新しいものを表示

【ほぼ百字小説】(5315) たとえば、あるはずのものがなかったり、ないはずのものがあったり。そんな不思議は日常的に起こるが、きっと合理的な説明があって、でも、もういない人がいる、というこれは、説明抜きでありがたく受け入れようか。
 

【ほぼ百字小説】(5314) 水槽になった。いや、馴染みになった何匹かのお陰で水槽だったと気づかされたのか。すいっ、と境界面、つまり皮膚、に近づいてきたなと思ったら、金魚のように身体を翻して見えなくなった。もっといい水槽になろう。
 

【ほぼ百字小説】(5313) 妻と娘はいっしょに遊びに行ったり、同じアニメやドラマで盛り上がっていて、わかってないな、という顔をされたり、実際わからない話をよくしていて、まあ身近に知らない世界があるのはいいことだよな、と亀に話す。
 

【ほぼ百字小説】(5312) 撫でさせてくれそうな黒猫がいた、と妻が言っていたが、近所に黒猫なんていたっけ。あれか、と思ってよく見たら、前から知っている不愛想な白黒の斑猫だ。見せかたで黒猫に見せられるのか。あいつ、使い分けてるな。
 

【ほぼ百字小説】(5311) キリンのようだがクレーン。もともとキリンに似ていたところに、キリンを真似て歩くようになったのだから当然か。キリンに倣って高いところにあるものを食べている。それは昔、クレーンで高いところに置いたものだ。
 

【ほぼ百字小説】(5310) ひさしぶりの洗濯日和。物干しで待っている亀に煮干しをやると、くわえてうろうろして落として、また足もとに来るから、拾ってまたくわえさせて洗濯物を干しているとまた落として――。これ、いったい何のゲームだ。
 

【ほぼ百字小説】(5309) ついに超巨大ドミノ倒しの準備が完了。すべてがこのためだったのを知っている者も知らない者もいるが、目的は達成された。この惑星の生命の発生も進化も文明もすべてはこのため。そして今、最初のドミノが倒される。
 

【ほぼ百字小説】(5308) 万年生きる存在が、その万年目を百年も生きない存在といっしょに迎えることもあるだろう。百年も生きられなくても、万年目を迎えるところに立ち会うこともあるだろう。その万年の孤独を想像することもできるだろう。
 

【ほぼ百字小説】(5307) 大地だとばかり思っていたが、揺れ過ぎていたから船だったことがわかり、船だと思っていたが、地面みたいだから泥船だったことがわかり、噴水だと思っていたそれが吹き上がり過ぎていることには納得したが、もう遅い。
 

【ほぼ百字小説】(5306) どうせ変わらない、くだらない、興味がない、関わるのは馬鹿馬鹿しい、と棄権を呼びかける。自らの意志で積極的に棄権したことを示すために、白票を投じることを薦めたり。どうせ変わらない、と信じ込ませるために。
 

【ほぼ百字小説】(5305) 近所の動物園で人間が動物を演じる芝居が行われているので観に来たが、あいにくの雨。動物園は閑散としていて人間より動物のほうが多そう。人間を演じる動物が動物を演じる人間を演じている芝居みたいに見えてくる。
 

【ほぼ百字小説】(5304) 水溜まりから何かが出てくる。前は首から上だけだったのが、今は胸のあたりまで出ていて、両手も使える。だからジャンケンをしよう、としきりに誘ってくる。してもいいけど離れたままでね。そう言うと舌打ちされた。

【ほぼ百字小説】(5301) 袋小路だが行き止まりではなかったことがわかったのは、このあいだの記録的な大雨のおかげ。勢いよく流れ込んできた水は、突き当りの地面に何の抵抗もなく吸い込まれていった。後に残されたいらないものが我々、か。
 

【ほぼ百字小説】(5300) 雨の中に白い何かが立っている。塩の塊のようにも見えるが、人の形をしているから立っているように見える。雨でだんだん溶けて、雨上がりには形もない。残った水溜まりの中に大きなナメクジが死んでいることがある。
 

【ほぼ百字小説】(5298) 川が二本、十字に交差していて、交差点を四角く囲んで橋が四つあるから当然、橋を四つ渡れば元の場所。でも、この日この時刻この場所からこの向きに橋を四つ渡ると元の場所ではない場所に着く。そういう装置なのだ。
 

【ほぼ百字小説】(5297) ついさっきまであんな暗かったが、今はまぶしいほどの明るさだ。ついさっきまではあんなに寒かったが、今は汗ばむほどの温かさだ。それらに関しては、良いことには違いない。すべてが燃えていることに目をつぶれば。
 

【ほぼ百字小説】(5296) 葉巻型UFOが子供の頃から好きだったが、近頃めっきりその名前を聞かないのは、喫煙者がいなくなってしまったからか。葉巻型UFOどころか、葉巻を目撃することすらもうないのかも。いちどくらいは見たかったな。
 

【ほぼ百字小説】(5295) 人食い巨大怪獣に見えていたが、じつは生きた状態で呑み込まれるだけで、首輪状のリングによって食道の手前で留められているのだ。鵜飼いのようなことが行われている。まあ、最終的に食われる、という点は同じだが。
 

【ほぼ百字小説】(5294) 生温い水饅頭の中にいる。すべてがどんよりしていてべたべたと甘ったるくたぶん汗だくだ。あんなに好きだった水饅頭だが、涼しさの欠片もない。まあ写真では温度はわからなかったからな。騙されたのかなあ、と思う。
 

【ほぼ百字小説】(5293) 夕方の公園で、地面に寝転がって抱きあっていた。猫ではないみたいに向かいあい、抱きしめあったり、互いの首筋を甘噛みしあったりしてじつに楽しそうな彼らは、本当に猫なのか、あるいは猫を被っている何かなのか。
 

古いものを表示
Fedibird

様々な目的に使える、日本の汎用マストドンサーバーです。安定した利用環境と、多数の独自機能を提供しています。