百連撃「激辛か…面白いけどオレのチャンネルの趣旨と合わないような」
瑠璃「い、いっそ私人逮捕から切り替えて別のことしてみるとか…」
百連撃「んー……」
「あ!いいこと考えた!」
ただ激辛料理を食べるだけでは芸がない。百連撃は自身のチャンネルの特性を活かした絡ませ方を考えた。
百連撃「はいというわけで!今日はさまざまな激辛料理を食べていきたいと思うんですけども!」
「食べるのはオレじゃなく……じゃーん!痴漢と盗撮の罪を犯した彼らでーす!」
百連撃「テメーらなに黙ってんだ!盛り上げろや!」痴漢・盗撮犯「いぇ、イェーイ……」百連撃「ではみなさんにはお手元の料理を食していただきます!こちら話題の激辛調味料『ヘルソース』をたっぷりかけた超超ゴッド激辛ソース焼きそばになります!」百連撃「これを1番最初に完食した人が、オレに逮捕された時の動画をネットに載せられることを免れます!」
犯罪者一同「えぇ〜!」痴漢「ぶけんな!人権侵害だ!」盗撮犯「弁護士呼んでくださいよ弁護士」百連撃「うるせークソオス共!お前ら犯罪者にまともな人権があると思うなよ!」「お前らは被害に遭った女性の痛みを知らなきゃいけねぇ!そういう禊なんだよ!」
百連撃「ちなみに食べきれなかった奴はモザイク無しで晒すからな!」痴漢・盗撮犯「ひぇ〜!」百連撃「さぁ食え食えー!明日の肛門に別れを告げろ!!」
その動画は百連撃のチャンネル史上最も伸びた。そして最も多くの批判を集めた。その翌日───
警察「横田好生!脅迫及び傷害の罪で逮捕する!
百連撃「何しやがる!!放せバカ!!」
通行人A「え?あれ百連撃じゃない?」
通行人B「なんか捕まってる笑」
通行人C「ウケる撮ろ」
百連撃「あぁ!?ざけんなテメーら!!見せもんじゃねーぞ!」
百連撃「撮ってんじゃねぇ!しょーぞー権侵害だぞ!!!」
横田百連撃こと横田 好生は容疑者として全国報道された。
百連撃は被害を訴えた人たちに示談金を渡したことで被害届は取り下げられたが、多くの人が横田百連撃を犯罪者と認識した。示談金で財産を失い、件の不適切な動画でチャンネルも凍結された百連撃。彼のこの後の人生が過酷であることは言うまでもない。
百連撃「TouTubeなんかこりごりだ〜!トホホ〜」
chapter1 END
TOTの開催が宣告され、ゆうちゃむがTouTuberデビューしてから数ヶ月──彼女はSNSにてエゴサーチをしていた。「はぁ?なんでこんなことで炎上すんの。暇人ってホント細かいとこ気にするなぁ〜」
ゆうちゃむのTouTubeチャンネル『ちゃむch』は、破竹の勢いで登録者を伸ばしていった。しかし、登録者が増える度にまとわりつく『アンチ』の数も増えていく。自分のチャンネルは他のTouTuberに比べても、アンチの母数が多いということは自覚していた。
ゆうちゃむの中でその理由は確定している。冴えない人生を歩む者たちが、自分の成功に嫉妬し、恨みつらみを吐き散らしているのだ。昔からそのような嫉妬は多少なりぶつけられてきた。そのような悪意に心を乱す必要はないことも、ゆうちゃむは理解していた。
「今度こそ成功するんだ……」優勝を夢みるゆうちゃむの脳に、過去の記憶が蘇る。─────────
『ゆうちゃむ』こと佐々木 真由は、幼少期から容姿の良さで周囲から持て囃されてきた。そんな彼女は高校生の頃、都会に遊びに行った時に芸能事務所の人間からスカウトを受ける。
『まゆゆ』という芸名で読者モデルデビューした真由は、それを学校の友人たちに伝えた。「すごー!真由有名人じゃん!」「いいなー美人うらやま〜」
