「落合はアジアの多様な結婚を『家父長的結婚(patriarchal marriage)』と『しなやかな結婚(flexible marriage)』という2つの理念型から説明する。片方の極に中国やインドといった父系親族組織をもつ社会に典型的な『家父長的結婚』を、もう1つの極にタイのような双系的親族組織をもつ社会に典型的な『しなやかな結婚』を付置し、アジア各地の特徴はこの2つの理念型の間に位置づけられるという」6-7頁

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「近世前期の嫁は、生家の財産を継承することを前提として生家の檀那寺を婚家に持ち込んでいた。嫁は財産に付随した先祖祭祀を主体的に担うことを期待されていたといえよう。さらに嫁が持ち込んだ檀那寺は子どもに継承され、先祖祭祀も子どもに継承された。しかし、一家一寺が浸透するなかで、嫁の持ち込んだ檀那寺は子どもに継承されなくなり、続いて嫁が持ち込んだ檀那寺も婚家の檀那寺に変更される。
 持ち込み半檀家から一家一寺への転換において、他家に嫁いだ女性が生家の檀那寺を持ち込むことは否定された。そのことは、嫁いだ女性が生家の先祖祭祀を主体的に行なわなくなるとともに、先祖祭祀の根拠である財産も継承されなくなることを意味していたと考えられる。嫁入婚が支配的な社会においても、財産や先祖祭祀の持込みを背景に女性の婚家での地位は低くなかったと思われる。しかし、女性が生家における継承権を失って生家帰属から婚家帰属となっても、婚家においては依然として主体的な継承権は与えられず、女性の地位は相対的に低下したのではないだろうか」311頁

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「権威主義家族類型の国は、再分配後の所得不平等レベルが最も低い。このことが意味するのは、権威主義家族に支配される国が他のいかなる家族類型よりも、国家を用いて所得不平等を減らしているということだ。結論的には、仮説10もまたデータから支持される」pp.114-5.

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「核家族は、アフリカおよびアノミー的家族類型の対照カテゴリーに勝るが、しかし近代においてのみである。より重要なのは、核家族類型に支配される国が、2000年前の技術導入において世界の他地域に有意に遅れをとったことである。追いついた後、今では他の国を有意に凌駕しているのだ。…権威主義家族類型はさらに大きな革新性を示し、過去2000年間に核家族類型を一貫して凌駕した。共同体家族類型は特に興味深い時間トレンドを示す。それらは中世までは高度に革新的だったが、紀元1500〜2000年の間の時期を通じてこの優位性を完全に失った。この発見は[イスラーム地域の]『幸運の逆転』を思い起こさせる。…要約すれば、仮説9は、核家族類型が支配する社会が他の社会よりも革新的であるという意味で、我々の発見により支持される。しかしながら、権威主義家族類型が支配する社会はさらに革新的である」pp.114-5.

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<4.4 Family types and post-constitutional outcomes>
「<表7>は、産業化のタイミングに関わる仮説8だけが、データから支持を見出すことを示している。内婚共同体類型に支配される国が、再び注目に値する。それらの政府は最も長く権力に留まり、市民社会が最も弱く、産業化は共同体家族類型でない国よりも遅く生じた。再び、共同体家族類型は発展の有害転帰とリンクしている」p.113.

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<4.3 Family types and constitutional structure>
「法の支配に関しては、我々は前と似たパターンを観察する。すなわち、核家族および権威主義家族類型は対照カテゴリーよりも勝り、共同体家族類型は対照カテゴリーに比してパフォーマンスが低い。興味深いことに、権威主義家族類型は他の全ての家族類型よりもはるかにパフォーマンスが良く、それは仮説4で説明したトッドの予測と矛盾する。ここからは、権威の受容が政府の有効性のみならず、法の支配レベルにとっても望ましいのではないかと類推し得る。
 …彼[トッド]は外婚共同体類型と立憲的選択の間に明示的にはいかなる関連も主張しなかったが、我々はこれらの国で法の支配レベルが低いことを見出す。連邦主義は特定の家族類型と統計的に有意ではなく、それにより仮説5は棄却される」p.112.

