人道・人間性(humanity)は、19世紀的な、ロマン主義的な文学作品の中心的な主題だった。言語化するなら「すべての人間には尊厳がある」。ヒーローも、悲劇のヒロインも、悪役も、クズ人間も、ひとしく人間。(ただ、クズ男に対してやや甘めかも)
手塚治虫のマンガ作品が描いてきた人間ドラマの主題もhumanityだ。
人権(human rights)はもう少し理屈っぽい。理屈っぽいので人権そのものはドラマの主題になりにくい。ただ、差別問題やジェンダー問題を扱ったドラマはたくさんある。
人権は人間の尊厳を守るための「権利」をリストアップして国際法で守るようにしたもの。人種や性別などで差別されない権利、奴隷にされない権利、拷問を受けない権利、民主主義の手続きに参加する権利、裁判を受ける権利、移動・移住の自由、職業選択の自由、労働の対価として尊厳を保てる賃金を得る権利、思想・信条の自由、表現の自由、そうした権利を明文化した。
人権状況は、コツコツ積み上げるように少しずつ改善していくもの。しかし差別主義者によるバックラッシュや、戦争、災害でドカンと状況が悪化する。
私たちはゆっくりでも粘り強くコツコツを続け、なおかつドカンを防がないといけない。
上記のUNDP報告書に基づく報道の例。
パレスチナの経済規模、数十年前の水準へ後退か 軍事衝突で
https://www.cnn.co.jp/world/35211398.html
ガザの子供4500人死亡、20年以降に世界の紛争で殺害された子供の総数上回る…国連報告書
https://www.yomiuri.co.jp/world/20231110-OYT1T50185/
11月11日、国連開発計画(UNDP)が管理していた国連施設が攻撃を受けた。数百人以上の避難民が施設におり、相当数の死傷者が出ている。
コメント:よもやとは思うが……11/9にUNDPがガザの危機的状況を伝える報告書を発表した意趣返しかもしれない。
11月9日、国連開発計画(UNDP)がガザ戦争の報告書を発表。ガザの"開発"(注:インフラ、雇用、医療、教育など人権状況の発展を総合的に指す言葉)の危機を訴える。
https://www.undp.org/press-releases/poverty-state-palestine-set-soar-more-third-if-war-continues-second-month
要点:
- 戦争1カ月目で貧困は20%増加し、GDPは4.2%減少。戦争が2カ月目も続けばパレスチナの貧困率は34%急上昇し、さらに50万人近くが貧困に陥る。
- パレスチナでは11年から16年、ガザでは16年から19年、過去積み上げてきた"開発"が逆戻りする。
- 戦闘開始から2023年11月5日までのガザの死者数は9,770人。うち子どもは4,008人、女性は2,550人。
- 少なくとも24,808人が負傷。行方不明は約2,260人。うち1,270人の子
どもは瓦礫の下敷きになっているか、死亡している可能性が高い。
- ガザで3週間あまりの間に殺害されたとされる子どもの数は、2020年以降、22カ国以上の武力紛争で毎年殺害される子どもの総数を上回る。
- (パレスチナのヨルダン川西岸地区でも)イスラエル治安・軍事部隊および入植者によって、子ども43人を含む141人のパレスチナ人が殺害され、少なくとも2,322人が負傷した。
感想:子どもを大勢死なせる戦争はあまりに罪深い。即時停戦を。
ヨルダン空軍がガザ地区でヨルダンが運営する病院に物資を投下した。どうやらイスラエル側も承知していた模様。
ガザ地区の大規模な悲劇の中ではほんのひとしずくの支援なのかもしれない。ヨルダンのパフォーマンスの側面もあるだろう。だとしても支援があることは、支援がないよりずっと良い。
感想:
冷戦下の西ベルリンへの物資空輸のようなことを、各国有志がもっと大規模にやればいいのだ。やらない理由はイスラエルとアメリカへの遠慮だ。
イスラエルとパレスチナの問題には枕詞のように「複雑な」がつけられる。「まるで中東研究の博士号を持っていないと語れない、かのように」。しかしそこを訪れたアフリカ系米国人の作家にとって、それはよく知っている状況であった。アフリカ系アメリカ人たちがよく知っている状況。複雑でもなんでもない、純然たるアパルトヘイトなのである。デモクラシーナウ、のインタビュー。
11月4日、イーロン・マスク氏は開発を進めてきた対話型AI「Grok」をX/Twitterの有料プランであるPremium+(月額16ドル)向けに近々提供するとツイート。「ユーモアを解し、X/Twitterのリアルタイムデータにアクセスできる」ことが優位性としている。
