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それでも残ってくれたリスナーたちと、心機一転自分のペースで活動していこうと意気込んだ。
彼に向けられた疑いは、今後の彼自身の活動で潔白を証明していくだろう。
それに、Minatoとってこれは嬉しい誤算でもあった。

TOT優勝への意欲は強くはなかったものの、優勝した際の願いは持っていた。
その願いは、【みなとちゃんを自立した存在にすること】。
みなとちゃんは自分の“好き”を詰めた存在である。
だからみなとちゃんには自立してもらい、堂々と推したかった。

Minatoの願いは、思わぬ方で叶ったのである。

Minato「でももう炎上はしたくね〜」

あっくん「本日はH県▲市にやってまいりました。▲市と言えばそう、心霊スポットとして有名なN校舎があるんですねぇ〜!」

心霊TouTuberあっくんが運営する
『のんびり心霊さんぽ』では本日、生配信で廃墟探索をすることになっていた。
登録者数900万を超えたおばけチャンネルなだけあり、同接は10万規模に及ぶ人数で、
X(旧Twitter)のトレンドには『のんびり心霊さんぽ』に関連したワードが載るようになっていた。

しかしそれらは、登録者数や再生数に興味のない彼にとってはどうでも良いことであった。
そもそも、あっくんがTouTuberを始めたのは、自発的な動機ではなかった────

あっくんこと友田 彰浩は、仕事の帰りに心霊スポットを巡るのが好きな一般的なサラリーマンだった。
妻も娘も趣味に対し寛容で、そこでの土産話を楽しんで聞いてくれていた。

もっとこの趣味で妻と娘を喜ばせることはできないか。
そんなことを考えた矢先、大人気TouTuber チョマテヨより『Top of the Tube』の開催が告知された。
それを観ていた娘が──

娘・なつみ「お願いかなえてくれるって!パパ、トゥーチューバーなろ~よ!」
彰浩「え~?パパ何も面白いことできないよ」
なつみ「パパの『オバケ』のお話すごいおもしろいよ〜!ね、ママ!」
夫と娘のやりとりを、妻のはるは微笑ましそうに聞いていた。

はる「そうだよ。パパの話すごく面白いから絶対人気者になれるよ!ネットリテラシーについてもパパなら全然心配ないし」
意外にも肯定的な妻の反応に彰浩は驚いた。
だが、それだけ自分の話を楽しんでくれているのかと思うと満更でもない。

妻も心霊やオカルトといった話が好きで、そもそもこの夫婦が仲を深めたのは、その『怖い話好き』という共通点があったからだ。
彰浩は考えた。今の趣味をTouTube動画という形で提供できれば2人は喜んでくれるのではないか。

そして『優勝者の願いを叶える』という文言は、かなり興味深かった。
前々から欲していた【猫の呪物を手に入れる】ことができるかもしれない。

あっくんはその呪物を『かわいいネコチャン』と呼んでいる。
その名の通り猫の形をした置物である。戦時中、海外から日本へお土産として持ち込まれたものであり、
それを所持していた者の耳が聞こえなくなったり、もげたりするという話がある。

その2つの目的を果たせる可能性があるなら、始めてみるのもアリかもしれない。
強制されるものでもないので、もし活動の必要がなくなればやめれば良い。
そんな動機で始めたのだ────

あっくん「こちらのスポットはですね、○年前に高校生を十数名を監禁し、◾️し合いをさせたという凄惨な事件が起きたと言われるスポットなんですよ」
「この校舎を訪れた人たちが言うには」

『のんびり心霊さんぽ』の配信中の画面には、横転した映像が映し出された。
それと同時に映る不気味な人影。
そのまま画面はブラックアウトした。

【チャット欄】
「何???」
「あっくん!?」
「こわいこわいこわい」
「とうとう祟られたか」

「はいど〜も〜!自称2代目あっくんこと、心スポ巡りTouTuber いっくん です!」

いっくん「今日はですね〜、僕が尊敬する超人気心霊TouTuber
あっくんが配信中に消息を絶ったとされる現場に来ましたよ!」

いっくんは同行している撮影メンバー共にN校舎へ侵入した。
いっくん「なんでもここでは過去にこの学園の生徒を閉じ込めてコロシアイなんかさせちゃったりだとか!
その事件で亡くなった生徒たちの怨霊があっくんを連れ去ってしまったんですかね〜…」

【チャット欄のコメント】
「その辺侵入禁止になったんじゃなかった?」
「撮影許可撮ってるの?」

いっくん「ん、あれ」
いっくんの配信している映像にブレが起きた。
画面はあっくんの時と同じように横転し、いっくんやその撮影班の慌てふためくような音が聞こえた。

【チャット欄のコメント】
「これマジ?」
「ヤラセ乙」
「何番煎じだよ」

話題を求めN校舎を訪れる配信者は後を絶たない。
しかしそこを訪れた者たちは口を揃えて、「夜な夜な歩き回る配信者の霊を見た」と言い、配信をやめてしまう。
配信の向こうの真相を知るものは、誰1人いない。

