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個人的に注目したいのは、日本文学ファンサイトでも呼ぶべきRead Japanese Literatureを運営するAlison Fincherさんが識者としてコメントを寄せていることです(Alison Fincherさんが最近ある場所に投稿していた文章は、The Guardianのような媒体に登場するのは今回が初めてであることを示唆しています)。この方は研究者などではありませんがすでに英語圏の翻訳家にはよく読まれているサイトで、英語圏の出版社の日本文学の近刊情報、そして(もちろん合法的に)ウェブサイトに公開されていて無料で読める日本小説のリストをまとめてくれているのでたいへん有用です(わたしも重宝しています)。他方、Podcastを数回分聞いた限りでは、かなり危うい内容に個人的に思えます。テーマ別に「文学史」的な視点で作品を語っているのですが、限られた数の既訳作をベースに「これは(おそらく)この時代ではもっとも〇〇な作品」といったassertiveな言及を重ねるのは過剰一般化のように感じられます。

theguardian.com/books/2024/nov

11月23日のThe Guardianに掲載されたイギリスでの日本文学受容についての記事。読んでいてある種の居心地の悪さを感じますが、2022年、イギリスの翻訳小説の売り上げの25%は日本語の作品という点は知りませんでした。(つづく)

ピーター・S・ビーグルが序文を寄せているChester AndersonのThe Butterfly Kid、知人とともに少しずつ読み進めていますが、この作品に言及している日本語の文章をどなたかご存じないでしょうか。SFスキャナーで紹介されたことがあると聞きましたが、真偽がわかりません。

だから、主人公にとって「地上適応困難症」を克服することは、「海の上」という永遠に場所がひとつところには定まらないという意味で故郷とは呼べないはずの、けれど精神的にはやはり暖かな居場所であった空間の記憶を忘却することをも同時に意味してしまう。このあたりの記述は移民二世、三世にとっての同化(assimilation)の問題を描いていると個人的には読んだ。スウィートでありソルティでもあることは、ある個人の内面の運動ではけして矛盾しないのだと思う。

ファン・モガ「スウィート・ソルティ」(『Rikka Zine』Vol.1)
移民文学のエッセンスを宿した好短篇。「ワームホール」などの名が出てくるラスト1ページよりも、人生の総てを海の上で過ごしたゆえに、初めて陸に降り立つと主人公は(いわば)「地上酔い」が止まらなくなる、そうしたアイデアの方にSF性、思考実験性を感じた。著者のファン・モガは日本に十数年在住されているそうで、そうした伝記的事実を非方法論的に投影して読むことはもちろん先入主になりうるだろう。ただ、「エミュー国」「海の泡国」といった名の鏤められたこの小説で横浜という港町だけは実在の地名であるのには注目したくなってしまう。「イデのネックレス」が電灯のスイッチ紐になった、とあるのはとりたてて華美でない日本の一般的な家屋を想起するのが正しいのではないかと思えてくるのだ(さして広くない集合住宅の和室を思い浮かべて読んだ)。寓意的な雰囲気が、後半にいたり日本の日常に溶け込んでしまう異物感。(つづく)

雑誌の告知を始めてからとてもうれしいことのひとつが、ロシア、フランスなど英米以外(自分の大学時代の専攻)の文学研究者、翻訳家の方が何人も興味を示してくださって、やりとりが始まったりしていることです。文学を愛する気持ちに国境はないか、あるにしても恣意的なものだと思います。

クリスティン・ブルック=ローズ「関係」
ロバート・クーヴァー「ラッキー・ピエール」
ドナルド・バーセルミ「バルーン」
ジョン・バース「アンブローズそのしるし」
スティーヴン・ミルハウザー「アリスは、落ちながら」
ヴィクトル・ペレーヴィン「倉庫XII番の冒険と生涯」
ウラジミール・ソローキン「愛」
スワヴォーミル・ムロージェク「所長」
スタニスワフ・レム「我は僕ならずや」
サーテグ・ヘダーヤト「幕屋の人形」
三橋一夫「腹話術師」
渡辺温「兵隊の死」
黒井千次「冷たい仕事」
正岡蓉「ルナパークの盗賊」
山本修雄「ウコンレオラ」
藤枝静男「田紳有楽」
中井紀夫「山の上の交響楽」
皆川博子「結ぶ」
山尾悠子「透明族に関するエスキス」
筒井康隆「上下左右」
円城塔「誤字」(以上)

キット・リード「ぶどうの木」
エムシュウィラー「ピアリ」(らっぱ亭訳)
ジョゼフィン・サクストン「障壁」
ジョージ・コリン「マーティン・ボーグの奇妙な生涯」
アルヴィン・グリーンバーグ「ホルヘ・ルイス・ボルヘスによる「フランツ・カフカ」」
R・A・ラファティ「町かどの穴」
イアン・ワトスン「スロー・バード」
バリントン・ベイリー「知識の蜜蜂」
コニー・ウィリス「わが愛しき娘たちよ」
チャイナ・ミエヴィル「ロンドンにおける“ある出来事”の報告」
Ogawa Yukimi “Perfect” (未訳)
イン・イーシェン「世界の妻」
ジュリアン・バーンズ「密航者たち」
フラン・オブライエン「機関車になった男」
キアラン・カーソン「対蹠地」
エリック・マコーマック「刈り跡」
アーネスト・ブラマ「絵師キン・イェンの不幸な運命」
ディーノ・ブッツァーティ「七人の使者」
ジョルジュ・マンガネッリ「虚偽の王国」
ジョヴァンニ・パピーニ「泉水のなかの二つの顔」
パウル・シェーアバルト「セルバンテス」
イルゼ・アイヒンガー「わたしの緑色の驢馬」
フランツ・カフカ「万里の長城」
レオ・ペルッツ「月は笑う」
オスカル・パニッツア「三位一体亭」
アルフレート・デーブリーン「たんぽぽ殺し」

