さてこの論文が言いたいのは、日本が翻訳による技術の体系化によって工業製品の製造を爆発的に高め、それが経済的な発展を遂げたとするもの。日本人が技術書を読めたことが大きいとするのですね。ここから先の理屈は経済学なのでよく分からない。しかし、ある集団が技術力を高めるためには知識の民主化が必要で、そのためには日本語で書かれた技術書、その基盤には日本語に翻訳された技術用語がたくさんあったということは間違いがない。
この知識の民主化が日本語によって行われたということは、重要なポイントだと思う。かつて水村美苗が『日本語が滅びるとき』で書いたように、近代的な日本は近代的な日本語を構築することによって得られたという見通しは大筋として正しいと思う。(3/4)
論文そのものは次のリンクに。
"Codification, Technology Absorption, and the Globalization of the Industrial Revolution",Réka Juhász, Shogo Sakabe & David Weinstein,National Bureau of Economic Research, 2024
https://www.nber.org/papers/w32667
曰く、スクレイピングによって図書館から図書データを入手して比較すると、1870年に存在していた技術書の84%が英・仏・独・伊語で占められていたところ、1910年では66%となって代わりに日本語が19%を占めるようになると。これはもちろん翻訳によるもので、Figure6を見ればその突出は明らか。これを語数の増加で見たのがFigure7。我らが『日本国語大辞典』(第2版)の初出例から年代を割り出している(どうやってデータを作ったんだろう)。これは日本語学者の仕事として見たかった…(2/4)
日本語学の研究者です。漢字音史、漢語アクセント史を文献ベースで狭くやってます。自己紹介的な論文に、「アニメ『ドラゴンボール』における「気」のアクセント─漢語アクセント形成史の断線から─」(日本語学2022年6月号)あり。データベース作ったり、自転車に乗ったり、珈琲を飲んだり、ジャム作ったりしています。https://researchmap.jp/read0135868