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「外婚制共同体家族の特徴
——相続上の規則によって兄弟間の平等が定義されている。
——結婚している息子たちと両親の同居。
——しかしふたりの兄弟の子供同士の結婚はない。」78頁

「共産主義、それは外婚制共同体家族の道徳的性格と調整メカニズムの国家への移譲である、と。外婚制共同体家族が、都市化、識字化、工業化などのいわゆる近代化のプロセスによって解体されながら、その権威主義的で平等主義的な価値を新しい社会に伝えているのである」78頁

「夫婦の年齢的な関係が平等的であるロシアの伝統的な家族は、典型的な共同体家族の姿を見せるとともに核家族の様相をも呈している。構造的に破裂するようにできており、伝統的家族を構成する複数の夫婦を解き放つことになるようにみえる。19世紀から20世紀にかけてツァーリによってはじめられ、次いでソビエトに受け継がれた近代化が実現したものがそれであった」82頁

「外婚制共同体家族はロシアでは完璧に炸裂したが、中国の農村部では部分的にしか瓦解しなかった。ロシアで生まれた共産主義は、ロシアがもつ平凡であると同時に極限的な家族構造の例外的な人類学的緊張によってはじめて発明されたものであった」83頁

「一般的にいって、自殺は、その家族システムの密度が高く、縦型で、両親と子供たちの相互依存を強いる国であればあるほどより頻繁に発生する。ここでは父と息子の関係の潜在的に病理的な性格についてのフロイトの直観が正しかったことを統計によって確認することができる。権威主義家族と外婚制共同体家族が核家族のモデルよりも明らかに不安発生要因をより多く孕んでいる。したがってより高い自己破壊の頻度を生み出している。
 しかし家族関係が縦型であるということが自殺の唯一の要因ではない。夫と妻の関係の平等と安定の度合いは、同じくらい重要なもうひとつの要因である。…自殺の動機における男女の関係の重要さが、なぜ外婚制システムが内婚制システムよりもはっきりと地球規模で高い自殺率を生み出すのかを説明している。…
…最も高い自殺率はその家族システムが、<外婚制で、同時に強い縦型の要素を内包し、男女の平等な関係を有し、高い離婚率>をもつ国々で観察されるのである。…
 言語学的な見せかけにもかかわらず、[自殺率が高い]キューバは共同体家族の国なのだ、という単純な仮説を立てる必要があるのである」87・89頁

若気の至りなのか、けっこう無茶な議論してるなあ

「主要な問題は、家族の理想が具現化されることで、2組または3組の婚姻カップル(核家族集団の場合は1組だけ)からなる目に見える具体的な家族集団の姿が実現されるためには、家族の価値だけではなく、さまざまな状況や物質的な条件が必要となるということなのである。だから稠密で複合的な家族は都市部では、常に農村部よりも少ないのである。しかしそれは決して家族の価値が弱体化していることをア・プリオリに意味しているのではない。都市部では、それらの価値が複数の成人の同居や共同の労働というかたちとは異なるやり方で表現されるのである。家族は単に可視的な組織であることをやめたということに過ぎない。農村の生活に結晶化している家族の価値は、都市では非物質的な心的構造の状態に移行するのである」89-90頁

反証不可能な議論に思えるが…

「権威主義家族の特徴
 ——相続上の規則によって兄弟間の不平等が定義されている——財産の全てを子供たちのうちの1人に相続。
 ——結婚し相続する子供と両親の同居。
 ——ふたりの兄弟の子供同士の結婚は僅少、もしくは無」108頁

「マックス・ウェーバーは、説明することはできなかったが、共同体家族構造と普遍主義的な帝国建設との間に一定の関係が存在することに気がついていた。ローマ、中国、ロシアの親族システムの間の類似性はとりわけ顕著である。この3つのシステムに存在する外婚制共同体家族は、特に強い兄弟愛の感情を基礎としている。この家族構造は、強力な同化能力を持ち、人間同士の間や民族同士の間に差異が存在するということを認めるのを拒む特別な適性を持っている」109-10頁

「権威主義家族が支配的な文化の大部分は、規模の小さい民族である。これは偶然ではない。同化によって拡大するという資質をもたないからだ。ドイツと日本が特筆すべき2つの例外である」111頁

