『異常論文』で注目していた青島もうじきさんの初単著『私は命の縷々々々々々』(星海社)をお送り頂きました。人類が様々な生物の生殖方法を取り入れるようになった近未来を舞台に、ドウケツエビの生態を持って生まれた性が未分化な語り手の学園生活を描く、極めて思弁的なSFで非常に面白かったです。優れた自分はひとりで増えるべきと考えているミジンコの生活環を持った幼馴染がいたりする。
『最後の三角形 ジェフリー・フォード短篇傑作選』(谷垣暁美 編訳 東京創元社)、ミステリー寄り、ホラー寄り、SF寄り――でも間違いなくジェフリー・フォードな幻想短編が14編収録されていて、2冊分くらいの読み応えがあり堪能しました。噂に聞いていた「アイスクリーム帝国」がともかく素晴らしい。共感覚からこういう話を思いつけるとは。親しくなった隣人からあるものを託される「マルシュージアンのゾンビ」にもびっくりした。
ケヴィン・ウィルソン著 芹澤恵訳『地球の中心までトンネルを掘る』(東京創元社)の文庫版を頂きました。世間に馴染めない人々の切実さが胸に迫る奇想短編が多くて、すばらしいんですよ。単行本にあった倉本さおりさんの解説に加えて、津村記久子さんの特別エッセイも収録。8月21日頃発売。
――依頼に応じて様々な家で祖母を演じる仕事、亡き姉について断章で語るハンドブック、人体発火で両親を亡くした若者がスクラブル工場でアルファベットのコマを拾い集める話、祈りの折り鶴が引き起こす一族の醜悪な相続争い、世間に背を向けてトンネルを掘りだした三人の若者、歯がぎっしり生え揃った赤ん坊、銃で本物の弾丸を頭に撃ち込むショー、よじれつつも親密さを増す関係を描く短編の数々も胸に残ります。若者の心の動きをどうしてこうも捉えられるのか――。
短編のモチーフをちりばめた素敵なカバーイラストは市村譲さん、カバーデザインは中村聡さん。
とりしまです。Dempow Torishima 絵と小説をかきます。最新刊は長編『奏で手のヌフレツン』。著書に『皆勤の徒』(英訳版、仏訳版も)『宿借りの星』『オクトローグ』『るん(笑)』、高山羽根子さんと倉田タカシさんとの共著『旅書簡集ゆきあってしあさって』。SFマガジンで「幻視百景」連載中。