登録者数 1341万6442人。
これだけの応援者を集めた映えある優勝者は────

インタビュアー「餅付さんおめでとうございます!TOTを優勝されたお気持ちはいかがでしょう?」

餅付「ありがとうございます!衝撃過ぎて感情が追いついてないです。まさか自分が…」
この表彰式は現在、TouTube上でライブ配信されている。チャット欄には数億規模の視聴者が同接し、
さまざまな言語で祝福の言葉が投げかけられていた。

マテヨ「おめでとう餅付!お前を一目見た時から優勝するんじゃないかって思ってたんだよな。
オレの目に狂いはなかった。嬉しいよ!」

餅付「あ、ありがとうございます!」
餅付はレジェンドTouTuberの激励に萎縮しながらも、差し出された手を握り握手を交わした。

表彰式を円満に終えた翌日、餅付はマテヨが経営する事務所に招かれた。

マテヨ「最初に言ったな。TOTを優勝した者の願いを叶えるって。
お前の願いを聞かせてくれないか」

餅付「はい。えと、俺の願いは『好きな時に美味しいものを食べられるようにしたい』です!」
マテヨ「はは、お前らしいな。安いもんだぜ。生涯お前が食に苦労しないほどの大金をやるよ」
餅付「ありがとうございます!」

マテヨ「それで、だ。
その願いを叶える際にこちらから条件がある。
お前には今後うちの経営するTouTube事務所に所属してもらいたい」
餅付「所属!?え、でも…」

マテヨ「あぁわかるよ。
正直個人で十分やれてるもんな。
でもお前は今まで何度か炎上もしてきただろ?その度に登録者を減らしてきた。
わかると思うがこの仕事は本当に不安定だ」

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開示請求や、弁明すらも無意味に思えるほどの悪意が渦巻いていた。
餅付は世界そのものが自分の敵に見えた。
その恐怖から逃げるように過食に走った。

食べることは彼にとっての精神安定剤だ。
自然主義者である母親から過剰に質素な食事を提供され続け、生活のあらゆる点を管理された反動で、
食に対する執着が強まっていた。

餅付「ウッッ」
餅付の身体は既に限界を超えていた。
食べていた菓子パンを手から落とし、壁に寄りかかるように倒れた。

餅付が目を覚ますと、そこには見知らぬ天井。

餅付の目覚めを確認すると、彼らは安堵の顔を浮かべてた。
Minato「無事でよかった〜餅付くんここがどこだかわかる?」
餅付は一生懸命状況を振り返った。

自分は過食とストレスによって倒れ、そのまま──
餅付「俺、死んでないの?」

旧惑星「餅付くんが動画もSNSもずっと更新してないのが気になってさ。百連撃がキミの家を知ってたからみんなで駆けつけたんだ。大家さんに事情を話して鍵を開けてもらって、そしたら君が倒れてた」
そう話す旧惑星の声は、歌い手として活動していた頃に比べ随分高音になっていた。

ゆうちゃむ「それであーしらで救急車呼んだの。あと数分遅れてたらやばかったって」
帽子を被った女性がゆうちゃむであることを、餅付は声で気づいた。
消息不明とされていた彼女とこのような形で再会したことに餅付は内心驚いた。

餅付「…なんで助けちゃうの。俺、いろんな人から死を望まれてるのに。
俺なんか助けたら君たちまで叩かれるよ」
Minato「だからって死んで当然ってことはないでしょ。まぁ思い詰める気持ちもわかるけど」

百連撃「つうかよ、今出回ってる炎上だってどうせ全部ガセだろ?名誉毀損でモレソを訴えようぜ」
餅付「ダメだよ。モレソは…アイツはチョマテヨやTouTube社をバックにつけてるんだ。
俺が何か言ったって揉み消されて終わりだよ」
ZarameP「マテヨ…?どういうこと?」

餅付「信じてもらえるかわからないけど…」
餅付は表彰後のマテヨとのやりとりを話した。
マテヨの政治組織との癒着、マテヨがモレソに命じ、自分含め人気TouTuberたちを意図的に炎上させていたこと。
その話にみな驚いたり、半信半疑だったりと様々な反応を見せた。

餅付「信じなくてもいいからね。どっちにしても時間が経ったらいつものように、
みんな何事もなかったかのように忘れるんだ。
それまで静観してれば…いいんだよ」
その言葉はほとんど自分に言い聞かせていた。

百連撃「いいわけねぇだろ!デマならちゃん訴えろや!」
旧惑星「やめろ百連撃!」

ゆうちゃむ「…それってさ、リルルちゃんもマテヨのせいで炎上したの?」

餅付「え?」
ゆうちゃむ「モレソがリルルちゃんのプライバシーなこと勝手に明かして炎上させて、リルルちゃんすごく思い詰めてた。あれもマテヨが命じてたなら許せない」

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