「物理学および化学の法則のうち、生物体の内部で、あるいは生物体とその周囲の環境との相互作用において関与する法則ならば、どんなものでも例として選ぶことができるのです」36頁
「遺伝物質が高度の持久性をもっていることと、その大きさがはなはだ小さいこととを調和させるために、事実上『分子を発明する』ことによって、無秩序へ向かう傾向を避けなければなりませんでした。その分子は異常に大きな分子で、高度に分化した秩序をもち、量子論の魔法の杖によりしっかりと護られている一つの芸術作品ともいうべきものでなければなりません。…古典的な物理学の諸法則が量子論により修正され、ことに温度の低いところで著しく修正を要することは、物理学者にはよく知られていることです。このような例はたくさんあります。生命はその一例で、特にきわだったものと思われます。生命は秩序のある規則正しい物質の行動であって、それは秩序から無秩序へと移り変わってゆく傾向だけを基としているものでなく、現存する秩序が保持されていることにも一役買っていると考えられます。
…生きている生物体は一つの巨視的な体系であって、その系の行動の一部に関しては、ほぼ純機械的な行動(熱力学的行動に対照した意味での)をする体系のように考えられます。ただし、どんな系でも温度が絶対零度に接近し分子的な無秩序がなくなるにつれて純機械的行動に近づいてゆくものです」135-6頁
「右のこと[平方根の法則]から再び、生物体は比較的粗大な構造をもっていなければ、内的な生活と外界との交渉との双方において、かなり判然とした法則の恩恵を蒙ることができないことがわかるでしょう。なぜなら、もしそうでなくて、参与する粒子の数が少なすぎたなら、『法則』は不精密になりすぎてしまいます。この平方根ということが特に必要な大切なことです」37頁