ゆうちゃむ「なんだよこれ!誰がこんなもの見つけたんだよ……!」ゆうちゃむのアンチたちは、それらの情報を武器に『ちゃむch』のコメント欄やゆうちゃむのSNSアカウントに誹謗中傷のコメントを書き込んだ。
今までの嫉妬に満ちただけの誹謗中傷とは違い、自身の劣等感を刺激していくそれらの言葉はゆうちゃむの心を蝕んだ。
それから数日後、ゆうちゃむのチャンネルやSNSアカウントは、なんの予告もなく突如閉鎖された。一時の名声を得て転落したゆうちゃむのその後を知る者はいない。
「所詮は量産型配信者」とアンチから捨て吐かれ、彼女のその後を知ろうとする者はいなくなった。
chapter2 END
自分の作った曲を全世界の人に知ってもらう。それがZaramePこと立花みりあの夢だった──
初めて動画を投稿したのは高校の頃。引きこもりがちだった彼女の唯一の自己表現が『音楽』だった。しかし、無名の彼女の曲が人々の目に留まることはなく、ボカロPとして大成することのないまま社会人になった。
そんな中で知った『Top of the Tube』の存在。自分の音楽が周知されれば、正当な評価をもらえるかもしれない。そんな淡い期待を抱き、ZaramePはTOTへの参加を決意した。
─────瑠璃「『かすてら』、私の職場でも聴いてる子が多いみたいなの。若い子の間で流行ってるそうよ」嬉しそうに報告する女性は、みりあの母の友人、古泉瑠璃だ。『かすてら』はみりあが一ヶ月前に出した新曲だった。
みりあ「そうなの?確かに今まであげた中でも1番伸びたけど…」瑠璃「本当にいい曲だもの。やっぱりみりあちゃんは才能あるのよ」みりあは嬉しくなった。TouTube活動に専念するようになってから、曲の再生数は増え、登録者数も増えてきた。
しかしこれは音楽への純粋な評価だけではないことを、みりあは悟っていた。というのも、みりあは自身の登録者数を増やすために、人気のTouTuberに倣ってゲーム実況やVlogで顔出し配信などを行っていた。
チャンネルのアナリティクスを見ると、新曲よりもそういった実写動画の方が需要が高いことがわかった。
学生時代から発達した身体を同年代の男子に揶揄われ、嫌な思いをしてきたみりあにとって複雑な気持ちではあったが、これをきっかけに自身の音楽に興味を向けてくれるならと、容姿を武器にする覚悟を決めた。それに、卑しさのない容姿への肯定的なコメントは素直に嬉しかった。
そこから2ヶ月後──
ZaramePの新曲『Zaratto』が異例のバズりを見せた。いろんなインフルエンサーが『Zaratto』を歌うようになり、ショート動画の音源としてインターネットユーザーの間で流行した。
流行を嗅ぎつけたテレビ曲から、ZaramePへの取材が申し込まれた。ZaramePは最初躊躇いながらも、『Zaratto』のブームが後押しされればと思い引き受けた。しかし、メディア露出で話題になったのは曲よりも自身の容姿に関することであった。
彼女を取り上げた記事やテレビの見出しは『可愛すぎる音楽クリエイター“ZarameP” 』『話題の美人ボカロP、ZarameP 年収は?恋人の有無は?その素顔に迫る!』と曲よりも本人のパーソナルな部分を取り上げた内容ばかり。しまいには情報雑誌の出版社からグラビアの仕事依頼まで来た。
それでも──ZarameP「…次出したい曲があるんですけど、出演する時にその曲の告知もしていいですか」使える武器はなんでも使おう。自分の『曲』を聴いてもらうためだと、ZaramePは割り切った。
しかし、取材やメディア露出といった仕事で多忙になり、彼女が曲を作る時間はどんどん減っていく。ZarameP「……私、なんのために活動してるんだっけ」
テレビ収録から帰宅後──すっかり夜になっていた。早く帰って今日こそ作曲に取り掛かろうと帰路についた。歩道橋の階段を降りたその時─
