Wiener, Norbert. (1954) The Human Use of Human Beings: Cybernetics and Society, 2nd edn, Anchor Books.
=1979 鎮目恭夫・池原止戈夫訳『人間機械論——人間の人間的な利用 第2版』みすず書房
「<ホメオスタティックな調節に関するいくつかの仮定(postulate)>…
1. 『我々の体が表しているような、不安定な素材から成り、持続的に撹乱条件に従属している開放システムにおいては、恒常性がそれ自身で、この恒常性を維持するために主体(agency)が働くか、あるいは働く準備ができていることの証拠である』[??]…
2. 『もしも状態が定常的であるなら、そうなるのは、変化へのいかなる傾向も、変化に抗する因子・諸因子の効果が増大することによって自動的に対処されるからである』…Y. ヘンダーソン(1925)が述べたように、均衡の生理学的概念と化学的概念はかなり異なっている。『一方は自らを維持するエネルギーを、あるいはそれが妨げられれば回復させるエネルギーを呼び起こす…他方は均衡を追求して、ダイナミックに丘を下るだけである』。
3. 『一方の方向に動くことで定常状態を維持しようと働くどんな因子も、同一点で逆方向にも動くことはない』…
4. 『ホメオスタティックな主体は、体のある領域では拮抗的で、別の領域では協調的であるかもしれない』…
5. 『ホメオスタティックな状態を決定する調節システムは、同時あるいは続いて作用する多くの協調的因子を構成するかもしれない』」pp.424-6.→
「これらの一般的なアイデアに、より精密な分析を最初に与えた栄誉は、クロード・ベルナール(1878)に属する。彼は、複雑な組織を有する動物においては、生ける部分がそれを浸す液体の中に、すなわち血液とリンパ液の中に存し、その液体が ”milieu interne” ないし”intérieur”——内部環境、あるいは我々が体の液質(fluid matrix)と呼ぶものを構成している、と指摘した。この液質は生命体自身により作られ、制御される。そして生命体がより独立して、外部世界の変動から自由になるにつれ、外部環境のシフトにもかかわらず自身の内部世界を画一に保つことによってそうするのである」p.400.
ベルナール引用文「自由で独立した生命の条件は、『内部環境』の固定性である。あらゆる生命メカニズムは、それらがどんなに様々であろうと、ただ1つの目的、内部環境における生存条件を恒常的に保つという目的を持っている」p.400.
Fredericq(1885年)「生き物とは、各々の不安な影響がそれ自身により、不安を中和ないし修復する代償行動を呼び起こすような種類のエージェンシーである。生き物の階梯が高度になればなるほど、ますますこれらの調整エージェンシーは数が多くなり、完全になり、そして複雑になる。それらは生命体を、環境で起きる望ましくない影響と変化から完全に解放する傾向がある」
Richet(1900年)「明らかに矛盾しているが、生き物がその安定性を維持するのはただ、興奮しやすく、外的刺激に従って自身を修正して刺激に対し反応を調整できる時のみである。ある意味で生き物は、修正可能だからこそ安定している——わずかな不安定性が、生命体の真の安定性の必要条件なのだ」p.399.
Cannon, Walter B. (1929) “Organization for Physiological Homeostasis,” Physiological Review, Vol.9, No.3, pp.399-431.
(承前)「社会的な恒常性の大切な役割は、からだの恒常性を維持するたすけとなることであろう。そうすることによって、神経系のもっとも高級な働きは解放され、冒険や仕事の完成に向けられる。生命の維持に欠くことのできないものが保証されれば、無限の価値をもつ不急不要の事柄は、自由に捜し求めることかできるであろう。
社会が安定すると、たいくつで単調なことになりやすく、予想もできない不安定なことから生ずる興奮がなくなるだろうという心配があるかもしれない。
しかし、そうなるのは、生存のための基本的な要求に関してだけのことである。新しい発明による社会の変化はまだあるだろうし、社会の関心は、栄誉ある偉業や、人間性の軋轢や、新しい思想の発表や、愛と憎しみの葛藤や、そのほか人生を変化に富み色彩豊かなものとする出来事に集まる。
社会が安定すれば、とりわけ個人の自由な活動がいちじるしく妨げられるのではないかという心配があるかもしれない。しかし…社会全体としての安定な状態は、それを作りあげている個々の人々の安定な状態と密接に結びついている」343-4頁→
「自由の基盤としての恒常性維持
液性環境の調節された安定性が、生物に与える影響を研究したときに、われわれは、安定性が保たれるかぎり、からだはその内外から加えられる悪条件による制限から解放されていることに着目した。社会組織を満たしている液質の調節と安定性から、同じような結果が生ずることは考えられないだろうか?…
…からだの恒常性は、つねに変わる新しい条件にからだを適応させる働きから神経系を解放して、たんに生存をつづけるために必要な細々としたやりくりに絶えず注意を払う必要性をなくした。もしも、恒常性を維持する仕組みがなくなれば、普段は自動的に修正しているものを意識的に行うよういつも注意していなければならず、さもなければ悲惨なことになる危険に絶えずさらされている。
しかし、必要なからだの働きを安定に保ち、恒常性を維持する仕組みのあるおかげで、個人としてのわれわれは、そのような骨のおれる仕事から解放されている——われわれはからだについての不安に妨げられることなく、自由に友だちと楽しくつき合い、美しいものを楽しみ、われわれの身の回りの世界の驚異を探求しそれを知り、新しい思想や興味を発展させ、働きそして遊ぶことができる」342-3頁→
「生物のからだに備わった条件がわれわれに教えていることは、集団を構成している個々の人々の能力がそこなわれたり、不健康になったりして、集団が弱まることがないように、保護し回復させる働きをする熟練した手当ての手段が、社会集団のなかになければならないことである。
