ロバート・L・フォワード『Camelot 30K』(Tor, 1993)の表紙イラスト担当が「Shigemi Numaza」とあり、日本人っぽかったので調べたら沼澤茂美という天体写真家兼天文イラストレーターの方の作品だった。
「冥王星から見た衛星カロン」
https://www.atlasphoto.com/archives/13587
https://www.isfdb.org/cgi-bin/title.cgi?138417
内容は氷に覆われたカイパーベルト天体で人類が知的生命体ケラック(kerack)とコンタクトする話。買ったけど未読。
話の設定と画の描写が少しずれているので、既にあった天体画をTorが選んで表紙絵に使ったのかな。
騒動をちらちら眺めていたけど、ついに内部関係者からの情報提供が出て、それを基に候補者でもあったライターのChris M. Barkleyと作家のJason Sanfordが共同でまとめたレポートが出た。
https://file770.com/the-2023-hugo-awards-a-report-on-censorship-and-exclusion/
結論としては自己検閲だったということで、候補者の過去の言動や政治傾向が調査されていたと。また、中国側でも出版社による自己検閲があったらしいことが書かれている。下手するとヒューゴー賞自体の存続を揺るがすスキャンダルになってしまった……。
「中国政府のせいだけで、このようなことが起こったと信じている人があまりにも多いので、もう一度言わせてほしい。米国とカナダの委員がヒューゴー賞の検閲に協力したようだ!」
「私の意見では、McCarty氏ら西側の委員たちは、成都ワールドコン運営委員会や彼らと協力する中国の管理者たちに取り入ることで、自分たちで候補者を調査し裁定すれば、中国共産党当局者、検閲委員会のメンバー、または治安機関による直接的な検閲行為を阻止できると考えたのだと思う」
ハル・クレメントの連載エッセイ "Science for Fiction" (1977-1979)を読んだ。
新人作家中心だった短命のSF雑誌『Unearth』創刊号から最終号まで連載された全8回のうち、某アーカイブで読める7回分を読んだ。
第3回の掲載号だけがないのだが、これはおそらくウィリアム・ギブスンのデビュー作「ホログラム薔薇のかけら(Fragments of a Hologram Rose)」がその号に掲載されているからだと思う。
連載の内容はSF作家志望者に向けた科学エッセイ。もちろん科学ネタは今では情報が更新されている話が多いのだが、「(当時分かっている)科学的事実からどうやってフィクションに至るまでの想像を膨らませていくか」というのが主題なので、このプロセスに興味がある人にとっては今読んでもそれなりに楽しめる。
個人的には第2回の「遺伝子改変によって海棲人を設計するならどうなるか」という話が一番面白かった。
第1回 遺伝子改変。イントロ。
第2回 海棲人を設計する。
第3回 木星生命の話らしい(未読)。
第4回 タイタンの環境と生命。
第5回 電気反応による生命システム。
第6回 疑似科学(ヴェリコフスキー等)とSF。
第7回 透明人間を考える。
第8回 恐竜恒温説とE・R・バロウズ。
またKindleで英米SFをいくつも買ってしまった……安いやつがあるとついつい。邦訳が出ないのが悪い。そして買っても結局読まない自分が悪い。
ハル・クレメント『重力の使命』Mission of Gravity はハヤカワ文庫版の巻末附録エッセイ「メスクリン創成記」(原題 "Whirligig World", 初出はAstounding Science Fiction誌1953年6月号)が最高なので、いま手に入りやすい創元SF文庫版『重力への挑戦』に収録されていないのがもったいなさすぎる。
https://archive.org/details/Astounding_v51n04_1953-06_starhome/page/n99/mode/2up
ある作家のSFに関する1993年のエッセイ(英語)を読んでいたら、自然界には法則があるという話の中で、「生命の起源は間違いなく自然であり、原理的には解決可能な問題だが、『研究室のキューピッド』 が示唆するほど単純なプロセスではない。」みたいな文が出てきて、いまいち意味が分からない。
“Cupid of the Laboratory” って慣用句的なものなのかと調べたらそうでもなさそう。パルプSFの科学的でたらめさについて語っている箇所のすぐ後だったので、昔のSFにおいてしばしば見られる、発明家などの主人公に都合のよい女性キャラクターのことなのか? でもキューピッドなので、むしろそういった女性キャラと引き合わせるキャラのことなのか?
