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周囲の人たちから向けられる羨望に、真由は心が満たされた。
自分の美しさは学校の範囲に収まらない、世間に通用する美しさなのだと自負するようになった。
しかし、読者モデルとしての活動は真由が思い描いていた方向にはいかなかった。

読者モデルの世界には、彼女と同等、いやそれ以上に容姿の優れた女の子が何千人といた。
特別だと思っていた自身の美しさが初めて埋もれる経験をした。
真由にとっては人生最大の挫折である。

モデルとしての活躍が期待できなくなると、周囲の人間は真由を持て囃すこともなくなった。
中には、そんな彼女を陰で嘲る声もあった。
真由は焦った。
今更一般人の生活に戻れば、華々しい生活とは正反対の惨めな人生を歩むに違いない。
自身の未来に大きく期待していた真由にとって、それは許されざることだった。

自身の価値を高めようと、運動や、健康的な食生活、スキンケアやメイクの勉強は欠かさずやった。
高いお金をつぎ込み、美容整形にも踏み込みんだ。
しかしそれでも彼女がモデルの世界で輝くことはなく……
20代半ば。読者モデルの世界では“ベテラン”とされる域に達した頃、彼女はついにその道を諦めた。

そんな経験をして数年、
彼女の野望を呼び覚ました企画が
『Top of the Tube』だった─────

TOTを優勝した際のゆうちゃむの願いは
【売れること】。
現在のゆうちゃむのチャンネル登録者数
198万6782人は、十分にその願いを果たしていると言えた。
しかし、長年の挫折で満たされなかった彼女の欲望はさらなる高みを求めた。

「手頃にバズるには強めの発言をしていかないとダメだよね〜…」
それからのゆうちゃむは過激な発言が目立つようになった。
その中には、人気急上昇中のライバルたちを貶める発言も多くあった。

「身長175cm以上ない男は人権ないよ𐐃 ·̫ 𐐃」
「ZaramePってボカロPなの?知らなかった笑 曲より自分を売ってない?」
「女子で脱毛しない女とか美意識低すぎ(笑)恥ずかしくないの?」

それらの発言は、ゆうちゃむに関心のなかった者たちの目にも止まり、彼女に敵意を向ける者たちの数が増えていった。
数を増やしたアンチたちは、ゆうちゃむを貶めるための弱みを探り、暴いていった。

【ゆうちゃむ、名もなき読者モデルだったwww】

そんな文言と共にSNS上で明かされていくゆうちゃむの経歴。

『整形疑惑アリ。過去の写真と見比べ豊胸手術をしている可能性大(B→H)』
『鼻整形。唇ヒアルなど』
『年齢詐称?モデルの活動期間から考えると現在28歳説濃厚!』

ゆうちゃむ「なんだよこれ!誰がこんなもの見つけたんだよ……!」
ゆうちゃむのアンチたちは、それらの情報を武器に『ちゃむch』のコメント欄や
ゆうちゃむのSNSアカウントに誹謗中傷のコメントを書き込んだ。

今までの嫉妬に満ちただけの誹謗中傷とは違い、自身の劣等感を刺激していくそれらの言葉はゆうちゃむの心を蝕んだ。

それから数日後、
ゆうちゃむのチャンネルやSNSアカウントは、なんの予告もなく突如閉鎖された。
一時の名声を得て転落したゆうちゃむのその後を知る者はいない。

「所詮は量産型配信者」とアンチから捨て吐かれ、彼女のその後を知ろうとする者はいなくなった。

自分の作った曲を全世界の人に知ってもらう。
それがZaramePこと立花みりあの夢だった──

初めて動画を投稿したのは高校の頃。
引きこもりがちだった彼女の唯一の自己表現が『音楽』だった。
しかし、無名の彼女の曲が人々の目に留まることはなく、ボカロPとして大成することのないまま社会人になった。

そんな中で知った『Top of the Tube』の存在。
自分の音楽が周知されれば、正当な評価をもらえるかもしれない。
そんな淡い期待を抱き、ZaramePはTOTへの参加を決意した。

─────
瑠璃「『かすてら』、私の職場でも聴いてる子が多いみたいなの。若い子の間で流行ってるそうよ」
嬉しそうに報告する女性は、みりあの母の友人、古泉瑠璃だ。
『かすてら』はみりあが一ヶ月前に出した新曲だった。

みりあ「そうなの?確かに今まであげた中でも1番伸びたけど…」
瑠璃「本当にいい曲だもの。やっぱりみりあちゃんは才能あるのよ」
みりあは嬉しくなった。
TouTube活動に専念するようになってから、曲の再生数は増え、登録者数も増えてきた。

しかしこれは音楽への純粋な評価だけではないことを、みりあは悟っていた。
というのも、みりあは自身の登録者数を増やすために、人気のTouTuberに倣ってゲーム実況やVlogで顔出し配信などを行っていた。

チャンネルのアナリティクスを見ると、新曲よりもそういった実写動画の方が需要が高いことがわかった。

学生時代から発達した身体を同年代の男子に揶揄われ、嫌な思いをしてきたみりあにとって複雑な気持ちではあったが、
これをきっかけに自身の音楽に興味を向けてくれるならと、容姿を武器にする覚悟を決めた。
それに、卑しさのない容姿への肯定的なコメントは素直に嬉しかった。

そこから2ヶ月後──

ZaramePの新曲『Zaratto』が異例のバズりを見せた。
いろんなインフルエンサーが『Zaratto』を歌うようになり、ショート動画の音源としてインターネットユーザーの間で流行した。

流行を嗅ぎつけたテレビ曲から、ZaramePへの取材が申し込まれた。
ZaramePは最初躊躇いながらも、『Zaratto』のブームが後押しされればと思い引き受けた。
しかし、メディア露出で話題になったのは曲よりも自身の容姿に関することであった。

