富永健一・徳安彰編著(2004)『パーソンズ・ルネッサンスへの招待——タルコット・パーソンズ生誕百年を記念して』勁草書房
ルネサンスではなく「ルネッサンス」という、レトロな響きがいいですねえ😅
「『人間の条件』パラダイム…
…行為体系の適応機能を主としてになう下位体系が、『行動有機体』から『行動体系』に修正されていることにも、注意を喚起しておきたい。消化器系統や呼吸器系統、血液の循環、骨格・筋肉などの人間有機体システムは、言語やシンボルを中心として組織されている行為体系からのぞかれて、『人間有機体システム』という行為の条件のひとつを構成する、と考えられるにいたったからである。
このような修正を可能にしたのは、リッツ兄弟のピアジェ研究の成果である。…行動体系は、パーソナリティ体系を支え、その基礎となっていると考えられるべきであり、同時にそれは、人間有機体システムの生理的構造そのものとも区別されるべきであるという」322-3頁
「パーソンズは、多様な発展を包括する『進化』という考えかたが有用である、と主張する。文化相対主義におちいらないためにも、体系的な比較を可能とするためにも、『進化』という観点が重要であるというのである。そのさい進化ないし進歩は、4つの局面からなると考えられる。(1) 分化、(2) 適応能力の上昇、(3) 包摂、(4) 価値の普遍化の4局面が、それである。彼はしばしばこれを、『進化的(進歩的)変動の図式』と呼んでいる。…
以上のような進化的変動の4局面が、適応的上昇=A(適応)、分化=G(目標達成)、包摂=I(統合)、価値の普遍化=L(潜在的なパターンの維持)と、AGIL図式を基礎としていることに、読者はすでに気づいているかもしれない。この4局面をとおして展開する進化は、新たなレヴェルの適応能力をつくりだし、それは文明史という観点からみれば、『累積的』で、『不可逆的過程』であると考えられる」256-7頁
「パーソンズは1960年代中葉以降、『進化』という観点を前面に打ちだすにいたる。歴史的変動はランダムに起こるものではなく、それは『進歩』=『進化』という<方向性>をもつものと考えられる。むろんそれは、『より古い19世紀的な単線的進化という考え』と同じではなく、また短期的な過程と想定することもできない。…歴史過程は、『枝をもつ木』とみなすべきである。一本の幹から多くの枝をのばしつつ、木それ自体も高く成長しつづけるというイメージは、多様な過程を包みこみつつ発展するありかたを示している。
文化は短期的な変動というよりもむしろ、長期的な『進化』過程を通じて変動するという意味で、有機体の『遺伝子』と『機能的類似性』をもつとみることができる。これは、生物学者アルフレット・エマーソンの『遺伝子』と『シンボル』との並行関係という認識にヒントをえたものであるが、同じく生物学者のエルンスト・マイアの『自然淘汰』概念も重要である。マイアによれば、『自然淘汰とは、遺伝[子]型genetypeの異なった生存能力を規定する過程である』…
このような認識を社会的・文化的な生存能力に適用するならば、文化的伝統は遺伝[子]型に、文化を体現した多様な社会制度は表現型にあたる、と考えられる」254-5頁
「パーソンズ、クラックホーン、マレー、オルポートらを結びつけたものが、精神分析学とフロイトへの関心であった…われわれはこうした関連において、パーソンズが、1946年から『ボストン精神分析研究所』で、正規に精神分析の訓練をうけたことに注目しておきたいと思う。…彼は、両親・義父・兄のあいつぎ死去による精神的痛手から、個人的に精神医療の助けを求める必要を感じていたという。
…彼の訓練分析家となったのは、グリート・ビブリングである。彼女は、ナチスのオーストリア占領によって亡命を余儀なくされるまで、ウィーンにとどまっていた人物で、フロイト・サークルの最初のメムバーのひとりである。パーソンズは、ビブリングの指導をうけることができたことについて、『非常に幸運であった』と記している。パーソンズは講義・セミナー・臨床セミナーなどを通じて、5年間継続して訓練を受け、1951年春に、正規に訓練を終了した。その結果彼は、医師資格をもっていないにもかかわらず、『ボストン精神分析協会』の準会員に選出され、生涯を通して、精神分析家の訓練のための講義を、担当しつづけることになる」173-4頁→
社会学と誤用進化論😅を中心に読書記録をしてをります
(今はストーン『家族・性・結婚の社会史』1977年)
背景写真はボルネオのジャングルで見た野生のメガネザル
https://researchmap.jp/MasatoOnoue/