表の感想:対話型AIは競争が激化している。ChatGPT+やClaude2のような高評価の既存サービスに、短期間で作ったAIが対抗できるだろうか。
裏の感想:マスク氏が考える「ユーモア」や、X/Twitterのリアルタイムデータ活用は、どちらかというとマスク氏のツイートのような脊髄反射系の作文に向いた作りになるのでは、という嫌な予感が。
日経
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN0342R0T01C23A1000000/
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN043SG0U3A101C2000000/
ITmedia
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2311/05/news031.html
一連のマスク氏のツイート。
https://twitter.com/elonmusk/status/1720372289378590892
https://twitter.com/elonmusk/status/1720645900471554146
https://twitter.com/elonmusk/status/1720635518289908042
https://twitter.com/elonmusk/status/1720660977786433810
https://twitter.com/elonmusk/status/1720839331365929290
ガザのニュースから。
11月3日、ガザ市内の病院から出発する救急車の車列をイスラエル軍が攻撃。イスラエル軍は「ハマスが使用していた救急車を攻撃」と述べた。少なくとも15人が死亡、50人が負傷。
https://www.cnn.co.jp/world/35211082.html
https://jp.reuters.com/world/mideast/VJ5QXFA25JKQZEPUBBMPX2NTME-2023-11-03/
感想:戦争犯罪を堂々と認めている。
11月4日、WHOのテドロス事務局長は、イスラエル軍の救急車空爆に「大きな衝撃を受けた」と述べた。
https://www.afpbb.com/articles/-/3489631
感想:国連機関フル動員で休戦を呼びかけてほしい。
11月3日、ブリンケン米国務長官が人道的休戦を求めるも、イスラエルのネタニヤフ首相は一蹴。
https://www.bbc.com/japanese/67318799
感想:ネタニヤフは話にならない。
11月3日、日本の上川外相はイスラエルのコーヘン外相と会談。ハマスを非難しつつ、人道のため一時的戦闘停止を訴え。その後、パレスチナ自治政府のマリキ外相と会談、約6500万ドル(約100億円)の追加人道支援を表明。
https://digital.asahi.com/articles/ASRC37SMPRC3ULFA00N.html
感想:今の米国や英国の姿勢よりはマシかもしれない。しかし、もどかしい。支援に即効性、実効性はあるか。
コメント:いますぐガザ休戦と支援物資搬入を。
Meta(旧Facebook)でInstagramのユーザー調査を実施したコンサルタントが、ハラスメント対策に向き合わないMetaの実態を告発。
https://www.wsj.com/tech/instagram-facebook-teens-harassment-safety-5d991be1
- Metaは自動化を進め、有害な投稿を通報したユーザーへの対処のリソースを減らしていた。しかしMetaの分類器はヘイトスピーチの5パーセントも削除できなかった。
- 「いじめの目撃数」は、Metaの統計より100倍多かった
◎16歳以下のユーザーへの調査では、「過去1週間」で
- 26%が人種、宗教、アイデンティティに基づく敵意を目撃し、嫌な経験をした
- 5分の1以上が他人の投稿を見て自分自身の印象を悪く感じた
- 13%が望まない性的誘いを受けた
しかしMetaの管理職層はユーザー調査に基づく改善に反発。やがて調査に関わったチームのほとんどは解雇された。
感想:巨大SNSで評価指標の数字を向上させようとすると、だいたい人権を侵害する方向になる。そこで営業が人権を損なわない企業ガバナンスが必要だ。これはESG経営では当然のことで、現代の大企業にとっての義務だ。ただし巨大テック企業は往々にしてESG経営や人権優先のやり方を好まない。巨大SNSには法規制が必要だ。
疑問2・国民の理解を得るロジックが皆無。他の歳出を削り増税してまで防衛費を増額するなら国民の深い納得が欠かせないのではないか?
