SCENE9 ④
怪異となってなお、レンへの愛情が残り続けた八尺様。他の怪異達も、自我ははっきりしないまでもレンへの愛情は少しだけだっととしても、0ではないのかもしれない。
怪異となった大切な者達と生涯を共にする決心を、レンは固めていた。
「それでいいんだよね…せんじゅさま」
「ワウ!じゃあこれで願いは終了としますワウ」
麻袋太郎と名乗る怪異、せんじゅさまは春夏冬レンの提案に乗るようだった。
八尺様は背を向けて歩き出す。レンも皆に頭を下げ、そのまま一緒に歩き出した。
止めなければいけないと思っていた。
しかし、母や家族、大切な友人は怪異となってもレンへの愛情はかすかに残っていた。
そんな者達と離れることが正しいのかもわからず、一同はもう止めることができなかった。
レンは皆を守る選択をした。
大切な人に、新たな大切な人を襲わせない選択をした。
SCENE9 ③
今、自分たちがせんじゅさまに願いごとをすれば聞いてもらえるのだろうか?
しかし、その願いの代償がどうなるのかはわからない。
せんじゅさまとは、願いをそのまま素直に叶えてくれる優しい怪異ではないようだから。
「……僕がいなくなったら…」
春夏冬レンはそう呟き考えたのち、覚悟を決めたような顔で言った。
「お母さん……ううん、"八尺様"。僕を連れて行ってください」
これが、春夏冬レンの答えだった。
八尺様の都市伝説通りになろうというのだ。
八尺様に魅入られ、子供が連れていかれるという都市伝説。
これが実行されることで願った春夏冬レンがいなくなり、皆がここにいる理由がなくなるというのだ。
「そんなのダメだよ!私たちのためにレンくんが帰れないなんて…他の方法を探そうよ…」
「あのね真琴お姉さん、僕死んじゃうんじゃないんですよ。この八尺様は…お母さんは僕にそんなことするはずないんだ。だから、大丈夫です…それに、こうすればお母さんと一緒にいれるから」
SCENE9 ②
レンの家族の身代わりにする必要があったから関係ない死に方をされては困るのだ。
ここで亡くなった者たちは元々、レンが取り戻したいと思っていた人間ではないから当然助けない。
怪異に取り殺させることに意味があったから。
「せんじゅさまは願いを叶えるワウよ~。レンくんがいる限りはそうする義務があるからね」
"レンくんがいる限りは"
こいつはそういう言い方をした。
つまり、願ったレンがいなくなった時に初めて願いを終わらせられるというのだ。
「やっぱ、阿墨おにーさんのしたこと正しかったんじゃん」
碧斗がボソッと呟いたその言葉が春夏冬レンの耳まで届いてしまった。
だが碧斗の本音だった。
大人で聡明な阿墨が命を落としたことは悲しかったから。
大人への憧れが大きい碧斗はそう感じてしまっていたのだった。
「そうじゃないだろ。それは言ってはいけないことだ」
だって本当のことじゃんとでも言いたげな顔をするが、今そのことで揉めても仕方が無かった。
SCENE9 ①
「僕の願い事、これ以上は無かったことに、してください…」
目の前でボロボロと涙を流す六歳の男の子、春夏冬レン。
春夏冬レンの家族は次々と死を遂げたり失踪したりといったことが続いたという。
そしてそれを救うため、ここに生贄となる人間が呼ばれた。
それが、今回の事件の真相だった。
彼こそが、この怪奇現象と凄惨な事件の黒幕。
いや、こんなのは黒幕と言っていいのだろうか?