考えに入れておかねばならない事実は、成熟した生物のからだは、構成している細胞の数が比較的一定したからだである、すなわち、人口が調節されている社会集団に当たるということである。
…人間のからだが社会組織に教える知恵は、その人口や、生存の手段が適当に保証されるように調節され、地域的な、あるいは外国からの移住がふえて混乱の生ずることがないという条件の上に立脚している。
社会組織と生物のからだの間のいちじるしい違いは、生物はかならず死ぬということである。…
死は、社会から古くなった人々を取り除き、新しい人々に場所をゆずるための手段である。したがって、国家や民族はその終末に思いを巡らす要はない。それを作りあげている単位は、絶え間なく更新されているのである。したがって、国家を安定させる仕組みがいったん見出され、確立されれば、その作用が適用されている社会組織自体の成長が比較的安定したものである限り、その仕組みも働きつづけることであろう」338-9頁
(承前)「現代社会の複雑な相互関係のなかで、計画的な調節は産業と生産にあるというより、むしろ財貨の分配の仕組み、商業と流通にあるようである。… さらに、からだは、安定性の重要性から見て、液質、すなわち商業の過程の安定性を維持する力を社会そのものから与えられた、特別に組織された調節機能を持つことが当然であることを示している。このことは、社会不安の原因が予知されるときに、財貨の生産を押さえて、需要に対する供給を調節するような力が、当然あるべきことを意味しないだろうか?… 生物のからだでは、予備の物質を貯蔵したり、放出したり、絶えず働いている作用を促進したり止めたりする力を与えられているのは、冷静に考えたり適応を行う大脳皮質ではなく、適当な警報がはいれば自動的に働く脳の下部の中枢であるということは、注目に値する。 生物の発生を見てみれば、内部環境を安定に保つ自動的な仕組みが、おそらく実験的な試み、誤りと修正の長い経験の結果であることが知られる。社会的な安定を保証する方法が、同じような進化の結果えられるであろうと期待することも無理ではあるまい。しかし人間の知性や、すでに作用している安定作用の成功した実例が、社会の進化を比較的速いものにするかもしれない」337-8頁
「からだの仕組みから見た社会的安定性の要因
この問題を解決する方法について、からだの安定性はどのようなことを暗示しているのだろうか?…もし、範囲のせまい、かなり自給自足的な領域を考えるならば、からだが暗示しているものはだいたいつぎのようなことではないかと思われる。
からだは、<安定性がなにはともあれ大切である>ことを示している。それは節約することよりも大切である。…
危急のさいには安定性が経済性に優先するというこの証拠をさらに裏づけているのは、充分な余裕を見越して与えられているからだの安全係数である。たとえば、血液量、肺の容量、血圧、心臓の能力のありようは、節約をむねとして決められているのではなく、打ち消さなければ液性環境をかき乱すような、異常な事態に出会う危険にもとづいて決められている。
また、からだは、恒常性がかき乱され始めたことを初期に示す徴候が、捜してみれば見つかることを教えている。社会組織については、このような警報はほとんど知られていない。したがって、これらを発見し、その真の価値を明らかにすれば、社会科学にもっとも重要な貢献をすることとなろう」335-6頁→
「さしあたり、私は最低の場合について述べた。社会組織の安定性が達成されるには、<最低限>これらの条件が満たされなければならない。生物学的な経験に照らしてみれば、社会的な安定は、固定し、かたまった社会組織のうちにあるのではなく、人間に根本的に必要なものがつねに供給されるように保証している、適応可能な産業的、商業的な活動のうちに求めるべきものである。
社会組織は、外部から課されたり、自身の活動の結果生じたりする悪影響を、動物のからだのように、避けることができない。…
…財貨の移動が止められ、妨げられれば、生ずる結果は同じである。…
これらさまざまな災厄のさいに、状況が彼らに押しつける困難に対して。社会を構成している個々の人たちが責任をとることはない。彼らは、複雑な仕事の組織のなかで特殊な仕事を行っている、多かれ少なかれ固定した単位なのであるから、すばやく新しく生じた状況に対応して調整を行うことはできないのである。危急のさいに、全体の利益のために組織を変える力を持っていないのである。どのような形の治療にも——個人の新しい適応にも、組織全般の補修にも——時間と注意深い計画が必要なのである」333-5頁
「社会における流通機構
働きのうえで、動物のからだを満たす液質にもっとも近く、しかも民族や国に見られるものは、あらゆる種類の流通を行うシステムである…
この巨大で複雑な流れの主流や支流は、多かれ少なかれすべての共同社会に達しており、財貨は他の地域へ運ばれるために、流れのなかへその源泉で入れられる。それらの地域は、また、同じように流れのなかに入れられる財貨の出発点になっている。…
しかし、この流れのなかから財貨を取り出すことができるのは、同等の価値の財貨をそのなかに戻したときにかぎられる。もちろん、一般にはこのような直接の財貨の交換は行われない。
直接の交換はきわめて不便なものであろう、交換をやりやすくするために、広く価値の認められた貨幣が用いられる。あるいは、信用が一時的に貨幣の代わりに用いられる。…貨幣と信用が社会を満たす液質のなくてはならない部分となっている。
動物のからだが持っているのと同じ程度の安定性を、社会組織に保証しようとすると、動物のからだを満たす液質に安定性を維持している調節作用が思い起こされる。
そこでは、まず第一に、巡り動く流れによって、生命の維持に欠くことのてきない物質が絶え間なく運搬されるよう保証されている」332-3頁
社会学と誤用進化論😅を中心に読書記録をしてをります
(今はストーン『家族・性・結婚の社会史』1977年)
背景写真はボルネオのジャングルで見た野生のメガネザル
https://researchmap.jp/MasatoOnoue/