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【ほぼ百字小説】(5019) 大袋のチョコレートを貪り食いながらコーヒーを飲み、本当にあったことをそのまんま文章に置き換えるためにあることないこと書き連ねているそれが例年通りの私のヘンテコなバレンタイン、ついでにその曲も吹いとけ。

【ほぼ百字小説】(5018) 引き込むために入口は小さく。吸い込むのではなく、自ら入ってくるように。曲がりくねらせるのは、先へ先へと進ませるため。空っぽにするのは、狭いことを悟らせないため。そんな暗くて狭い空間に、ぴたりと納める。

【ほぼ百字小説】(5017)「泥棒と差別主義者が守る国」「政治には金がかかると猿のボス」「お答えは差し控えねばなりません」「パーティ券とは言えパーティー券でなし」「無くなった記憶はすべて壺の中」「二階には床が抜けるほど本があり」

【ほぼ百字小説】(5016) 踏切で列車を見ている。警報機の点滅に合わせて母の横顔が赤く染まるのが夕焼けみたい、と思いながら見上げている。貨物列車は長くてなかなか通過は終わらないが、通過を待っているのではなく、これを見に来たのだ。

【ほぼ百字小説】(5015) 二階の窓際の席からは、環状線の高架の上を走る電車が見える。電車が来ると、通過し終えるまでなんとなく見続けてしまうのはいつものこと。だが今日はいつまでもそれが終わらず、まだ続いている。円環構造なのかも。

【ほぼ百字小説】(5014) あの白いやつ、餅のような猫なのか猫のような餅なのか。丸くなったり平たくなったり膨らんだり粘ったり伸びたりしているその様は、どちらであってもおかしくなくて両方のような気もするが、まあ食えばわかるのかな。

【ほぼ百字小説】(5013) また尻尾が出ている。隙間から尻尾だけが覗いている。その色も形も長さも太さも、すべて申し分ない。作為すら感じてしまうほど。だから、ひょいひょい揺れるそれを掴んで引っ張りたいという欲望に懸命に抗っている。

【ほぼ百字小説】(5012) ああそう言えばトイレは遠かったっけと思いつつ廊下を歩いているが、案の定なかなかたどり着けず、彼方に見えるトイレらしき灯りを見て思わず走り出したところで目が覚めたが、ああそう言えばトイレは遠かったっけ。

【ほぼ百字小説】(5011) 大学生の頃、落語研究会の合宿で夜中にトイレに行くと並んだ個室からなぜか話し声が。Kの声だ。恐る恐る外から声をかけても、反応がない。怖くなって激しくノックすると、明日の発表会のネタ繰りしてたのに、とK。

【ほぼ百字小説】(5010) 昨日までは空き地だったが、今朝は海だ。片側に波の音を聞きながら路地を歩く。まあ海が空になるよりはだいぶ受け入れやすいか。スコップとバケツを手に子供たちが駆けていく。はまぐりはまぐりーっ、と声が上がる。

【ほぼ百字小説】(5009) どの雲も亀の形、とは言っても、もちろん亀にもいろいろあって、それぞれが違う形ではあるが、それらどれもが亀の形であることに違いなく、空はさながら亀の形の展覧会のよう。昨日は魚の形だった。明日は何だろう。

【ほぼ百字小説】(5008) いつもあのいちばん高いビルを目印に歩く。迷路じみた路地でもあのビルはいつも見えるから方角を間違えることはない。なのに今日に限って、なかなかたどり着けない、そして今日に限ってあのビル、いちばん高くない。

【ほぼ百字小説】(5007) そうかっ、大蛸は、負うた子だっ。探偵が浅瀬を渡りながら叫んだ。くそっ、もっと早く気づいていればっ。ははあ、じゃあ吸盤は、九番なのかな。とは思ったが、なんか恥ずかしくて言い出せないうちに第三の犠牲者が。

【ほぼ百字小説】(5006) 幽霊が井戸から出やすいのは、井戸が人間の自我と繋がっているから。同じ幽霊が普段とは異なる井戸から出ることもできるのは、すべての井戸が意識の底で繋がっているから。この二つが超光速通信網の基本原理である。

【ほぼ百字小説】(5005) 夏の暑い盛りに火鉢で餅を焼いて大量に食う。日常の中のちょっと奇妙なそんな状況にもっていく段取りが見事で、それがあってこその蛇含草のリアリティと思っていたが、それは上方版だけだと知ったときの消化不良感。

【ほぼ百字小説】(5004) 毎年この行事のために弱い鬼が作られる。豆をぶつけられて逃げ回る様を見せつけることで、一種のガス抜きを行うのだ。以前は通常の鬼が弱い振りをして行っていたのだが、役目を忘れてキレる鬼が増えたためだという。

【ほぼ百字小説】(5003) 長年使ってきたあのソファを粗大ゴミに出すことに。回収に来る前夜、シールを貼って表に出した。中にいるものたちが夜のあいだに逃げ出せるように。朝になってずいぶん軽くなったソファを回収車がばりばりと食った。 

【ほぼ百字小説】(5002) たまに自分の番号がわからなくなる。間違えていて、間違えたまましばらく気づかないことも。とくに注意も警告もないので、自分で気づいたときに遡って修正しているが、間違えたままでも問題ないような気もしている。 

【ほぼ百字小説】(5001) 化石を作っている。巨大な何かの小さな欠片。次々作って、同じ地層に次々埋める。その欠片がいったいどの部分なのかはわからないし、全体像もわからない。そんなのは作る側ではなく掘り出した側が決めることだろう。

【ほぼ百字小説】(5000) 青空に五線譜、そして音符が出現した。いわゆる「未確認飛行物体」が、描いているのだ。どうやら彼らは、どの言語でもなくあれをこの惑星の共通語と解釈したらしい。共通語に堪能な者たちが、世界中から集められる。

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