「透君」
低いフェンスに腰掛けたまま、振り向きもせず俺の名を呼ぶ。
その声は何かに怒るわけでも、悲しむわけでもなく。普段と変わらない脱力感と、少しの退屈と、何かに疲れたような声色をしていた。
命令や恫喝じゃない。ただいつものように名前を呼ばれただけだ。
たったそれだけで金縛りにあったように動けなくなった俺に、彼女は現実を確かめるように言う。
「本当に人は、呆気なく死ぬものだね。」
「そう、ですよ…。」
だから、はやくそのフェンスの向こう側からこっちへ戻って来て下さい。
「わざわざ銃や刃物を用意しなくても、病気や事故で簡単に死ぬ。
悪意や敵意も関係ない。
私も死ぬ。君も死ぬ。
今この瞬間だって、君が軽く私の背を押すだけで私は死ぬし。
自分の意思で一歩踏み出しても私は死ぬ。
風に煽られてバランスを崩したって死ぬだろう。」
そう言った彼女の目線が15メートル下の校庭を見下ろしているのを、俺は微妙二変わった頭部の角度で察する。
「音無さん!」
今度こそ、俺は腹に力を込めて名前を呼んだ。
あんな事があった直後に、迂闊にも彼女を一人にして目を離した自分の迂闊さを呪った。
引き止めたい。
行かないで欲しい。
戻って来て。
置いていかないで。
俺じゃダメですか…?
貴女の拠り所にはなれませんか?
想いは言葉にしなければ伝わらない。
最初の一歩を踏み出さなければなにものにも届かない。
それでも彼女との距離は遠くて、精神的にも現実的にも縮まらない距離に、俺は情けなくも泣きそうになる。
いつも俺の前にあって、俺の前を歩き続ける細い後ろ姿。
どんなに呼んでも、どんなに追いかけても、貴女の背中に、俺は追いつけない。
それでも現実の物理的な距離はあと数歩。
それでようやく、貴女に手が届く。
人気のないリノリウムの床を蹴り、焦りでもつれそうな足を叱咤しながら1階から5階分の階段を二段飛ばしで駆け上がる。
飛びついた屋上への鉄扉は鍵がかかっていて、苛立ちに舌打ちをする。俺はポケットに手を突っ込んで念の為に作っておいたスペアキーを取り出すと乱暴に鍵穴へ突っ込んだ。
こんな時なのに、「女の子とする時は突っ込むなんて乱暴なことしちゃ駄目だよ」と優しく笑った顔が脳裏を過ぎる。
転がり込むように飛び込んだ小学校の屋上。
普段は立ち入り禁止のこの場所に、取ってつけたようなメッシュフェンスの向こう側。
夜が開ける空を眺めながら、その人は長い灰色の髪を風切羽のように靡かせていた。
その光景に息を飲むと同時に、今にも屋上の縁から飛び立ってしまいそうな後ろ姿に心臓を掴まれる。
「おと、なし、さん…」
俺の存在に気づいて欲しくて、振り向いて欲しくて。
名前を呼んだ声は情けないほどに震えていた。
それでも彼女は振り返らない。
焦れて、一歩を踏み出す。
森下透(もりした とおる)
子供の頃音無に助けられ、音無に密かな恋心を抱く青年。
身長は頑張ったけど179までしか伸びなかった。
その代わり音無を抱えて走れる細マッチョ。マッチョ?
音無がヤクザ絡みの仕事をしているのは知っているし、出来れば辞めてもらいたい。
でもそれを言うと音無の機嫌が南極より冷たくなるので二度と言えない(1度は言った)
音無に惚れなければ普通にイケメン好青年なので、もっと明るく幸せな人生を歩んでいたものと思われる。
素性は分からないが、音無が時々嬉しそうな声で連絡を取っているヤクザが嫌い。
(自分にはそんな声も表情も絶対に向けてはくれないから)
何も出来ない音無の代わりに家事全般のスキルと普通免許、大型二輪の免許がある。
#音無静の世界線 #一次創作
黒鵜
10代で人形師に弟子入りし、28である人形を作ったことで世間に名を知らしめる。
最後に人形自らが所有者を選ぶといういわく付きの人形を制作し40代で病没。
久我一二三(男性)
黒鵜の幼馴染で、最も優れた黒鵜人形の調律師。黒鵜の病没前に養子を取った。
黒鵜の遺作とも呼べるいわく付きの人形の管理を任されたが、人形の所有者が決まらぬまま還暦前に事故死。
久我渚
背が高く、線の細い女性的な外見。若い。
黒鵜について語れる数少ない人物。
一二三から人形の管理を任された。本人は「幻鏡堂」という名の骨董品店を営んでいる。
紅姫
黒鵜の遺作で自ら所有者を選ぶという。
美しい成人女性の姿をしており、普段は自らの意思で桐箱の中で眠っている。
身体は神木の枝、核は薄く青みがかった人工の金剛石で出来ている。
咲耶
黒鵜の名が世間に広まる切っ掛けとなった白い巫女人形。
身体は神木の枝、核は琥珀で出来ている。
神木に次ぐ神社の御神体。
特殊な木材と、印を刻んだ鉱石と、血で造る自律人形。
それを造る人形師。
人形を修復する人形調律師。
自律人形は東帝国諸島の歴史と密接な関係を持っており、工業用に特化したものから、人々の日常と密接に関わるもの、観賞用、芸術品とその種類は多岐にわたる。
その長い歴史の中でも、ここ数十年、一人の人形師の名が世間を騒がせていた。
生きながらにして『稀代の人形師』と呼ばれた人。
顔写真はおろか、本名や性別すら不明。
ただその人の創った人形は人間と遜色なく動き、語らうことができる。
その人形師の名は『黒鵜』
今は既に故人であるが、その作品は好事家たちを魅了して止まない。
これは人形師黒鵜と、黒鵜の遺した人形、そして黒鵜に縁ある人々の物語り。
音無 静(おとなし しずか)
本名 すずしろ さつき
176cm 3?歳 女性 やせ型(胸がない)
5月31日生まれの双子座
職業は広く言って情報屋
「ネットワークに繋がったパソコンかスマホがあれば大体の情報は抜ける」
左目の下に泣きぼくろ
目の下にうっすら隈
腰まである灰色の髪
ハイライトのない黒い目に丸眼鏡をかけている
基本無表情
両親ともに故人
母子家庭だったが母親の死後は孤児院へ
煙草の匂いは嫌いじゃないけど吸うと咳が出る(吸い方は知ってる)
酒は秒で吐くので飲めない
珈琲のボトルが毎週ダースで届く
重度のカフェイン中毒者
嘘と冗談とマジな話を同じ表情で普通に喋る
ピアスの穴を右耳に五つあけている
筋肉が好き
性的思考はノーマル寄りのバイ
娯楽映画の延長線上でAVを観るが処女
食事をとり忘れて低血糖でよく床に転がっている
道を歩けば人にぶつかる
電車で立てばつり革で額を打つ
「風呂入ると身に覚えのない打ち身があちこちにある」
家では素足派
戦闘服は黒いスーツとハイヒールのパンプス
偽名で登録したセーフティハウスがいくつかある