みりあ「きゃ──…」
突如、何者かに背中を押された。みりあは仰向けで倒れ、転がるように階段を転げ落ちた。みりあ「ぅ…………ッ………」
全身の痛みで意識が朦朧とする。誰が突き飛ばしたのか、確認する間もなく意識を手放した─────
翌日、その件がニュースとして報道された。アナウンサー「昨日未明、人気ボカロP ZarameP 本名立花みりあ さん(22)が歩道橋の階段から転落し、意識不明の重体となっています」「捜査関係者によると、男性が立花氏を階段から突き落とし、その場から逃げているところを複数の通行人が目撃しているとのことです」
数日後、立花みりあを突き落とした容疑で男性が逮捕された。取り調べに対し男性は「最近自分の許可なくメディア露出が多いのが許せなかった」と供述した。しかし警察が調べたところ、男は立花みりあの関係者ではなく、ただの一ファンだったことが明らかになった。
この後、意識が回復した立花みりあは、TOTを辞退し、療養のためTouTubeの活動を休止することを発表した。
chapter3 END
リルル「──以上、本日のゲストはあっくんでした♪みんなおつリル〜♪」あっくん「皆様、ご視聴ありがとうございました♪」
今日の配信のコラボ相手だったあっくんとの挨拶を終えた水母リルルこと古泉瑠璃。本来なら今日のコラボにゆうちゃむも混ざる予定だったが、彼女は例の炎上で音信不通になり、それが叶わなくなった。安否の確認しようと何度か連絡をしたが変わらず返事は来ていない。友人として、せめて無事であってほしいと心から願っていた。
彼女だけではない。立花みりあや横田百連撃もTouTube活動によって不幸が起きている。親しい人たちそのような目に遭うのはとても悲しかった。しかし、同じくTouTube活動をしている彼女も他人事ではない。
瑠璃は悩ましげな顔で自身のチャンネルのアナリティクスを見ていた。瑠璃「だんだん再生数が減ってる…やっぱりあの時の炎上で……」
瑠璃は1ヶ月ほど前に、暴露系インフルエンサー沢沢モレソにより年齢をバラされていた。自身の年齢は水母リルルを推していたファンたちにとって受け入れ難いものだったのだろうか、数々の非難の声があがった。今でもあれらの発言を思い出すと目眩を起こす。しかし1番問題なのは、ファンに受け入れられなかったことではない。
「これじゃあTOT優勝できない。私にはどうしても叶えたい願いがあるのに…」古泉瑠璃が叶えたい願いとは、【自分を捨てた元恋人たちへの復讐】。
瑠璃はこれまで、結婚を誓い交際した男性が3人ほどいたが、全員が若い女性に心を奪われ、自分の元を去っていった。いつか家庭を持つことを夢見て恋人に尽くしてきたが、5年前に振られたのを最後に瑠璃は独り身になった。
そんな彼女にとって、年齢を理由に見限られることは1番辛いことだった。瑠璃「また年齢のせいで大事なものを失っちゃうの……?」「私の…私の大事な時間を奪った男たちに復讐できてないのに……」「そんなの嫌だわ。私より不幸になって、苦しんでもらわないと割に合わない」
「……不幸?」瑠璃は自身の言葉に疑念が沸いた。「私って、今不幸なのかな」
翌日、夜──退勤後、入院していたみりあへのお見舞いに行った帰りだった。瑠璃は「今日は雑談でもしようかな─」と、疲れからか無意識にリルルの時の口調で呟いた。その時───
瑠璃の頭に強い衝撃が走った。
あまりの衝撃に瑠璃は意識が朦朧とし、後頭部を押さえて倒れ込んだ。後頭部に鈍い痛みが走る。自分は殴られたのだと自覚した。
前編 END
護大悟「よし、あとは音源提出するだけだな」動画制作がひと段落し、旧惑星こと九星護大悟は腕を大きく伸ばした。
昨今、幾度か事実無根の炎上を経験し、1000万以上いた登録者も半分以上減ってしまった。それでも信じてくれるファンは残ってくれた。しかし…この調子では優勝は期待できないかもしれない。護大悟の中にそんな不安が過ぎった。
