「近代の家族変動と社会変動をとらえるための理論的基礎は人口転換(demographic transition)とジェンダーであるべきだと考えている。…産業革命が『物の(生産の)近代』を出現させたとすれば、『人の(再生産の)近代』を生み出したのは人口転換であった…
人口転換は、近代家族の成立を可能にする条件を生み出した。…近代家族の子ども中心主義という心性のいわば人口学的下部構造である。
…人生の安定性と予測可能性が高まり、家族経験の同質性が高まったとマイケル・アンダーソンは言う…
…筆者[落合恵美子]が『社会の中にいくつかある家族類型のひとつ』でしかなかった『19世紀近代家族』と、『社会のどの位置にいる人にとっても、同型的な家族が成立しているはずだということを前提としている』『20世紀近代家族』を区別…山田昌弘も実態レベル(実際の家族が近代家族の性質を備えている)と制度レベル(社会が近代家族を前提として構成されている)を区別して、前者を『近代家族』、後者を『近代家族システム』と呼んでいる…人口転換は制度レベルでの『近代家族システム』の成立を可能にした」534-5頁
「日本以外の東アジア諸国の近代化は、日本よりもさらに圧縮されており、欧米諸国や日本が経験したような『第1の近代』と『第2の近代』の区別なしに、近代をひと続きのものとして経験している。チャン[キョンスプ]がこの状態を『圧縮近代』と呼んだのだとすれば、まがりなりにも2つの異質な近代を意識することのできる日本近代はこれと同じではない。そこで筆者は近年、日本近代を『半圧縮近代』」として概念化することを提案している」538頁
「婚姻に関する指標のうち、同棲の増加と婚外出生率の増加はほとんど起きていないことが、[東アジア諸国と]欧米圏との大きな違いである」539頁