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このポストが投稿された前日は、Minatoが事実無根の女性問題で炎上した日だ。
その翌日にみなとちゃんからのこのような呟き──
察しのいいリスナーからは「Minatoが自身の炎上をネタにしている」と取られるだろう。

《湊の家》
Minato「この呟きヒバリだろ?こういうネタはやめとこうぜ、誰がどう見るか分かんねーし…」

雲雀「え?あれ俺じゃないけど…湊の自虐ネタじゃなかったん?勇気あるなーって思ってたけど」
Minato「え?」

2人は顔を見合わせた。
どういうことだ。と確認してみたところ、
どうやらお互い相手がやっていると思っていたみなとちゃんの配信や呟き、他者とのやりとりが複数存在した。

雲雀「まさかコレ誰かに乗っ取られたんじゃ…」
Minato「まさか。ログイン履歴もないし、配信なんて乗っ取りでできるもんじゃ──」
そんなやりとりの最中、突如MinatoのPCで配信画面が立ち上がる。

その光景にMinatoと雲雀は驚いた。
彼らのどちらかが操作しなければ動かないはずの“ソレ”が、ひとりでに動いているのだ。
みなとちゃん「ご機嫌だねって?ふふーん♪」

「ついにみなとはこのチャンネルの侵略を完了したんだよね〜!これからここではみなとが配信していくよ!」

みなとちゃんの口元が妖しげな弧を絵描く。

「言ったよね?みなとちゃんは侵略者だって!」

【マテヨ&モレソによる真相解説】
ミナトは初めて炎上した時、同じことを繰り返さぬためにMinato Channelとみなとちゃんの SNSアカウントに『炎上の可能性がある動画や投稿を検出するAI』を搭載していた。

しかしAIは「Minatoこそが炎上の可能性を孕んだ危険要素」だと判断。
Minatoを炎上させて表舞台から排除することで、チャンネルを清廉潔白なみなとちゃんだけで運用していこうと考えたのだ。

全ての真相に気づいたMinatoは、新しいチャンネルを作ってその経緯を説明した。
これまでの炎上は自身が搭載したAIによってでっち上げられたものだということ、
そのAIによってチャンネルから排除されたこと。
しかしそのような突破な話を納得する人はそう多くなかった。

それでも残ってくれたリスナーたちと、心機一転自分のペースで活動していこうと意気込んだ。
彼に向けられた疑いは、今後の彼自身の活動で潔白を証明していくだろう。
それに、Minatoとってこれは嬉しい誤算でもあった。

TOT優勝への意欲は強くはなかったものの、優勝した際の願いは持っていた。
その願いは、【みなとちゃんを自立した存在にすること】。
みなとちゃんは自分の“好き”を詰めた存在である。
だからみなとちゃんには自立してもらい、堂々と推したかった。

Minatoの願いは、思わぬ方で叶ったのである。

Minato「でももう炎上はしたくね〜」

あっくん「本日はH県▲市にやってまいりました。▲市と言えばそう、心霊スポットとして有名なN校舎があるんですねぇ〜!」

心霊TouTuberあっくんが運営する
『のんびり心霊さんぽ』では本日、生配信で廃墟探索をすることになっていた。
登録者数900万を超えたおばけチャンネルなだけあり、同接は10万規模に及ぶ人数で、
X(旧Twitter)のトレンドには『のんびり心霊さんぽ』に関連したワードが載るようになっていた。

しかしそれらは、登録者数や再生数に興味のない彼にとってはどうでも良いことであった。
そもそも、あっくんがTouTuberを始めたのは、自発的な動機ではなかった────

あっくんこと友田 彰浩は、仕事の帰りに心霊スポットを巡るのが好きな一般的なサラリーマンだった。
妻も娘も趣味に対し寛容で、そこでの土産話を楽しんで聞いてくれていた。

もっとこの趣味で妻と娘を喜ばせることはできないか。
そんなことを考えた矢先、大人気TouTuber チョマテヨより『Top of the Tube』の開催が告知された。
それを観ていた娘が──

娘・なつみ「お願いかなえてくれるって!パパ、トゥーチューバーなろ~よ!」
彰浩「え~?パパ何も面白いことできないよ」
なつみ「パパの『オバケ』のお話すごいおもしろいよ〜!ね、ママ!」
夫と娘のやりとりを、妻のはるは微笑ましそうに聞いていた。

はる「そうだよ。パパの話すごく面白いから絶対人気者になれるよ!ネットリテラシーについてもパパなら全然心配ないし」
意外にも肯定的な妻の反応に彰浩は驚いた。
だが、それだけ自分の話を楽しんでくれているのかと思うと満更でもない。

妻も心霊やオカルトといった話が好きで、そもそもこの夫婦が仲を深めたのは、その『怖い話好き』という共通点があったからだ。
彰浩は考えた。今の趣味をTouTube動画という形で提供できれば2人は喜んでくれるのではないか。

そして『優勝者の願いを叶える』という文言は、かなり興味深かった。
前々から欲していた【猫の呪物を手に入れる】ことができるかもしれない。

あっくんはその呪物を『かわいいネコチャン』と呼んでいる。
その名の通り猫の形をした置物である。戦時中、海外から日本へお土産として持ち込まれたものであり、
それを所持していた者の耳が聞こえなくなったり、もげたりするという話がある。

