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【ほぼ百字小説】(5042) 男女がなにやら揉めていて、口論からつかみ合いになり、動作も声も大きくなっていく。男の身体が倍ほどに膨らみ、女はばさばさ宙を舞う。興奮して元の姿に戻ってしまったらしい。今は求愛ダンスからやり直している。
 

【ほぼ百字小説】(5041) 捨てるに捨てられないままいっしょに暮してきた蒲団は、今ではもう一階すべてを覆いつくす大きさにまでなってしまい、そろそろ家から溢れ出すのか、あるいは、家を背負って動き出すのか。二階から見届けようと思う。
 

【ほぼ百字小説】(5040) パン屑目当てに集まった鳩たちに全身が覆われたところで、ぱんっ。いっせいに鳩が飛び去ったあとには誰もいない。最初は奇術として行われていたらしいが、種も仕掛けも無しでやれることが、今ではよく知られている。
 

【ほぼ百字小説】(5039) 町外れのなんにもなかった赤土の荒れ地が世界の果てなのだと思っていた。そこが世界の果てなどではないことを知ったときには、もうそこにもいろんなものが建っていて、だからとっくに世界の果てではなくなっていた。
 

【ほぼ百字小説】(5038) 立方体にしか見えないが猫なのだ。限られた空間内に効率よく納まるため複数の猫で立方体を作っていて、遅れてきた猫が加わっても大きさは変わったように見えない。人間にはそんな能力はないから乗船できないようだ。
 

【ほぼ百字小説】(5037) とても全員は無理だろう、と思ったが、ここしかないなら、と狭い空間にパズルのように納まって、特に無理なく楽しく飲み食いできたのは、普段から舞台上で少々無理なことも当たり前の顔でやっている連中だからかも。
 

【ほぼ百字小説】(5036) いかにも食べられそうな色と形をした実をたくさんつけた木が、この町にはいくつも立っていて、でも誰もとらないから、やっぱり食べられないのだろう。越してきた頃よりだいぶ増えたのも、食べられないからだろうな。
 

【ほぼ百字小説】(5035) 蟹穴と呼ばれてはいるが、穴からたまに顔を覗かせるものは、もちろん蟹ではない。ひとつの穴にひとつ棲んでいるから、穴の数だけ報酬が受け取れる。だから肉より穴の部分が多くなっている者もいて、もう穴なのかも。
 

【ほぼ百字小説】(5034) 死ぬまで騙して欲しかった、なんて言うけどね、死んでから騙されてたってわかるのもあんまりいいもんじゃないよな。しかし,死んだあともこんな感じだなんて、どこにも書いてなかったもんねえ。騙されてたんだなあ。
 

【ほぼ百字小説】(5033) ロケットが雲を突き抜けて白煙を伸ばしながら上昇していくところを捉えた動画は飛行中の旅客機の窓からスマホで撮影してSNS上に置かれたもので、それを自宅のPCの画面で眺めているこれがSFではないとはなあ。
 

【ほぼ百字小説】(5032) どうやってもなぜか蠅が混入してしまって、物体電送実験は失敗続き。物体を電送する技術はあるのに蠅の侵入すら防げない、これひとつの不思議。などと納まっている場合ではなく、いっそ蠅男製造機として発表するか。

【ほぼ百字小説】(5031) 蠅だらけだと最初は思っていたが、蠅取り紙に貼り付いた蠅を見ると、さほど多くもなく、むしろ少ない。がんばって飛び回って数が多いように見せていたらしく、その数の少なさにいちばん驚いているのは他でもない蠅。

【ほぼ百字小説】(5027) 休むことなく次から次へと空中に動画が吐き出されていて、それらはヒトの見る夢によく似ている、と多くのヒトは感じるらしいのだが、それらが果たして悪夢なのかどうかとなると、外から見ているヒトにはわからない。

【ほぼ百字小説】(5026) 最近、同じ顔の人が増えた。まあ自分で自分の顔を選べるようになった時点で、こうなるだろうことはわかっていた。いちばん人気の顔がずっと不変、というわけでもなく、流行によって緩やかに変化していくというのも。

【ほぼ百字小説】(5025) 海岸で目玉を拾った。目玉を透して見ると、スノードームの中のように世界は降り続ける雪の中だ。そんな風景を見た目玉なのか、そんな風景に憧れた目玉なのか。見る見る雪は激しくなって、すぐに何も見えなくなった。

【ほぼ百字小説】(5024) また大きな波が来て、あとには見覚えのあるあれこれが残った。前はここにあって、波が持っていってしまったあれこれ。ではさっきの波は、前に来た波を逆転させたものなのか。あるいはこちらの記憶が逆転を始めたか。

【ほぼ百字小説】(5023) 踏切で電車の通過を待っている。ゆっくりゆっくり満員電車が通過していく。ゆっくりだから、吊り革を持って窓の外を見る顔がすべて同じ顔であることがわかる。向こうも同じくらい驚いた顔で、こっちの顔を見ている。

【ほぼ百字小説】(5022) お墓が歩いている。寂しい墓場を賑やかに変えるため建てられた商業施設に場所を奪われたのだ。最近はそんな自走式のお墓を町中でよく見かけるようになった。そんな彼らがたどり着く墓場が世界のどこかにあるという。

【ほぼ百字小説】(5021) 死んでお墓に入るのではなく、肉体を捨てお墓として生きるのだ。お墓に寿命はないから、理論上はいつまでもお墓として立ち続けられるとか。まあ普通はいろんな事情で埋められたり流されたり壊されたりするようだが。

【ほぼ百字小説】(5020) なぜ魚の鱗のようなこんな地形ができたのか、という疑問の答えが、魚の鱗のような地形ではなく巨大な魚の鱗なのだ、というものだったのは、この世界に慣れた身にはむしろ当然、と腑に落ちていきながら納得している。

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