旧惑星を応援してくれた人たちの声までは、消したくなかったからだ。
chapter5 END
全ての真相に気づいたMinatoは、新しいチャンネルを作ってその経緯を説明した。これまでの炎上は自身が搭載したAIによってでっち上げられたものだということ、そのAIによってチャンネルから排除されたこと。しかしそのような突破な話を納得する人はそう多くなかった。
それでも残ってくれたリスナーたちと、心機一転自分のペースで活動していこうと意気込んだ。彼に向けられた疑いは、今後の彼自身の活動で潔白を証明していくだろう。それに、Minatoとってこれは嬉しい誤算でもあった。
TOT優勝への意欲は強くはなかったものの、優勝した際の願いは持っていた。その願いは、【みなとちゃんを自立した存在にすること】。みなとちゃんは自分の“好き”を詰めた存在である。だからみなとちゃんには自立してもらい、堂々と推したかった。
Minatoの願いは、思わぬ方で叶ったのである。
Minato「でももう炎上はしたくね〜」
chapter6 END
あっくん「本日はH県▲市にやってまいりました。▲市と言えばそう、心霊スポットとして有名なN校舎があるんですねぇ〜!」
心霊TouTuberあっくんが運営する『のんびり心霊さんぽ』では本日、生配信で廃墟探索をすることになっていた。登録者数900万を超えたおばけチャンネルなだけあり、同接は10万規模に及ぶ人数で、X(旧Twitter)のトレンドには『のんびり心霊さんぽ』に関連したワードが載るようになっていた。
しかしそれらは、登録者数や再生数に興味のない彼にとってはどうでも良いことであった。そもそも、あっくんがTouTuberを始めたのは、自発的な動機ではなかった────
あっくんこと友田 彰浩は、仕事の帰りに心霊スポットを巡るのが好きな一般的なサラリーマンだった。妻も娘も趣味に対し寛容で、そこでの土産話を楽しんで聞いてくれていた。
もっとこの趣味で妻と娘を喜ばせることはできないか。そんなことを考えた矢先、大人気TouTuber チョマテヨより『Top of the Tube』の開催が告知された。それを観ていた娘が──
娘・なつみ「お願いかなえてくれるって!パパ、トゥーチューバーなろ~よ!」彰浩「え~?パパ何も面白いことできないよ」なつみ「パパの『オバケ』のお話すごいおもしろいよ〜!ね、ママ!」夫と娘のやりとりを、妻のはるは微笑ましそうに聞いていた。
はる「そうだよ。パパの話すごく面白いから絶対人気者になれるよ!ネットリテラシーについてもパパなら全然心配ないし」意外にも肯定的な妻の反応に彰浩は驚いた。だが、それだけ自分の話を楽しんでくれているのかと思うと満更でもない。
妻も心霊やオカルトといった話が好きで、そもそもこの夫婦が仲を深めたのは、その『怖い話好き』という共通点があったからだ。彰浩は考えた。今の趣味をTouTube動画という形で提供できれば2人は喜んでくれるのではないか。
そして『優勝者の願いを叶える』という文言は、かなり興味深かった。前々から欲していた【猫の呪物を手に入れる】ことができるかもしれない。
あっくんはその呪物を『かわいいネコチャン』と呼んでいる。その名の通り猫の形をした置物である。戦時中、海外から日本へお土産として持ち込まれたものであり、それを所持していた者の耳が聞こえなくなったり、もげたりするという話がある。
その2つの目的を果たせる可能性があるなら、始めてみるのもアリかもしれない。強制されるものでもないので、もし活動の必要がなくなればやめれば良い。そんな動機で始めたのだ────
あっくん「こちらのスポットはですね、○年前に高校生を十数名を監禁し、◾️し合いをさせたという凄惨な事件が起きたと言われるスポットなんですよ」「この校舎を訪れた人たちが言うには」
「あっ──」
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それでも残ってくれたリスナーたちと、心機一転自分のペースで活動していこうと意気込んだ。
彼に向けられた疑いは、今後の彼自身の活動で潔白を証明していくだろう。
それに、Minatoとってこれは嬉しい誤算でもあった。