TOTを優勝した際の彼の願いは、【全ての女性とニューハーフが安心して生きられる国を作ること】。それを願うようになったのは、あの日の出来事がきっかけだった──
─数年前─護大悟が当時付き合っていた女性が、1人での外出中に暴漢に襲われた。身体的にも精神的にも深い傷を負った彼女は、“男”という生き物全てに拒絶反応を起こした。それは愛する彼も例外ではない。
彼女に拒まれた護大悟は、彼女の気持ちを否定せず、寧ろ歩み寄った。性転換手術で身体を女性に変えることで、彼女が恐怖を抱かない存在になろうとした。しかし、体つきや声帯など、どうしても残ってしまう『男』の面影を、彼女は受け入れられなかった。
数日後、護大悟は彼女に別れを告げられた。
その後に知った、性転換した人間が現代社会で生きる難しさ。そんな中で同じ性転換仲間と出会い、悩みや苦労を分かち合えた。仲間たちと「自分たちのいられる場所を作ろう」と誓い築いたのが、ニューハーフバー『失楽園(ロストエデン)』。
旧惑星は自分たちのように居場所を求める者、社会に安心を求める者たちに寄り添える社会を作りたいと思うようになった。Top of the Tubeについて知ったのはこの頃だ。
護大悟「ん?」机に置いていたスマホの通知がひっきりなしに鳴った。これはSNSの通知だ。
…嫌な予感がする。護大悟はスマホを開いた。SNSアプリを開くと、見知らぬ人たちからのDMが複数件届いていた。旧惑星は息を飲み、一つのDMを開く。
『旧惑星さん女だったって本当ですか?』護大悟は驚いた。他のDMにも、旧惑星の性別を追求するような内容が書かれている。護大悟はその原因を見つけた。
SNS上に、自分のプライベート写真が何枚か貼られている投稿が発見された。おそらく隠し撮りされたものだ。その写真の旧惑星の身体付きは、女性であることがうかがえるものだった。彼のファンはそれを見て、旧惑星に直接性別を問いただしたのだろう。
「ファンを思うなら先に言っておいてほしかった」「騙された気分」と、旧惑星のアカウントに失望の言葉が投げかけられた。
護大悟はショックだった。歌い手として活動する上で、性別を公言する必要も機会もないと思っていた。世間が自分を男性と認識しても、間違いではないと思い訂正しなかった。そういった行動がファンへの失望を買ってしまったのだと自覚した。
旧惑星は件の話について釈明する動画を撮り、明日改めて内容をチェックしてから投稿することにした。その翌日─
【大人気TouTuber旧惑星、性別詐称で大炎上www】暴露系インフルエンサー沢沢モレソにより、旧惑星の性別判明の件が炎上ごととして取り上げられていた。『旧惑星の性別詐称により、彼を男性だと信じて推していた多くのファンが悲しんでいる』そんな文言と共に、SNS上でのファンの反応とされるものをスクリーンショットしたものが貼られてれていた。
それらの内容は、昨日護大悟が目にしたものより強い恨みが吐かれており、中傷的な内容も多く見られた。この記事は、モレソが印象操作のためにSNS上の批判的な意見のみを抜粋し、大袈裟に書いたものである。だが、インターネットを始めて日が浅い旧惑星には、それを虚構と見抜く力はなかった。これが世間の総意なんだと本気で思い込んだ。
その日の夜、旧惑星は一本の動画を載せた。旧惑星「旧惑星です。今ネット上で言われている自分の性別の件について、お話ししたいと思います」
その後は、ファンや関係者に対する謝罪、自分の性別を明かさなかった理由や経緯を事実のまま述べた。そして──旧惑星「何にしても俺は自分を好きでいてくれたたくさんの女性を悲しませた。その責任を取るべきだと考えました」
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