「アメリカ型の家族(絶対核家族)も日本型の家族(直系家族)も、伝統的な農民の家族のタイプであって、さしあたり通時的な前後関係はないのである(さしあたり、というのは、最近トッドが始めた、家族制度の変遷の通時的研究では、絶対核家族が最も古い形態であるという、逆説的な結果が出ているらしいからである)。ただ近代性というものは、アングロサクソンによって形成された側面が最も強いため、絶対核家族的な人間関係(個人の独立性、自由主義)が近代的人間関係を代表するように見え、また家族が一つの経営体を構成しなくなった現代の都市型サラリーマン社会では、3世代同居の直系家族型の家族構造よりは、核家族の方が優勢になるという事情もあるため、ここに歴史的進化を見たがる傾向が生じたと考えられよう」17頁
「彼[トッド]は近代化の主たる要因として、識字化、脱キリスト教化、工業化、そして副次的に受胎調節を挙げる。…
トッドは受胎調節を、識字化と脱キリスト教化の合成と考える。…ヨーロッパで最初に(と言うことは、世界で最初に)受胎調節が始まった北フランスにおいて、近代イデオロギーも発生するのである。それがフランス大革命に他ならない」45頁
「産業革命が起こったインクランドは核家族地帯で、しかも識字化についてはドイツ、スウェーデンの後塵を拝していました。では何故産業革命があのように急速にイングランドで進展したかというと、一つは絶対核家族は子供の早期の旅立ちという要素をもともと持っていて、可塑性に富んでおり、農民たちを根こそぎにしてしまうという点において非常に有利であった、そういうことがしやすかった、ということがあるように私[トッド]は分析したのです。イングランドで粗暴な資本主義革命が起こったあと、今度は識字化が進んだ国々で産業革命が起こります。これらの教育水準の高い国々における第2次産業革命は、アングロ・サクソン的な絶対自由主義的なものに激しい抵抗を示しました」95頁
「農地制度について、彼[トッド]はヨーロッパ各地の農地制度が時代を越えて『安定』していることを示した。つまり家族農場(家族規模で農業を営む中農)も大規模経営(農業賃金労働者を雇って広大な農場を経営する大地主)も、その地理的分布は中世以来変わらないのである。…中世カロリング期の大荘園が現代の大規模経営の原型をなすという発見」48頁