「近代の家族変動と社会変動をとらえるための理論的基礎は人口転換(demographic transition)とジェンダーであるべきだと考えている。…産業革命が『物の(生産の)近代』を出現させたとすれば、『人の(再生産の)近代』を生み出したのは人口転換であった…
人口転換は、近代家族の成立を可能にする条件を生み出した。…近代家族の子ども中心主義という心性のいわば人口学的下部構造である。
…人生の安定性と予測可能性が高まり、家族経験の同質性が高まったとマイケル・アンダーソンは言う…
…筆者[落合恵美子]が『社会の中にいくつかある家族類型のひとつ』でしかなかった『19世紀近代家族』と、『社会のどの位置にいる人にとっても、同型的な家族が成立しているはずだということを前提としている』『20世紀近代家族』を区別…山田昌弘も実態レベル(実際の家族が近代家族の性質を備えている)と制度レベル(社会が近代家族を前提として構成されている)を区別して、前者を『近代家族』、後者を『近代家族システム』と呼んでいる…人口転換は制度レベルでの『近代家族システム』の成立を可能にした」534-5頁
「現代フェミニズムの家族に対するもっとも重要な認識は、性別分業の問題以前に、家族を私的領域として他の社会領域から切り離す公私分離規範に対する疑義にこそ求めるべきだとも、言いうるだろう」558頁
「フェミニズムの視点に立つならば、『近代家族』の近代性には、大きな疑問が付与されることになる。少なくとも『近代家族』は、家族の最終形態の類型であるどころか、近代社会の基本的価値観が浸透する過程において大きな変動を被らざるをえない類型であると、言いうるだろう」564頁