彼女を取り上げた記事やテレビの見出しは『可愛すぎる音楽クリエイター“ZarameP” 』
『話題の美人ボカロP、ZarameP 年収は?恋人の有無は?その素顔に迫る!』と曲よりも本人のパーソナルな部分を取り上げた内容ばかり。
しまいには情報雑誌の出版社からグラビアの仕事依頼まで来た。

それでも──
ZarameP「…次出したい曲があるんですけど、出演する時にその曲の告知もしていいですか」
使える武器はなんでも使おう。
自分の『曲』を聴いてもらうためだと、ZaramePは割り切った。

しかし、取材やメディア露出といった仕事で多忙になり、彼女が曲を作る時間はどんどん減っていく。
ZarameP「……私、なんのために活動してるんだっけ」

テレビ収録から帰宅後──
すっかり夜になっていた。
早く帰って今日こそ作曲に取り掛かろうと帰路についた。
歩道橋の階段を降りたその時─

突如、何者かに背中を押された。
みりあは仰向けで倒れ、転がるように階段を転げ落ちた。
みりあ「ぅ…………ッ………」

全身の痛みで意識が朦朧とする。
誰が突き飛ばしたのか、確認する間もなく意識を手放した─────

翌日、その件がニュースとして報道された。
アナウンサー「昨日未明、人気ボカロP ZarameP 本名立花みりあ さん(22)が歩道橋の階段から転落し、意識不明の重体となっています」
「捜査関係者によると、男性が立花氏を階段から突き落とし、その場から逃げているところを複数の通行人が目撃しているとのことです」

数日後、立花みりあを突き落とした容疑で男性が逮捕された。
取り調べに対し男性は「最近自分の許可なくメディア露出が多いのが許せなかった」と供述した。
しかし警察が調べたところ、男は立花みりあの関係者ではなく、ただの一ファンだったことが明らかになった。

この後、意識が回復した立花みりあは、TOTを辞退し、療養のためTouTubeの活動を休止することを発表した。

リルル「──以上、本日のゲストはあっくんでした♪みんなおつリル〜♪」
あっくん「皆様、ご視聴ありがとうございました♪」

フォロー

『東京都○○区で、40代の女性が集合住宅の路地で頭から血を流し倒れているのが発見されました』
『女性は鈍器のようなもので頭部を複数回殴られており、意識不明の重体です。犯人はいまだ見つかっておらず──』
古泉瑠璃が暴行された事件を見て、彼女と面識のある者たちは驚いた。

そんな彼女の不幸が報道された夜、“それ”は動いた。

『みんな今日もお疲れ様。最近ずっと寒いよね。
さぁて、今日は雑談配信をしていくよー』

旧惑星「そんな、どうして…」
自身の経営する店のお客であった古泉瑠璃の不幸の報道に、旧惑星こと九星 護大悟は愕然とした。
瑠璃とは親しい間柄だったことに加え、『女性』が不幸に遭ったという話は彼の心を痛めた。
旧惑星「やっぱりこの国が変わらないと、そのためにも優勝しなきゃ……」
旧惑星は強く拳を握った。

百連撃、ゆうちゃむ、ZarameP────
相次ぐ顔見知りの不幸に、Minatoや餅付食人は『人気者』の代償を強く意識した。
Minato「このままでいいのかな、オレ…」
餅付「でも、せっかくこんなだけの登録者がいるのにやめるわけには…」
それとは対照に、自分に自信を持って活動を続けるあっくん。

TOT開始から4カ月、TOTに参加するTouTuberたちの様々な思いが錯綜した。

モレソ「モモモ!人気者が落ちぶれるのたまんねぇレソ!次は誰が燃えるかな~」

???「おいおい、あんまり遊びすぎるなよ。モレソ」

護大悟「よし、あとは音源提出するだけだな」
動画制作がひと段落し、旧惑星こと九星護大悟は腕を大きく伸ばした。

昨今、幾度か事実無根の炎上を経験し、1000万以上いた登録者も半分以上減ってしまった。
それでも信じてくれるファンは残ってくれた。
しかし…
この調子では優勝は期待できないかもしれない。
護大悟の中にそんな不安が過ぎった。

TOTを優勝した際の彼の願いは、【全ての女性とニューハーフが安心して生きられる国を作ること】。
それを願うようになったのは、あの日の出来事がきっかけだった──

─数年前─
護大悟が当時付き合っていた女性が、1人での外出中に暴漢に襲われた。
身体的にも精神的にも深い傷を負った彼女は、“男”という生き物全てに拒絶反応を起こした。
それは愛する彼も例外ではない。

彼女に拒まれた護大悟は、彼女の気持ちを否定せず、寧ろ歩み寄った。
性転換手術で身体を女性に変えることで、彼女が恐怖を抱かない存在になろうとした。
しかし、体つきや声帯など、どうしても残ってしまう『男』の面影を、彼女は受け入れられなかった。

数日後、護大悟は彼女に別れを告げられた。

その後に知った、性転換した人間が現代社会で生きる難しさ。
そんな中で同じ性転換仲間と出会い、悩みや苦労を分かち合えた。仲間たちと「自分たちのいられる場所を作ろう」と誓い築いたのが、
ニューハーフバー『失楽園(ロストエデン)』。

旧惑星は自分たちのように居場所を求める者、
社会に安心を求める者たちに寄り添える社会を作りたいと思うようになった。
Top of the Tubeについて知ったのはこの頃だ。

護大悟「ん?」
机に置いていたスマホの通知がひっきりなしに鳴った。
これはSNSの通知だ。

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