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ジャネット・ウィンターソン『フランキスシュタイン ある愛の物語』

メアリー・シェリーが『フランケンシュタイン』を書いた1816年と現代、この2つの時代を基点にして様々な時間軸を行きつ戻りつしながら紡がれてゆく中で、そこへ徐々に創作上の存在が紛れ込んでくるという一見複雑な構成なのに、混乱せずグイグイ読める。

あらゆる二元論を超越していく物語で、その語りが本当に魅力的で大好きだった。
現代における登場人物たちが単なる過去の焼き直しに終わらず、新たな道を進んでいるのが良い。

それとこの『フランキスシュタイン』のように、登場人物の台詞に鉤括弧が付かない書き方の小説は、読みながら思考と発語が渾然一体となって届くような感覚が個人的にはとても好きで、なぜか集中して読める気がする。
今年出た海外文学にもこのスタイルの小説が何冊もあったのだけど、どれもすごく良かった。

エマ・ストーネクス『光を灯す男たち』も好きだった。

灯台から忽然と姿を消した3人の灯台守に、何が起きたのか。20年後、彼らの妻や恋人が当時のことを語り始める。
失われた歳月で胸に秘めていたものを、各人がほとんど独白に近い形でじっくりと語るさまが濃密で、人生の輪郭がはっきりと立ち上ってくるのがとても良かった。

残された女性たちには、昔も今も真相は分からぬまま。
ラストのヘレンの独白は悲痛だけれど、彼女たち3人がこれまでの歳月を経て、これまでとは違うお互いへの感情をもって並んで歩き出す兆しにじんわり熱くなる。

年末のミステリランキングの中に文芸作品が入っているのを見ると嬉しくなるのだけど、今年はエルヴェ・ル・テリエ『異常【アノマリー】』がランクインしていた!
エマ・ストーネクス『光を灯す男たち』やアンディ・ウィアー『プロジェクト・ヘイル・メアリー』を挙げている人もちらほらと。
この3冊は私もすごく好き。

過去にもマイケル・オンダーチェの『戦下の淡き光』や、ユーディト・W・タシュラーの『国語教師』や『誕生日パーティー』がランクインしていて、ミステリーというジャンルを広義的にみて文芸作品が入ってくると嬉しいし、もっと広く読まれてほしいな。

エリザベス・ストラウト『私の名前はルーシー・バートン』、すごくすごく良かった。

「私」が経験した過去の様々な出来事の回想が、ばらばらな時間軸で語られる。言ってしまえばそれだけなのに、めちゃくちゃ好きだ。
交わした会話の引っ掛かり、忘れがたい感情、今も残るその感覚。今となっては曖昧な、しかし確かな感触を伴う記憶の断片の積み重ね。

人生における些細な記憶や感情は自分の裡にだけあるもので、それを言葉にしたり残したり誰かと共有するわけでもなく、しかし消えたりはせず、ふとした瞬間に記憶が鮮やかに浮かび上がってくる。
読んでいる最中は物語と並行して、自分の裡にもある、今は沈んでいる感覚をずっと探っていた。

10月に買った本。

アフガニスタンの女性作家たち18名による短篇集『わたしのペンは鳥の翼』は、作家たちが虚構の物語にのせた現実の苦難とその表現に衝撃を受けた。
今年2月にイギリスで出版されたこの本が今日本で手に取れることに感謝。
23篇の作品はもちろん、このアンソロジーをめぐる経緯と2021年のタリバン支配前後の女性作家たちの状況も詳しく記した序文と後記、古屋美登里さんの訳者あとがきも含めて、作家たちと同時代に生きている今この時に、広く読まれてほしい。

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