感想:防衛力強化も、歳出削減も、増税も、国民の生活や国際関係に大きな影響を与えます。有識者会議の報告書や閣議決定で済ませてはダメです。国会で深い議論を。国民に向けた幅広い情報公開と、学会やメディアを巻き込んだ議論を。
資料:
「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/boueiryoku_kaigi/index.html
この有識者会議 第3回の「議論の整理」には勇ましい話がいっぱい出てくる。
「台湾有事に向けた防衛力」
「反撃能力の保有の議論はもう遅く、どのように能力を発動するか」
「国力に応じた防衛力という議論ではなく、今の緊急的な情勢の中でジャンプしていく努力が必要」
こういう「増額ありき」の論調の中で計画はなし崩しに進められた。
本件に関する星暁雄の連続ツイート
https://twitter.com/AkioHoshi/status/1595010059599216641
日本の防衛費倍増計画が、急激な円安で見直しを迫られている。
https://fedibird.com/@AkioHoshi/111345895315674957
このタイミングで、突如出てきた防衛費倍増計画の振り返りを。
2022年5月、岸田首相は来日したバイデン米大統領に「防衛費の相当な増額を確保する」と伝えた。バイデン氏は歓迎。国会も国民は寝耳に水。
2022年11月22日、岸田首相に防衛力有識者会議の報告書が手渡された。内容は
「防衛力を緊急に強化したいです!」
「財源は歳出削減と増税。国債は良くない」
「国民は理解するべき」
本件についてはNHKの記事が詳しい。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221122/k10013899761000.html
報告書全文を、産経新聞が掲載している。全文掲載できるほどなので、ペラペラに薄い。
https://www.sankei.com/article/20221122-AMVTHVXQTNN4NPUTVRVVCBMZJY/
疑問1・現時点で自衛隊は世界5位の軍事力を誇る(2022 Military Strength Rankingより)。防衛費を緊急に増強したい理由は何か?
もちろん理由は「台湾有事に備えて」だが、そのような重大な政治・外交問題を国会にも諮らず決めてしまっていいものか? 米国内でも「台湾有事の可能性」は過大評価されており、煽ることはよろしくないとの論調がある。 [参照]
日本の「防衛費倍増」計画、急激な円安を受け見直し。ロイターの調査報道。
「中国の台湾侵略阻止を目的とした5年間43.5兆円の歴史的な防衛力整備は縮小を余儀なくされている」
https://www.reuters.com/markets/currencies/weak-yen-forces-japan-shrink-historic-military-spending-plan-2023-11-03/
12月の計画時点では為替レートは2021年夏の108円/ドルを想定していた。現在のレートは150円/ドルと暴落。防衛省は為替ヘッジをしていなかった。
12月時点で輸送ヘリ「チヌーク」34機を1機150億円で調達する計画を立てていたが、機体価格が50億円上振れ。発注数を17機に減少した。同機はボーイングのライセンスを受け川崎重工業が製造。機体価格上昇の要因の半分が円安。
新明和工業の飛行艇2機を購入する計画も、1機当たりの価格が3年前に比べてほぼ2倍の300億円に値上がりしたことを受け撤回。
購買力が低下したため、日本は米国製の最先端の前線兵器を優先、他の日本製の装備など縮小の方向。
これに対し経団連は10月、防衛産業団体と連携し、補正予算で追加の軍事調達資金を国会に提出するよう防衛省に圧力をかけた。
感想:「米国優先」が政府の本音、「国内防衛産業にも金を流せ」が経団連の本音。この綱引きの中で平和の追求も国民の生活も二の次。
イスラエルのギラド・エルダン国連大使は10月30日、国連安全保障理事会での演説で"Never Again"と書かれたユダヤ人迫害の象徴「黄色い星」を着用し、「あなた方が目を覚まし、ハマスの残虐行為を糾弾するまで外さない」と述べた。