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<4.2 Family types and state formation>
「我々は、内婚制が[国家形成の]障害物であるという議論に何の支持も見出さない。核家族ないし権威主義家族類型に支配される国は最も早期の国家形成を示し、それに共同体家族形態が続き、それはアフリカおよびアノミー的家族形態の家族よりも早く国家を形成した。
 過去の国家から現代の国家脆弱性に移ると、我々は、核家族および権威主義家族形態が最も脆弱でなく、内婚共同体家族類型に支配される国家が他よりも脆弱であることを見出す。内婚と外婚共同体家族の違いは統計的に有意でないが、<表3>で描かれたように、外婚共同体類型は2番目に高い内婚を実践していることに留意すべきである。現代の政府有効性に関しては、共同体家族類型が再び最もパフォーマンスが悪い。興味深いことに、権威主義家族類型の国の政府は、飛び抜けて有効な政府を持っている。この発見のあり得る解釈は、もし(国家)権威の受容が規範化されていれば、政府が有効になるのはより容易だというものだ。全体として、経験的証拠は仮説3と一貫している。内婚を実践する社会は国家を形成するのが遅くはないものの、高い正当性ないし有効性を有する強い国家をもたらすことが難しかったのだ」pp.110-2.

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〈4. Testing Todd〉
<4.1 Family types and ideology>
「<表4>は核家族の国で他の国よりも人種差別主義が有意に少ないことを示し、それは我々の第1の仮説と符合する。人種差別主義と共同体家族類型の間には、予想外に強い関連がある。内婚および外婚共同体家族類型の双方は、我々の参照カテゴリーよりも有意に多い人種差別主義を示す。…これ[仮説2]は我々の結果からは支持されず、どの家族類型も、それが個人の人生にどれくらい統制を及ぼすかについての個人の知覚に並外れた影響を行使しはしないことを示している」p.110.

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〈3. Data and estimation approach〉
「権威主義家族類型は、たとえこの家族類型が歴史的に成人した息子が親と暮らすことにより特徴づけられるとしても、驚くべきことに最も弱い家族紐帯と結びついている。少なくとも内婚共同体家族類型は、この特質を共有しつつ、全ての家族類型の中で最も強い家族紐帯を示すことを確証している。…内婚共同体家族類型が他のいかなる家族類型よりもイトコ婚を多く示すのは驚くべきことではないが、しかしそれに外婚共同体類型(そしてアフリカ/アノミー的家族類型)が続いており、そのことは共同体家族間の比較が、内婚の帰結を同定する良い方法ではないことを示唆する」p.108.

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〈2. Theory〉

トッドから導出される仮説1「核家族に支配される社会は他の社会よりも、人種差別主義のレベルが低い」

仮説2「内婚制家族類型に支配される社会のメンバーは、他の社会のメンバーよりも、自分自身の人生へのコントロールが低いと感じている」

仮説3「内婚制家族類型に支配される社会は他の社会よりも、強い国家構造を形成しにくい」

仮説4「権威主義家族類型に支配される社会は、他の社会よりも低い法レベルを示す」

仮説5「権威主義家族類型に支配される社会は他の社会よりも、連邦的に組織されやすい」

仮説6「核家族類型に支配される社会は、権威主義家族類型に支配される社会よりも、より頻繁な政府の転覆(turnover)を経験する」

仮説7「核家族類型に支配される社会は他の社会よりも、より活力ある市民社会を持つ」

仮説8「核家族類型に支配される社会は、他の社会よりも産業化が早い」

仮説9「核家族類型に支配される社会は、他の社会よりも革新的である」

仮説10「権威主義家族形態に支配される社会は、共同体家族ないし核家族形態に支配される社会よりも、所得不平等のレベルの低さによって特徴づけられる」pp.103-7.

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「成長を止める前に人口がZ点に到達するならば、人口の大部分は悲惨な状態で生活することになるだろう。他方、X点で人口が安定する場合、危機とはかけ離れた状態で生活をするだろう。第2のの低圧力型の状態は『イングランド型』の解決と呼びうるものである。イングランドのほとんどの階級の寿命は王政復古の世紀にたえず上昇したといわれている。そしてまた、この世紀を通じてイングランドにおいては、出生率はどちらかといえば低かったという証拠がある。確かに、この時期には人口はほとんど増大しなかった一方、生活水準は上昇しつつあった」54-5頁

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