周囲の人たちから向けられる羨望に、真由は心が満たされた。自分の美しさは学校の範囲に収まらない、世間に通用する美しさなのだと自負するようになった。しかし、読者モデルとしての活動は真由が思い描いていた方向にはいかなかった。
読者モデルの世界には、彼女と同等、いやそれ以上に容姿の優れた女の子が何千人といた。特別だと思っていた自身の美しさが初めて埋もれる経験をした。真由にとっては人生最大の挫折である。
モデルとしての活躍が期待できなくなると、周囲の人間は真由を持て囃すこともなくなった。中には、そんな彼女を陰で嘲る声もあった。真由は焦った。今更一般人の生活に戻れば、華々しい生活とは正反対の惨めな人生を歩むに違いない。自身の未来に大きく期待していた真由にとって、それは許されざることだった。
自身の価値を高めようと、運動や、健康的な食生活、スキンケアやメイクの勉強は欠かさずやった。高いお金をつぎ込み、美容整形にも踏み込みんだ。しかしそれでも彼女がモデルの世界で輝くことはなく……20代半ば。読者モデルの世界では“ベテラン”とされる域に達した頃、彼女はついにその道を諦めた。
そんな経験をして数年、彼女の野望を呼び覚ました企画が『Top of the Tube』だった─────
TOTを優勝した際のゆうちゃむの願いは【売れること】。現在のゆうちゃむのチャンネル登録者数198万6782人は、十分にその願いを果たしていると言えた。しかし、長年の挫折で満たされなかった彼女の欲望はさらなる高みを求めた。
「手頃にバズるには強めの発言をしていかないとダメだよね〜…」それからのゆうちゃむは過激な発言が目立つようになった。その中には、人気急上昇中のライバルたちを貶める発言も多くあった。
「身長175cm以上ない男は人権ないよ𐐃 ·̫ 𐐃」「ZaramePってボカロPなの?知らなかった笑 曲より自分を売ってない?」「女子で脱毛しない女とか美意識低すぎ(笑)恥ずかしくないの?」
それらの発言は、ゆうちゃむに関心のなかった者たちの目にも止まり、彼女に敵意を向ける者たちの数が増えていった。数を増やしたアンチたちは、ゆうちゃむを貶めるための弱みを探り、暴いていった。
【ゆうちゃむ、名もなき読者モデルだったwww】
そんな文言と共にSNS上で明かされていくゆうちゃむの経歴。
『整形疑惑アリ。過去の写真と見比べ豊胸手術をしている可能性大(B→H)』『鼻整形。唇ヒアルなど』『年齢詐称?モデルの活動期間から考えると現在28歳説濃厚!』
ゆうちゃむ「なんだよこれ!誰がこんなもの見つけたんだよ……!」ゆうちゃむのアンチたちは、それらの情報を武器に『ちゃむch』のコメント欄やゆうちゃむのSNSアカウントに誹謗中傷のコメントを書き込んだ。
今までの嫉妬に満ちただけの誹謗中傷とは違い、自身の劣等感を刺激していくそれらの言葉はゆうちゃむの心を蝕んだ。
それから数日後、ゆうちゃむのチャンネルやSNSアカウントは、なんの予告もなく突如閉鎖された。一時の名声を得て転落したゆうちゃむのその後を知る者はいない。
「所詮は量産型配信者」とアンチから捨て吐かれ、彼女のその後を知ろうとする者はいなくなった。
chapter2 END
chapter3 END
リルル「──以上、本日のゲストはあっくんでした♪みんなおつリル〜♪」あっくん「皆様、ご視聴ありがとうございました♪」