「レンくんの大切な人達よりもここで会ったこいつらを優先するワウ?レンくんの大切な人達はきっと言ってるワウよ?"レンくんたすけて~"って!それなのに助けてあげないワウ?」
「どういうことだ?」
「貴くん、君が代わりに怪異の生贄になればレンくんの大切な人が助かるワウ!みどりガッパに入ってるのは…レンくんのお兄ちゃんだったワウ?」
それを聞いた亘貴の顔は一気に青ざめた。
だんだんとわかってきた。
何故亘貴、一ノ瀬碧斗、西園寺サラは助けて、死んでいった者達のことは助けなかったのか。
SCENE8 ③
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【二か月前】
「ワウワウ!君一人ぼっちだワウ?悲しいワウ!そんなに泣いてるとその黄色い花も水色になっちゃうワン!ドラちゃんワウ!」
僕が公園で泣いてお願いをしているとき、彼が話しかけてくれた。
僕が泣いている理由を話すと、彼はゆっくり聞いてくれた。
「それじゃあ、みんなを取り戻したいワウ?」
「うん、帰って、来てほしい…」
「ワウワウ、それじゃあイケニエがいれば戻してあげるワウ!イケニエはワウが選んで連れてくるワウ…どう?」
「イケニエ?それって…代わりの人が死んじゃうってこと?」
彼は嬉しそうに何度も頷いた。
僕は一瞬悪い気がしたけどそれでも、どうしてもみんなに帰ってきてほしかった。
「…それでも、みんなに帰ってきてほしいから。イケニエさんごめんなさい…
おねがいします、せんじゅさま」
せんじゅさまは常世の者の願いを叶え、常世を正す存在である。
…難しい言葉だったけど、調べたんだ。
せんじゅさまは、願いをかなえてくれる優しい都市伝説さんなんだ。
SCENE8 ①
ずっと、何かを忘れている気がしていた。
忘れちゃいけない何かを。
ようやくわかった。思い出してしまった。
あのニュースは嘘じゃないんだってこと。
なんでみんながここに連れてこられたのかを僕はずっと忘れていた。
八尺様は僕を襲う気はなかったんだ。
だって、ずっと僕に対して優しい目をしていたから。
阿墨お兄さんが僕のことを姦姦蛇螺に襲わせようとしたとき、なんで姦姦蛇螺はあんなに怒っていたのか。
自分を見捨てた村人と同じことを阿墨お兄さんがしたから。
けど理由はまだあったんだろうな。
だってあの中には、"僕の従姉妹のお姉ちゃん"がいたから。
そうだ、僕はいなくなっちゃったみんなを取り戻したかったんだ。
いなくなっちゃった、大切な九人を。
???⑤
やはり、会ってはいけないモノだったのだとサラが判断した時にはもう遅かった。
強い痛みを感じ、呼吸もうまくできなくなっていた。
部屋に向かってくる誰かの足音が聞こえた。
「え?何かあったの?……サラさん!?ちょっと、しっかりしてください!」
倒れこむサラに駆け寄る真琴と、その後ろで青い顔をして震える碧斗の顔が見える。
寒い。体が冷たくなっていく感覚だった。
メリーさんの顔を見ようと視線を向けると、メリーさんは少し笑っているように見えた。
だが、その顔は少し悲しそうにも見えたのだった。
アオーーン!
麻袋太郎の遠吠えが聞こえると、真琴の腕の中にいたサラの姿は消えてなくなってしまった。
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昨夜未明、××駅入り口にて西園寺サラさん(19)が遺体となって発見されました。
遺体は胸部に刺傷があり、警察は事件の可能性を追って捜査を進めています。
被害者は先月から行方不明となっていました。
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西園寺サラ 死亡END
???③
それを聞くなりサラはすぐさま歩き出し、扉を開けた。
「お会いしたかったですわ!メリーさん、サラの話を聞いてくださる?」
「………」
メリーさんは答えない。
それでもサラも引くわけにはいかなかった。
何かを思い出したレンは酷く動揺し、泣きじゃくっていた。
すぐに話せる様子もなく、一度落ち着かせ、ベッドに連れて行ったが…眠れるのかもわからないような、不安そうな様子だった。
相当ショッキングな内容なのだろうとサラには推測できた。
ならば自分も把握し、彼と一緒に皆に話せれば良いのではないか。
レン一人に、抱えさせてはいけない。
「メリーさん、何故私たちを」
聞こうとしたとき、サラは胸に重い衝撃を感じた。
???②
やはり、すぐに切られてしまっていた。
ホテルの前であればすぐに会えるのではないか、と思考が働いた。
しかし、会っても良いのだろうか。夢の中でサラは一度、メリーさんに刺されていた。
そんなことを少し考えた時に、ふと阿墨の事件の話を思い出す。
『春夏冬レンを犠牲に生きようとした阿墨を見て、怪異が怒っていたような様子があった』
という、話。
その話が本当であれば、怪異は目の前で起こっていることを理解する程度の知能はあると考えられる。
怪異となってしまったと思われる鴉羽雨之助は、シャーロットや碧斗と会話をしていたという話もあった。
メリーさんも言葉を話していた。それならば、対話もできる可能性がある。
対話をすればこの状況を把握できるかもしれない。
うまくいけば、説得できるのではないだろうか。
そんな一抹の望みを抱いた時、着信音が鳴った。
「私メリーさん、今、あなたの部屋の前にいるの」
???①
西園寺サラは夢から醒めてからずっと悪寒を感じていた。。
電話の着信音が鳴る。
連日の恐ろしい夢もあり、電話の音が聞こえると余計に恐ろしい気分になる。
しかし、家族かもしれない。警察かもしれない。
なんにせよ、今外部からの連絡を無視したくないという気持ちがあった。
電話に出ると。
「私メリーさん。今、駅のホームにいるの」
これは夢で幾度となくかかってきたような電話だった。
ただ違うのは、伝えられた場所だった。
夢の中ではゴミ捨て場だったはず。
別人だろうか?と考える。
「夢でお会いしていた方でしょうか?もしもし?」
サラがそう答えるも、通話は既に切れていた。
すぐにまた着信音が鳴り、通話に応答する。
「私メリーさん。今、ホテルの前にいるの」
「ホテルの前ですか?わかりましたわ、サラがそちらに向かいます。少しそこでお待ちいただいて…あら?」
⚠ホラー注意
⚠創作企画です
当企画は完結しました
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