個人的に注目したいのは、日本文学ファンサイトでも呼ぶべきRead Japanese Literatureを運営するAlison Fincherさんが識者としてコメントを寄せていることです(Alison Fincherさんが最近ある場所に投稿していた文章は、The Guardianのような媒体に登場するのは今回が初めてであることを示唆しています)。この方は研究者などではありませんがすでに英語圏の翻訳家にはよく読まれているサイトで、英語圏の出版社の日本文学の近刊情報、そして(もちろん合法的に)ウェブサイトに公開されていて無料で読める日本小説のリストをまとめてくれているのでたいへん有用です(わたしも重宝しています)。他方、Podcastを数回分聞いた限りでは、かなり危うい内容に個人的に思えます。テーマ別に「文学史」的な視点で作品を語っているのですが、限られた数の既訳作をベースに「これは(おそらく)この時代ではもっとも〇〇な作品」といったassertiveな言及を重ねるのは過剰一般化のように感じられます。
ファン・モガ「スウィート・ソルティ」(『Rikka Zine』Vol.1)
移民文学のエッセンスを宿した好短篇。「ワームホール」などの名が出てくるラスト1ページよりも、人生の総てを海の上で過ごしたゆえに、初めて陸に降り立つと主人公は(いわば)「地上酔い」が止まらなくなる、そうしたアイデアの方にSF性、思考実験性を感じた。著者のファン・モガは日本に十数年在住されているそうで、そうした伝記的事実を非方法論的に投影して読むことはもちろん先入主になりうるだろう。ただ、「エミュー国」「海の泡国」といった名の鏤められたこの小説で横浜という港町だけは実在の地名であるのには注目したくなってしまう。「イデのネックレス」が電灯のスイッチ紐になった、とあるのはとりたてて華美でない日本の一般的な家屋を想起するのが正しいのではないかと思えてくるのだ(さして広くない集合住宅の和室を思い浮かべて読んだ)。寓意的な雰囲気が、後半にいたり日本の日常に溶け込んでしまう異物感。(つづく)
クリスティン・ブルック=ローズ「関係」
ロバート・クーヴァー「ラッキー・ピエール」
ドナルド・バーセルミ「バルーン」
ジョン・バース「アンブローズそのしるし」
スティーヴン・ミルハウザー「アリスは、落ちながら」
ヴィクトル・ペレーヴィン「倉庫XII番の冒険と生涯」
ウラジミール・ソローキン「愛」
スワヴォーミル・ムロージェク「所長」
スタニスワフ・レム「我は僕ならずや」
サーテグ・ヘダーヤト「幕屋の人形」
三橋一夫「腹話術師」
渡辺温「兵隊の死」
黒井千次「冷たい仕事」
正岡蓉「ルナパークの盗賊」
山本修雄「ウコンレオラ」
藤枝静男「田紳有楽」
中井紀夫「山の上の交響楽」
皆川博子「結ぶ」
山尾悠子「透明族に関するエスキス」
筒井康隆「上下左右」
円城塔「誤字」(以上)
キット・リード「ぶどうの木」
エムシュウィラー「ピアリ」(らっぱ亭訳)
ジョゼフィン・サクストン「障壁」
ジョージ・コリン「マーティン・ボーグの奇妙な生涯」
アルヴィン・グリーンバーグ「ホルヘ・ルイス・ボルヘスによる「フランツ・カフカ」」
R・A・ラファティ「町かどの穴」
イアン・ワトスン「スロー・バード」
バリントン・ベイリー「知識の蜜蜂」
コニー・ウィリス「わが愛しき娘たちよ」
チャイナ・ミエヴィル「ロンドンにおける“ある出来事”の報告」
Ogawa Yukimi “Perfect” (未訳)
イン・イーシェン「世界の妻」
ジュリアン・バーンズ「密航者たち」
フラン・オブライエン「機関車になった男」
キアラン・カーソン「対蹠地」
エリック・マコーマック「刈り跡」
アーネスト・ブラマ「絵師キン・イェンの不幸な運命」
ディーノ・ブッツァーティ「七人の使者」
ジョルジュ・マンガネッリ「虚偽の王国」
ジョヴァンニ・パピーニ「泉水のなかの二つの顔」
パウル・シェーアバルト「セルバンテス」
イルゼ・アイヒンガー「わたしの緑色の驢馬」
フランツ・カフカ「万里の長城」
レオ・ペルッツ「月は笑う」
オスカル・パニッツア「三位一体亭」
アルフレート・デーブリーン「たんぽぽ殺し」
いきなり発表!奇想短篇小説マイフェイバリット
空舟千帆さん、および「jem」創刊号のアンケート企画にも寄稿くださった鯨井久志さんの「カモガワGブックス」Vol.5「特集:奇想とは何か?」への期待からなんとなく作ってみました。
・入手の困難さなどは度外視して好みを打ち出しました
・連作長篇中の一篇も入れてしまいました
・お遊び企画です!瞬間的に思いついた作品だけですのであしからず。
オクタビオ・パス「波と暮らして」
カルペンティエール「選ばれた人びと」
バルガス・リョサ「子犬たち」
フリオ・コルタサル「クロノピオとファマの物語」(未訳)
アウグスト・モンテロッソ「ミスター・テイラー」
フェルナンド・ソレンティーノ「傘で私の頭を叩くのが習慣の男がいる」
ラモン・ゴメス・デ・ラ・セルナ「乳房島」
デヴィッド・ブルックス“Map Room”(未訳)
イタロ・カルヴィーノ「王が聴く」(未訳)
ヴォルテール「ミクロメガス」
シャルル・フーリエ「アルシブラ」
レーモン・ルーセル「黒人たちの間で」
アンリ・ミショー「魔法の国にて」
ジョルジュ・ペレック「冬の旅」
シオドア・スタージョン「考え方」
フリッツ・ライバー「ラン・チチ・チチ・タン」
デーモン・ナイト「人類供応のしおり」
本音を書くと、英日文芸翻訳、やってみたい…。非商業ベース、短篇でもどこかで修行を積めないものか。
@hanfpen おお!鯨井さん晴れ男ですし、某さんがこの前熊手も買ってくれたのでこれからますますご活躍間違いないですね◎
本好き、旅行好き。 海外詩/翻訳文化論/日本文学普及/社会言語学etc.文章のアップはSNSよりも主にブログのほうで行っています。よろしくお願いします。https://air-tale.hateblo.jp/