「近代の家族変動と社会変動をとらえるための理論的基礎は人口転換(demographic transition)とジェンダーであるべきだと考えている。…産業革命が『物の(生産の)近代』を出現させたとすれば、『人の(再生産の)近代』を生み出したのは人口転換であった…
人口転換は、近代家族の成立を可能にする条件を生み出した。…近代家族の子ども中心主義という心性のいわば人口学的下部構造である。
…人生の安定性と予測可能性が高まり、家族経験の同質性が高まったとマイケル・アンダーソンは言う…
…筆者[落合恵美子]が『社会の中にいくつかある家族類型のひとつ』でしかなかった『19世紀近代家族』と、『社会のどの位置にいる人にとっても、同型的な家族が成立しているはずだということを前提としている』『20世紀近代家族』を区別…山田昌弘も実態レベル(実際の家族が近代家族の性質を備えている)と制度レベル(社会が近代家族を前提として構成されている)を区別して、前者を『近代家族』、後者を『近代家族システム』と呼んでいる…人口転換は制度レベルでの『近代家族システム』の成立を可能にした」534-5頁
「同棲における関係持続性というテーマは実証研究では定番のものとなっている。アメリカでは、同棲経験者がその後結婚した際の離婚率の高さが研究者の関心を集めた…現在のところはセレクション効果であるという見方が有力である。つまり、自由な関係性への志向性の度合いが同じレベルにある人たちを比べた場合、同棲経験それ自体がその後の結婚の解消を促進する、という証拠はない、ということである。
…L. バンパスとH.-H. ルーによれば、アメリカでも親が同棲関係にある子どもの割合は増えており、かつそのために子どもにとっては家族関係が不安定化していることが実証されている」580頁
山田昌弘「日本家族のこれから——社会の構造転換が日本家族に与えたインパクト」649-62頁