調べるとWilliam Lemkinによる同名短編がAmazing Stories誌1937年8月号に載っているが、文脈的にたぶんこれのことではなさそう。
まあ「生命の起源は、お手軽に男女が引き合わされ(て子供をつく)るような単純なプロセスではない」というようなことを言いたいのかなー。
『Mirror Matter』はJoel Davisとの共著で、反物質についての解説書。元々John Wiley & Sons社からハードカバーで出ていたが、今は自費出版事業を手掛けるiUniverse社のプリント・オン・デマンド本として出ている。
反物質の製造方法、貯蔵技術、反物質分子、反水素氷、反物質ロケット、そこからの太陽系開拓と恒星間航行までを扱っている。
フォワードは反物質(antimatter)の「anti」という接頭辞で否定的な印象を持たれたくないので、通常の物質の鏡像ということから「mirror matter」という独自用語を使っている。ただし現在「ミラーマター」というのは反物質ではなく別のものを指す用語になっているので、そのへんは紛らわしい。
https://ja.wikipedia.org/wiki/ミラーマター
前述の短編 "Turn Left at the Moon" が章と章の間に分割されて載っているけど、『Indistinguishable from Magic』収録バージョンより短いらしい。
https://www.amazon.co.jp/dp/0595198171
以前から読みたかった、ロバート・L・フォワードの短編「歌うダイヤモンド」"The Singing Diamond"(伊藤典夫=訳, 『オムニ(日本版)』1983年7月号掲載)を入手したので読んだ。
小惑星探鉱屋の主人公が見つけた小惑星にソナーマッピング装置を取り付けて内部の鉱床を探っていると、なんと歌声が聞こえてきた。彼女はその正体を探るが……という話。
調べると、フォワードの短編は2編しか訳されていない。
https://ameqlist.com/sff/forward.htm
ということで書庫から発掘したロバート・L・フォワードの短編集『Indistinguishable from Magic』。実はこれ『Future Magic』(邦訳『SFはどこまで実現するか』)の後継本なんだけど、科学解説だけじゃなくてSF短編も8編収録されていて、ISFDBだと短編集扱い。
https://www.isfdb.org/cgi-bin/pl.cgi?18202
収録作のうち、反物質技術が普及した世界を描いた短編 "Turn Left at the Moon" はBaen Books社のSampleページで読める。作中、あまりに手軽に反物質を使いまくっていて笑えてくる。
https://www.baen.com/indistinguishable-from-magic.html
残りの短編もぼちぼち読みたいところ……。
航空ジャーナル別冊『SDI入門講座』(航空ジャーナル社, 1986)読了。
実質的な著者は青木日出雄氏で、たぶん元は氏が1985年の航空ジャーナル誌に連載した「SDI入門講座」だと思われる。連載記事の存在を知り、さらに同名の本が出ていたのを知ったので購入。
SDI時代に構想されたさまざまな宇宙兵器とその技術について、自分はあまりきちんと知らなかったので、ある程度まとまったものが読みたかったのだけど、その期待に応えてくれる本だった。
以下は目次。
第一章 SDIの概念
第二章 構想の基礎
第三章 指向性エネルギー兵器(DEW)
第四章 X線レーザーと粒子ビーム
第五章 運動エネルギー兵器(一)
第六章 運動エネルギー兵器(二)
第七章 SATKA
第八章 対抗手段
第九章 米ソ間の交渉
巻末資料
・核戦略関連条約
・米ソのミサイル・バランス
ISBN無しで雑誌コードが付いているムック扱いの本。
ちなみに国立国会図書館の登録利用者であれば、個人向けデジタル化資料送信サービスで読める(今知った……)。
http://id.ndl.go.jp/bib/000001859350
この件、古沢嘉通氏が追ってくれていた。 https://twitter.com/frswy/status/1749994831894737058
面倒な事態になってるなーと思うものの、これを面倒で片づけてしまうのも駄目だよなー。とはいえ、この手の業界騒動を逐一追うと疲弊するだけなのも知っているので……。
なお、この方の記事がかなり網羅していて、今見たらここ数日でめちゃくちゃ追記(各所へのリンク)が増えている。
https://corabuhlert.com/2024/01/21/the-2023-hugo-nomination-statistics-have-finally-been-release-and-we-have-questions/
常石敬一『731部隊全史 石井機関と軍学官産共同体』読了。基礎知識がうっすら程度だったので色々良かった。 https://www.koubunken.co.jp/book/b597767.html
2023年ヒューゴー賞の統計が発表されて、なぜか正当な理由なく「対象外」となった候補者がいるということで、中国側からの規制なのか自主的な規制なのかみたいな話が出てざわついているみたい。『鋼鉄紅女』のシーラン・ジェイ・ジャオもアスタウンディング新人賞で対象外となったらしい。 https://file770.com/2023-hugo-nomination-report-has-unexplained-ineligibility-rulings-also-reveals-who-declined/
サイエンスとフィクションの狭間に棲息している石板。本の山を積みながら漫画とアニメの海に沈んでいる。SFを主食にして宇宙や科学ネタをつまむのが好き。