「まぁ、それが難しいところだよ。」
ぬるくなった珈琲をちびりちびりとやりながら女は言った。
私が子供の頃は、スマホどころか携帯もなかった。PHSやポケベルが流行りで公衆電話から語呂合わせや暗号みたいな数字を打って。
文章は手紙で、電話は固定電話、写真は使い捨てカメラ。
撮ってすぐ見れるのはポラロイドくらいで、加工もズームも何も無かった。
その頃のパソコンは高級品で、データの保存は25MBのフロッピーディスク。
ネットワークは今より遅くて、世界中の人と通話しながら一緒にゲームができるなんて考えもしなかった。
大事な情報は全部紙で金庫にしまわれてて、あたりには走り書きのメモやら書きかけの原稿用紙やら。手帳にノートに新聞や雑誌の切り抜きを集めたもの。とにかく紙、紙、紙。
かさばるうえに、濡れて、挙句に燃える。
でもそれが当たり前だったし、墨や竹竿に比べればペンと紙は便利なものだったろう。
まぁ、私はノートに鉛筆だったけど。
探偵と興信所は何が違う?調査費用の相場とどこまでわかるかを解説|浮気調査を探偵に依頼する意味とは?離婚に踏み切る前にすべきこと https://hibiki-law.or.jp/divorce/tantei/wht/4169/
つまり音無はどちらかと言えば興信所?
アンナとユイは恋人同士で、元はおじさんの情報源で協力者。
男も女も相手にできるハニートラップと電子戦担当の女性ふたり。
どっちがどっちとはまだ決めていないけれど、
「スレンダー、クール系女子、高身長」と「胸が大きい、男受けするマシュマロボディ、可愛い系」の2人組。
音無にとっては歳の離れた友人、姉的存在、ハニトラと電子戦の師匠。
アンナは音無の頼みでハニトラ仕掛けに潜りに行ったら罠で、指とか耳とか切り落とされて事務所に郵送された挙句。
輪姦されて歯も抜かれて、首絞めの跡が残るほど見る影もなくボロボロにして殺害された。
以来音無はハニトラに他人(特に女性)を使えなくなった。自分の指示で人が死ぬことを、あまりにも残酷な形で目の前に突きつけられて、魂にまで刻まれてしまった。
普段は意識して気にしないようにしているけれど、世間ではそれをトラウマと呼ぶ。
#一次創作 #音無静の世界線
「玄関先でいってらっしゃいって見送った人が、次に会ったら死体だった。
また明日って別れた人が、夜のうちに冷たくなっていた。
そんな当たり前のことも忘れて、繰り返しの明日を疑いもせずに言ったたわいない言葉が最期の言葉になったなんて。
何度繰り返しても慣れないな…。」
それは、今まで彼女が経験した出来事だろうか。
彼女は俺よりずっと歳上だけど。
それでも死別なんて、どんな人生でも、どれだけ生きてたって、慣れるものじゃないだろう。
それがどれだけ薄っぺらい理想でも、彼女が求める言葉じゃなくても。
「……それでも俺は、貴方に生きていて欲しい。」
後ろから抱きしめるようにしてようやく捕まえた細い背中。
ほとんど目線の変わらない黒い瞳が、丸い眼鏡のレンズ越しにようやく俺を見た。