今日の配信のコラボ相手だったあっくんとの挨拶を終えた水母リルルこと古泉瑠璃。本来なら今日のコラボにゆうちゃむも混ざる予定だったが、彼女は例の炎上で音信不通になり、それが叶わなくなった。安否の確認しようと何度か連絡をしたが変わらず返事は来ていない。友人として、せめて無事であってほしいと心から願っていた。
彼女だけではない。立花みりあや横田百連撃もTouTube活動によって不幸が起きている。親しい人たちそのような目に遭うのはとても悲しかった。しかし、同じくTouTube活動をしている彼女も他人事ではない。
瑠璃は悩ましげな顔で自身のチャンネルのアナリティクスを見ていた。瑠璃「だんだん再生数が減ってる…やっぱりあの時の炎上で……」
瑠璃は1ヶ月ほど前に、暴露系インフルエンサー沢沢モレソにより年齢をバラされていた。自身の年齢は水母リルルを推していたファンたちにとって受け入れ難いものだったのだろうか、数々の非難の声があがった。今でもあれらの発言を思い出すと目眩を起こす。しかし1番問題なのは、ファンに受け入れられなかったことではない。
「これじゃあTOT優勝できない。私にはどうしても叶えたい願いがあるのに…」古泉瑠璃が叶えたい願いとは、【自分を捨てた元恋人たちへの復讐】。
瑠璃はこれまで、結婚を誓い交際した男性が3人ほどいたが、全員が若い女性に心を奪われ、自分の元を去っていった。いつか家庭を持つことを夢見て恋人に尽くしてきたが、5年前に振られたのを最後に瑠璃は独り身になった。
そんな彼女にとって、年齢を理由に見限られることは1番辛いことだった。瑠璃「また年齢のせいで大事なものを失っちゃうの……?」「私の…私の大事な時間を奪った男たちに復讐できてないのに……」「そんなの嫌だわ。私より不幸になって、苦しんでもらわないと割に合わない」
「……不幸?」瑠璃は自身の言葉に疑念が沸いた。「私って、今不幸なのかな」
翌日、夜──退勤後、入院していたみりあへのお見舞いに行った帰りだった。瑠璃は「今日は雑談でもしようかな─」と、疲れからか無意識にリルルの時の口調で呟いた。その時───
瑠璃の頭に強い衝撃が走った。
あまりの衝撃に瑠璃は意識が朦朧とし、後頭部を押さえて倒れ込んだ。後頭部に鈍い痛みが走る。自分は殴られたのだと自覚した。
頭を押さえながら振り返ると、そこには中肉中背の見知らぬ男性が立っていた。その男の顔は怒りに満ちていた。男性「リルルたゃは女子高生だ…こんな、こんな年増の女じゃない!」
男は瑠璃に掴みかかり、押し倒した。瑠璃「いやっ…やだ、誰か──!」中年「お前がリルルたゃの声を出すな!お前はリルルたゃじゃない!」
男は持っていた鈍器で瑠璃を再び殴った。その言葉で瑠璃は理解した。彼は水母リルルのリスナーなんだ。リルルを演じている人間が、本物の女子高生だと信じ込んでいたんだ。
彼は何度も瑠璃の頭部を鈍器で殴りつけた。何度も。何度も。何度も。
自分の崇拝していた少女の、理想とそぐわぬ部分を消そうとした。強烈な痛みで意識を手放しそうになりながら、瑠璃の頭の中に、水母リルルとして活動していた頃の記憶が流れた。
リルルが登録者数1000人以下の時代から応援してくれていた人たち。TouTubeをきっかけに生まれた繋がり。炎上した時も「年齢なんて関係ない」「リルルちゃんの人柄が好きだ」と言ってくれたコメントがいくつもあったことを思い出した。
そうだ。私は不幸なんかじゃなかった。幸せだったことを自覚できてなかっただけだ。復讐に囚われて、数字や否定的な意見ばかりを気にするようになってしまっていた。これはそんな私への罰なのだろうか。
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