これを受けてイスラエルのホロコースト記念館「ヤド・バシェム」のダニー・ダヤン館長は批判。
「この行為はホロコーストの犠牲者とイスラエルという国家を侮辱するものだ」
「黄色い星は、ユダヤ人が無力であり、他者に生殺与奪の権利を握られていたことを象徴するものだ。われわれには今、独立国家と強力な軍隊がある。自らの命運を決めることができる」
感想:すべてのイスラエル人が極右ではない。問題は過激な言動に走る極右政権だ。
https://www.afpbb.com/articles/-/3489005
イスラエル政府のジェノサイド計画に関連して、上記Yahoo記事の情報源と思われる記事。
記事の記載と日付が違う所が気になるが、問題の「政策文章」全文が掲載されている。イスラエルの和平系ニュースサイトSicha Mekomit掲載記事(ヘブライ語)。資料として。
https://www.mekomit.co.il/המסמך-המלא-של-משרד-המודיעין-כיבוש-עזה-ו/
イスラエル政府のジェノサイド計画、その後の詳報。
イスラエルの和平系ニュースサイトSicha Mekomitが報じた「政策文書:ガザの民間人口の政治的方針の選択肢」 の紹介記事。文書の内容は上記のWikileaksが暴露した文書と同じです。
ガザ全住民をシナイ半島に移送:流出したイスラエル秘密政策文書の全貌。ネタニヤフ首相の「出口戦略」か
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/e6f7a38c96613af2c2e0f9b8e75ea20d7724ecf8
感想:この文書が恐ろしい点は、ガザから住民を追い出す過程で生じる恐るべき規模の人道の危機にまったく無頓着なこと。人だと思っていない。
イエメンの親イラン武装組織フーシ派はイスラエルに「宣戦布告」。
イスラエルに向けて「多数の」ドローンと弾道ミサイルを発射したと表明。
実態が見えてくるまで判断が難しいが、非対称戦争の拡大が懸念されるところ。
ロイターの記事
イエメン武装組織、イスラエルにミサイル発射 「ガザ侵略に対抗」https://jp.reuters.com/world/security/N2N46TF73VLLVJWZHB3O4MN2Y4-2023-10-31/
T.Katsumiさんの見立てを記すスレッド
https://twitter.com/tkatsumi06j/status/1719408918403907741
人権の思想は歴史とともに拡張されてきました。
第1世代 アメリカ独立宣言、フランス人権宣言(18世紀)。安全保障、財産、政治参加の権利など。
第2世代 世界人権宣言(1948年)。社会経済的な権利。福祉、教育など。
第3世代 民族自決権、クリーンな環境、先住民族少数民族の権利、LGBTの権利、「ビジネスと人権」など。
出典: https://iep.utm.edu/hum-rts/
第2世代の女性差別の禁止の例が日本の女性参政権、人種差別の禁止の例が南アのアパルトヘイト撤廃。
(ただし米国で1960年代に盛んになった黒人公民権運動は、国際人権ではなく国内法である公民権法に基づくので、文脈が異なります)
そして今なお人権の先進地域はEU圏です。教育の普及度が違う。
まだまだ世界は不平等で満ちています。人権の要諦は「社会のダブルスタンダードを撤廃すること」です。しかし、例えば完全なジェンダー平等だけでも今世紀中は無理だと言われています。
ポストコロニアル(脱植民地主義)の文脈で見るなら、むしろ非西欧の国々が人権のリーダーシップを取るべきでしょう。しかし現実にはアジアでは権威主義的な国が主流。道のりは遠そうですが、挑戦する価値はあります。
https://fedibird.com/@pica_pica/111333539618576142 [参照]
ITジャーナリストです。
仕事リスト:https://note.com/akiohoshi/n/nebac412b6c12