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ファン・モガ「スウィート・ソルティ」(『Rikka Zine』Vol.1)
移民文学のエッセンスを宿した好短篇。「ワームホール」などの名が出てくるラスト1ページよりも、人生の総てを海の上で過ごしたゆえに、初めて陸に降り立つと主人公は(いわば)「地上酔い」が止まらなくなる、そうしたアイデアの方にSF性、思考実験性を感じた。著者のファン・モガは日本に十数年在住されているそうで、そうした伝記的事実を非方法論的に投影して読むことはもちろん先入主になりうるだろう。ただ、「エミュー国」「海の泡国」といった名の鏤められたこの小説で横浜という港町だけは実在の地名であるのには注目したくなってしまう。「イデのネックレス」が電灯のスイッチ紐になった、とあるのはとりたてて華美でない日本の一般的な家屋を想起するのが正しいのではないかと思えてくるのだ(さして広くない集合住宅の和室を思い浮かべて読んだ)。寓意的な雰囲気が、後半にいたり日本の日常に溶け込んでしまう異物感。(つづく)

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