いきなり発表!奇想短篇小説マイフェイバリット

空舟千帆さん、および「jem」創刊号のアンケート企画にも寄稿くださった鯨井久志さんの「カモガワGブックス」Vol.5「特集:奇想とは何か?」への期待からなんとなく作ってみました。

・入手の困難さなどは度外視して好みを打ち出しました
・連作長篇中の一篇も入れてしまいました
・お遊び企画です!瞬間的に思いついた作品だけですのであしからず。

オクタビオ・パス「波と暮らして」
カルペンティエール「選ばれた人びと」
バルガス・リョサ「子犬たち」
フリオ・コルタサル「クロノピオとファマの物語」(未訳)
アウグスト・モンテロッソ「ミスター・テイラー」
フェルナンド・ソレンティーノ「傘で私の頭を叩くのが習慣の男がいる」
ラモン・ゴメス・デ・ラ・セルナ「乳房島」
デヴィッド・ブルックス“Map Room”(未訳)
イタロ・カルヴィーノ「王が聴く」(未訳)
ヴォルテール「ミクロメガス」
シャルル・フーリエ「アルシブラ」
レーモン・ルーセル「黒人たちの間で」
アンリ・ミショー「魔法の国にて」
ジョルジュ・ペレック「冬の旅」
シオドア・スタージョン「考え方」
フリッツ・ライバー「ラン・チチ・チチ・タン」
デーモン・ナイト「人類供応のしおり」

張愛玲の小説かなにかで初めに知ったのだろうか、中国語の「坠入爱河、一眼万年」という表現がすごく好き。けっして「一目惚れ」のような瞬間の愛情のことではありません!字面として、近年の「沼にハマる」という言葉を想起させなくもないような。

ちなみに書評を寄せたSamantha Harvey『Orbital』、各所で言われている通り、長篇にしてはすごく短いですよ。長めの中篇くらいの感触なので、あまり気負わず挑戦しやすい小説だと思います。

今年読んだものの最大の収穫としては、山尾悠子さんの本棚写真(劉佳寧さんの「魔窟探訪記」による)に映っていたジャン=ミシェル・モルポワ『見えないものを集める蜜蜂』(思潮社)、当誌寄稿者の菅原慎矢さんが教えてくれたアルゼンチン移民の鬼才・崎原風子ただ一冊の句集『崎原風子句集』(海程新社)、宇野邦一訳のジュネ『判決』(みずず書房)は必ず入ってくると思います。

SNSより私信や手紙のほうが性に合っているので、クリスマスカードを書き始めています◎

本音を書くと、英日文芸翻訳、やってみたい…。非商業ベース、短篇でもどこかで修行を積めないものか。

おお!鯨井さん晴れ男ですし、某さんがこの前熊手も買ってくれたのでこれからますますご活躍間違いないですね◎

なお、上から数えて3~7枚目までの写真は、山尾さんの蔵書ではなく、倉敷にある古本屋・蟲文庫さんの店内の写真ですのでご注意ください。誤った推測などがSNSを通じて流布すると迷惑がかかる場合もあると考え、勝手ながら記します。後藤護さん、礒崎純一さんの回もとても興味深いのですが、そうした話はまたいずれ。

1970年代刊行の本でも保存状態が良い本が多いのに驚かされます。山尾さんが2015年に書いたあるエセーで、森開社版のシュオッブ『少年十字軍』(1978年刊)について、「これはもちろん大事にして、白く美しく手元にある」と書いていますが、この言葉について誰よりも嬉しそうに言及していたのは他ならぬ森開社社主の小野夕馥さんでした(森開社ブログ参照)。

山尾悠子さんはかつて工作舎の雑誌「遊」に「今月私が買った本」という連載を寄せていましたが、「不世出の作家」とも言われたことのある山尾さんの御自宅まで実訪して写真に収め、このような驚異の記事を著してしまったのは劉佳寧さんが初でしょう。澁澤蔵書目録である『書物の宇宙誌』という本は刊行されていても、(それが完全なものでなくても)山尾さんの蔵書を記録するという発想はこれまでなかったはずです。一冊一冊大切に買い集めてきたに違いない、美麗な書物の数々に目を奪われます。

当誌『jem』創刊号では中国の幻想文学研究者・翻訳家の劉佳寧さんにインタビューを行いました。その末尾でも話題のある、web連載「魔窟探訪記(魔窟探访记)」。幻想文学に関係する方々の書斎、蔵書に取材する企画です。第1回は後藤護さん、第2回は山尾悠子さん、第3回は礒崎純一さんのもとを訪問(緑色の「阅读全文」を押せば全体が見られます)。

後藤護さんの元を訪れた第1回のアドレス
douban.com/note/855105441/?_i=
山尾悠子さんの元を訪れた第2回のアドレスdouban.com/note/861590989/?_i=
礒崎純一さんの元を訪れた第3回のアドレス
douban.com/note/867958284/?_i=

ナイジェリアの作家Pemi Agudaの、2023年のО・ヘンリー賞を受賞した“Hollow”を読む。「憑かれた家」モチーフということではゴシック小説の王道を行っていて、著者の作品の中ではジャンル小説寄りか。ゴシック小説のアンソロジーピースになりうるのではないかというくらい質が高い。現時点では一作も期待を裏切られない。

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