「近世前期の嫁は、生家の財産を継承することを前提として生家の檀那寺を婚家に持ち込んでいた。嫁は財産に付随した先祖祭祀を主体的に担うことを期待されていたといえよう。さらに嫁が持ち込んだ檀那寺は子どもに継承され、先祖祭祀も子どもに継承された。しかし、一家一寺が浸透するなかで、嫁の持ち込んだ檀那寺は子どもに継承されなくなり、続いて嫁が持ち込んだ檀那寺も婚家の檀那寺に変更される。
持ち込み半檀家から一家一寺への転換において、他家に嫁いだ女性が生家の檀那寺を持ち込むことは否定された。そのことは、嫁いだ女性が生家の先祖祭祀を主体的に行なわなくなるとともに、先祖祭祀の根拠である財産も継承されなくなることを意味していたと考えられる。嫁入婚が支配的な社会においても、財産や先祖祭祀の持込みを背景に女性の婚家での地位は低くなかったと思われる。しかし、女性が生家における継承権を失って生家帰属から婚家帰属となっても、婚家においては依然として主体的な継承権は与えられず、女性の地位は相対的に低下したのではないだろうか」311頁
「核家族は、アフリカおよびアノミー的家族類型の対照カテゴリーに勝るが、しかし近代においてのみである。より重要なのは、核家族類型に支配される国が、2000年前の技術導入において世界の他地域に有意に遅れをとったことである。追いついた後、今では他の国を有意に凌駕しているのだ。…権威主義家族類型はさらに大きな革新性を示し、過去2000年間に核家族類型を一貫して凌駕した。共同体家族類型は特に興味深い時間トレンドを示す。それらは中世までは高度に革新的だったが、紀元1500〜2000年の間の時期を通じてこの優位性を完全に失った。この発見は[イスラーム地域の]『幸運の逆転』を思い起こさせる。…要約すれば、仮説9は、核家族類型が支配する社会が他の社会よりも革新的であるという意味で、我々の発見により支持される。しかしながら、権威主義家族類型が支配する社会はさらに革新的である」pp.114-5.
<4.3 Family types and constitutional structure>
「法の支配に関しては、我々は前と似たパターンを観察する。すなわち、核家族および権威主義家族類型は対照カテゴリーよりも勝り、共同体家族類型は対照カテゴリーに比してパフォーマンスが低い。興味深いことに、権威主義家族類型は他の全ての家族類型よりもはるかにパフォーマンスが良く、それは仮説4で説明したトッドの予測と矛盾する。ここからは、権威の受容が政府の有効性のみならず、法の支配レベルにとっても望ましいのではないかと類推し得る。
…彼[トッド]は外婚共同体類型と立憲的選択の間に明示的にはいかなる関連も主張しなかったが、我々はこれらの国で法の支配レベルが低いことを見出す。連邦主義は特定の家族類型と統計的に有意ではなく、それにより仮説5は棄却される」p.112.
<4.2 Family types and state formation>
「我々は、内婚制が[国家形成の]障害物であるという議論に何の支持も見出さない。核家族ないし権威主義家族類型に支配される国は最も早期の国家形成を示し、それに共同体家族形態が続き、それはアフリカおよびアノミー的家族形態の家族よりも早く国家を形成した。
過去の国家から現代の国家脆弱性に移ると、我々は、核家族および権威主義家族形態が最も脆弱でなく、内婚共同体家族類型に支配される国家が他よりも脆弱であることを見出す。内婚と外婚共同体家族の違いは統計的に有意でないが、<表3>で描かれたように、外婚共同体類型は2番目に高い内婚を実践していることに留意すべきである。現代の政府有効性に関しては、共同体家族類型が再び最もパフォーマンスが悪い。興味深いことに、権威主義家族類型の国の政府は、飛び抜けて有効な政府を持っている。この発見のあり得る解釈は、もし(国家)権威の受容が規範化されていれば、政府が有効になるのはより容易だというものだ。全体として、経験的証拠は仮説3と一貫している。内婚を実践する社会は国家を形成するのが遅くはないものの、高い正当性ないし有効性を有する強い国家をもたらすことが難しかったのだ」pp.110-2.
〈3. Data and estimation approach〉
「権威主義家族類型は、たとえこの家族類型が歴史的に成人した息子が親と暮らすことにより特徴づけられるとしても、驚くべきことに最も弱い家族紐帯と結びついている。少なくとも内婚共同体家族類型は、この特質を共有しつつ、全ての家族類型の中で最も強い家族紐帯を示すことを確証している。…内婚共同体家族類型が他のいかなる家族類型よりもイトコ婚を多く示すのは驚くべきことではないが、しかしそれに外婚共同体類型(そしてアフリカ/アノミー的家族類型)が続いており、そのことは共同体家族間の比較が、内婚の帰結を同定する良い方法ではないことを示唆する」p.108.
〈2. Theory〉
トッドから導出される仮説1「核家族に支配される社会は他の社会よりも、人種差別主義のレベルが低い」
仮説2「内婚制家族類型に支配される社会のメンバーは、他の社会のメンバーよりも、自分自身の人生へのコントロールが低いと感じている」
仮説3「内婚制家族類型に支配される社会は他の社会よりも、強い国家構造を形成しにくい」
仮説4「権威主義家族類型に支配される社会は、他の社会よりも低い法レベルを示す」
仮説5「権威主義家族類型に支配される社会は他の社会よりも、連邦的に組織されやすい」
仮説6「核家族類型に支配される社会は、権威主義家族類型に支配される社会よりも、より頻繁な政府の転覆(turnover)を経験する」
仮説7「核家族類型に支配される社会は他の社会よりも、より活力ある市民社会を持つ」
仮説8「核家族類型に支配される社会は、他の社会よりも産業化が早い」
仮説9「核家族類型に支配される社会は、他の社会よりも革新的である」
仮説10「権威主義家族形態に支配される社会は、共同体家族ないし核家族形態に支配される社会よりも、所得不平等のレベルの低さによって特徴づけられる」pp.103-7.
社会学と誤用進化論😅を中心に読書記録をしてをります
(今は平井・落合・森本編『結婚とケア』2022年)
背景写真はボルネオのジャングルで見た野生のメガネザル
https://researchmap.jp/MasatoOnoue/