その2つの目的を果たせる可能性があるなら、始めてみるのもアリかもしれない。
強制されるものでもないので、もし活動の必要がなくなればやめれば良い。
そんな動機で始めたのだ────

あっくん「こちらのスポットはですね、○年前に高校生を十数名を監禁し、◾️し合いをさせたという凄惨な事件が起きたと言われるスポットなんですよ」
「この校舎を訪れた人たちが言うには」

『のんびり心霊さんぽ』の配信中の画面には、横転した映像が映し出された。
それと同時に映る不気味な人影。
そのまま画面はブラックアウトした。

【チャット欄】
「何???」
「あっくん!?」
「こわいこわいこわい」
「とうとう祟られたか」

「はいど〜も〜!自称2代目あっくんこと、心スポ巡りTouTuber いっくん です!」

いっくん「今日はですね〜、僕が尊敬する超人気心霊TouTuber
あっくんが配信中に消息を絶ったとされる現場に来ましたよ!」

いっくんは同行している撮影メンバー共にN校舎へ侵入した。
いっくん「なんでもここでは過去にこの学園の生徒を閉じ込めてコロシアイなんかさせちゃったりだとか!
その事件で亡くなった生徒たちの怨霊があっくんを連れ去ってしまったんですかね〜…」

【チャット欄のコメント】
「その辺侵入禁止になったんじゃなかった?」
「撮影許可撮ってるの?」

いっくん「ん、あれ」
いっくんの配信している映像にブレが起きた。
画面はあっくんの時と同じように横転し、いっくんやその撮影班の慌てふためくような音が聞こえた。

【チャット欄のコメント】
「これマジ?」
「ヤラセ乙」
「何番煎じだよ」

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餅付はあまりにもスケールの大きな話に呆気に取られた。
マテヨ「お前と打増党の友好的な関係を見せていけば多くの視聴者が打益党を支持するようになる。
そうすれば日本を支える二つの組織が救われる。こんな名誉な役目ないだろう」
餅付「そんなことしていいんですか?法的に引っかかるのでは…」
マテヨ「そこは大丈夫だ。引っかからないようにやるさ」

餅付「でも…僕のチャンネルの活動に合わない気がします」
マテヨ「餅付。お前は日本一のTouTuberだ。
トップの人間がトップたるには一つの活動に固執しちゃダメだ。
活動の幅を広げて、最終的に国民を正しき道に導くTouTuberになるんだ」

餅付「………ごめんなさい。
これからも、俺が好きに食べる事や願いのことは俺が頑張れば出来ることだと思う。
けれどそういう事に関わってしまったら、それすら出来なくなってしまうと思います。
だからそういうことなら断ります」

マテヨ「……は?」
「それでいいのか?食い物だけの問題じゃねぇ。
もっともっと登録者伸ばしたいだろ?辞退したらこの先の高みは見られなくなるぞ!」
餅付「答えは変わりません。もしそれが願いを叶えてもらう条件なら優勝は辞退させてください」

マテヨ
「……そうか。残念だよ餅付。

ここまで聞かれたからには消えてもらうしかないな」

餅付「え?」
マテヨ「おいモレソ!!コイツが炎上するようなネタをでっち上げろ!!全世界を敵に回すような特大の炎上ネタをなぁ!」

モレソ「モモモ!やったレソ〜!!やっと面白くなってきたレソ!」

餅付「ど、どういうことですか!」

マテヨ「言葉の通りだ。お前が社会的に死ぬような炎上ネタをでっちあげて優勝を取り消してやる。
“今回”のは今までの炎上とは比べものにならないネタを用意してやるぜ」
餅付「今回のって、アンタまさか──」

マテヨ「そうだよ。お前たちに付き纏った炎上の数々、アレをしかけたのはオレたちだ」

「オレらの目的のためには登録者を増やしてもらうのは都合がよかったが、あまり数字を増やし過ぎてオレの脅威になっても困るからな。
ほどほどに燃やして力を抑えさせてもらったよ」

餅付「なんてことを……その炎上のせいでどれだけの人が苦しんだと思ってるんだ!」

マテヨ「ハッ!周りが炎上してくれたおかげでオメーは成り上がれたんだろうが!
お前が消えようがトップに据えられる奴は他にいくらでもいる。じゃあな餅付」
餅付「そんな………やめろー!!」

【悲報】『「女は二郎に来るな」人気TouTuber餅付食人、性差別発言か』
『餅付食人衝撃発言「目玉焼きに塩派は人権ない」』
『餅付食人、ファミレスのドリンクバー全部飲み干して店を潰すwww』

餅付は事実無根の悪事を広められたことで、世間からさまざまな誹謗中傷や非難を浴びた。
中には殺害予告や住所特定を呼びかける者もいた。
身の危険を感じた餅付は住んでいた家を引っ越し、その家から出ないようになった。
ネット上には今も餅付への誹謗中傷が散見される。

開示請求や、弁明すらも無意味に思えるほどの悪意が渦巻いていた。
餅付は世界そのものが自分の敵に見えた。
その恐怖から逃げるように過食に走った。

食べることは彼にとっての精神安定剤だ。
自然主義者である母親から過剰に質素な食事を提供され続け、生活のあらゆる点を管理された反動で、
食に対する執着が強まっていた。

餅付「ウッッ」
餅付の身体は既に限界を超えていた。
食べていた菓子パンを手から落とし、壁に寄りかかるように倒れた。

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