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【ほぼ百字小説】(5336) 環状線と思われているが、実際には螺旋状線で、だから一周回ったそこは同じ駅ではなく、一段上か下の別の駅。違いはわずかだから支障はないが、何周もすると大きくなるから、内回り外回り、相殺するように乗ること。
 

【ほぼ百字小説】(5335) カミツキガメをカミツケナイガメたちが叩いている。それは、麩ばかり食っている自分たちの噛みつけなさゆえの行為なのだろうが、カミツキガメにできてカミツケナイガメにできないことは、噛みつくことだけではない。
 

【ほぼ百字小説】(5334) そろそろまた自分のものではない台詞を転がしながら歩きたい、などと思っていたら、道の向こうからそれらしきものが転がってきた。まだどういうものなのか見えないが、見えたところで転がしてみなければわからない。
 

【ほぼ百字小説】(5333) 骨折していた妻の指に何ヶ月も入っていた針金が抜けて、これでもう針金入りではなくなったが、それでも筋金入りの何かであることには変わりなくて、そしてたぶんその筋金が今回の針金の原因でもあったのだろうなあ。
 

【ほぼ百字小説】(5332) 動物の足跡だ。公園とか神社とか、そんな土のあるところで見かける。それに気がついてからは、必ず発見できるようになった。いつもいるのか。そう思うとたまらなくなって、これからライトを手に縁の下に潜ってみる。
 

【ほぼ百字小説】(5331) 幸い雨は降っていなかったので鴨川の河川敷に下りて橋桁を見上げながら、今日朗読する文章を軽く流して読んでみる。少々声を出しても川の音が消してくれる。そうか、これを使って会話における距離を詰めているのか。
 

【ほぼ百字小説】(5330) 持ち時間からして全部を読むのは無理で、だから途中で切るしかない。それなら、途中で切られる、という形にすれば、そういう終わりかたにはなるか。とまあそんなふうなことを思いつき、そのあたりから逆算してみる。
 

【ほぼ百字小説】(5328) 箱庭のような風景の中に置かれていた。今の自分は、この箱庭の部品のひとつらしい。そう気づいたのは、自分もそんな箱庭を作ったことがあるから。自分の番が終わったと考えるべきか、自分の番が来たと考えるべきか。
 

【ほぼ百字小説】(5327) コース取りを考えながらゆっくりたどってみる。なにしろ自分の中から出てきたものだから、曲がるところも伸びるところも折れるところもしっくりくる。しっくりし過ぎなのかも。だから、ちょっと無理することにする。
 

【ほぼ百字小説】(5326) 前は、踏みたくて仕方がないが踏みたくて踏んだのがバレるのはまずいから、そこに足を置くための理由をあれこれ考えていた。今は、踏みたくて仕方がない者のためにそこに足を置く理由を考えてあげる商売をしている。
 

【ほぼ百字小説】(5325) あのときに見た渦ではなく、今は暗い穴に見える。宇宙ステーションの回転に合わせて自分も回転すると、宇宙ステーションは静止して見える。映画の中のそんなシーンを思い出す。映画って本当は動いていないんだよな。
 

【ほぼ百字小説】(5324) あの事故物件が今も取り壊せないままなのは、その特殊な内部構造のせいだという。事件が迷宮入りしなかったのが不思議なほどの迷宮構造で、内部には様々なトラップがあり、その攻略法は殺された主人の頭の中だとか。
 

【ほぼ百字小説】(5323) 失敗した蝉を見た。公園の土の上に仰向けに転がって、くしゃくしゃの羽根はまだ白くて、その白の上を無数の黒い蟻がちょこまかと動き回っていた。地面にはもう長い行列があって、それは立派な葬列に見えなくもない。
 

【ほぼ百字小説】(5322) 雲の峰を登っているとき、それは雲の峰だとわからず、色の無い岩山の映像の中にいるように感じる。ある程度まで登って振り向いて初めて、それが雲の峰として見える。普段、自分がその一部だとわからないのと同じか。
 

【ほぼ百字小説】(5321) プロジェクションマッピングでいくことにしました。高いビルの壁さえあれば大丈夫。森も公園も欲しいだけいくらでも作れます。そして、その中でみんな幸せに暮らしましたとさ。そういうプロジェクションマッピング。
 

【ほぼ百字小説】(5320) あれれ、今まで間違っていたのか、と今さら知ったが、まあ今からでも、と歩きかたを直してみる。なるほどこうだったのか、と納得して走りかたも。そうなると同じ流れで、泳ぎかただって変わってくるし、飛びかたも。
 

【ほぼ百字小説】(5319) いっしょに落下することで、見かけ上は重力をキャンセルできる。もちろんその分の重力はあとで受け取ることになるが、それまではこうして宙に浮いていられる。あ、もうすぐ地面。じゃあ次は、時間を引き延ばす方法。
 

【ほぼ百字小説】(5318) 人の形をした白い花が黒い地面に散っていて、それを隣の枝の棘に突き刺せばいい。見本は無数にある。名前は書いても書かなくてもいいのか。こんなとき、相手の名前を書きたい人と書きたくない人とに分かれるようだ。
 

【ほぼ百字小説】(5317) 発掘された骨を組み立てて作った骨格に肉付けすることで復元されたのだと聞かされていたが、最近になってその骨が捏造されたものだったと判明してしまって、この先は存在しない生き物として生きていくことになった。
 

【ほぼ百字小説】(5316) 踏み抜かないよう歩いていて、だからあの奇妙な足運びなのか。なら、そんなところ歩かなければいいのに、と思うが、踏み抜かず歩けることで利口さを示せると考えているらしい。まあ歩くよりそっちが目的なんだろう。
 

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