「近代の家族変動と社会変動をとらえるための理論的基礎は人口転換(demographic transition)とジェンダーであるべきだと考えている。…産業革命が『物の(生産の)近代』を出現させたとすれば、『人の(再生産の)近代』を生み出したのは人口転換であった…
人口転換は、近代家族の成立を可能にする条件を生み出した。…近代家族の子ども中心主義という心性のいわば人口学的下部構造である。
…人生の安定性と予測可能性が高まり、家族経験の同質性が高まったとマイケル・アンダーソンは言う…
…筆者[落合恵美子]が『社会の中にいくつかある家族類型のひとつ』でしかなかった『19世紀近代家族』と、『社会のどの位置にいる人にとっても、同型的な家族が成立しているはずだということを前提としている』『20世紀近代家族』を区別…山田昌弘も実態レベル(実際の家族が近代家族の性質を備えている)と制度レベル(社会が近代家族を前提として構成されている)を区別して、前者を『近代家族』、後者を『近代家族システム』と呼んでいる…人口転換は制度レベルでの『近代家族システム』の成立を可能にした」534-5頁
「半圧縮近代である日本は高齢化の開始が遅く、ヨーロッパ諸国が高齢社会(高齢化率14%以上)となった1980年代にも人口学的好条件を保っていた。80年代の日本の経済的優位は、少なくとも部分的には欧米諸国との人口学的条件の違いに寄っていた」541頁
人口ボーナス
「小山静子が発見したように、良妻賢母はヨーロッパ起源の近代思想であり、子どもの教育における母親役割の強調は儒教思想では見られなかった…しかし、第1次世界大戦頃から、個人としての女性の解放を主張する第1期フェミニズムがさかんになると、そちらを欧米的な女性観と見なして、良妻賢母は東洋的伝統であったかのように思い込むという取り違えが起きた。興味深いことに、この取り違えは日本のみでなく同時期の韓国や中国でも起きている」541頁