「時間的な軸
 権威主義家族を基礎とした社会システムの主要な安定軸は、時間的なものである。権威主義モデルを実践している民族は共通して強い歴史的な意識をもち、この人類学的な類型の特徴である血族的な理想の自然な反映として線的な時間の鋭い感覚をもっている。権威主義家族は、世代の途切れることのない継承、理論上限りなく続く家族集団の恒久性を組織するのである。それは権威主義家族の目的であり機能である」114頁

「権威主義家族は、<不平等主義的な価値>と<平等な社会実践>を伝達する。
 核家族と共同体家族は、<平等主義的な価値>と<不平等な社会実践>を伝達する。
 人類学的な基底はしたがって、イデオロギー・システムを組織するだけに止まらない。農民社会の現実の経済形態をも形づくり、その一般的な構造——所得や教育において平等主義であれ不平等主義であれ——は、近代社会のなかですら永続するのである」118-9頁

「社会民主主義はどこでも権威主義家族構造と一致している。政治的カトリシズムもいたるところで同じ権威主義の人類学的土壌に、第二次世界大戦のかなり以前から花咲いている」122頁

「権威主義家族は、13世紀にはカトリック地域ではもっとも一般的な人類学類型であった。全体の人口規模のなかで権威主義家族は45%を占めていたのに対して、平等主義核家族は40%、絶対核家族は10%、外婚制共同体家族は10%であった。時間を経るとともに、カトリシズムは、個人主義的分派や共同体的な分派を切り捨てることで、当初持っていた傾向を純粋化していったのである」140頁

足すと100を超えてしまうが…😅

「人類学的な分析は、マックス・ウェーバーの概念化とは一致しない。というのも、ウェーバーは宗教的なカテゴリーを固定したものと考え、カトリックとプロテスタントの諸概念がそれぞれ統一的な性格を形成していると信じているからである」141頁

「非常に高い結婚年齢は、共同体家族では許容できない。規模の大きい複合家族が形成されるためには、世代の間隔が小さいか中位であることが前提となるため、晩婚は論理的にそれを不可能にするのである。共同体家族の理念的な形態は、両親の存命中に少なくともふたりの兄弟が結婚することであり、比較的速やかな世代の交代が前提となる。
 その縦型の理念的形態からすれば、権威主義家族はひとりの息子もしくはひとりの娘の結婚だけを前提とするのである。したがって世代間の年齢の隔たりが大きくなっても許容されるのである。しかしその組織は、核家族のそれとは反対に、非常に低年齢での結婚も許容できる。その場合、若夫婦は成人である両親の管理と保護のもとに留まるのである。したがって権威主義家族は実際には、あらゆる結婚年齢と呼応するのである。
 現存する資料をみれば、実際に権威主義家族が他の人類学モデルよりも幅広い年齢層に対応していることが分かる」142頁

「ヨーロッパの一定の地域がカトリシズムに愛着をもつのは、晩婚という地域モデルが先に存在していたからではないかと問うこともできる。…家族的に権威主義地域が少なくとも強力な少数派として存在するヨーロッパ諸国での相関係数は、カトリック右翼と晩婚の関係が生み出す力の存在にはともかく疑う余地がないことを示している」144頁

「政治上のシステムを生み出すのは人類学的な条件であり、逆ではない。神学は結婚年齢を決定しない。それぞれの家族システムが自らの教義を選び、凍結し、イデオロギーに変容するのである。家族の無意識的な価値が、聖職や世俗の知識人たちによって創り上げられる教義がイデオロギーとして凝結するために必要な精神的な厳格さと大衆的な基盤を提供しているのである」148頁

「人類学的な価値システム——自由、平等そしてそれらの反対物——は、時代によって変化し、副次的な文化的要素にすぎない性的行動よりも安定し、深く、強力なものなのである。…
 権威主義家族構造の地域で殊に大きい変動を見せる結婚年齢だが、そのような変動はすべての人類学システムに存在する。それらの異なる構造を組織している諸価値は、それぞれ異なるイデオロギーを定義することになるのである」149頁

「私生児であること、つまり結婚外の子供(フランス語では自然児と呼ばれる)の妊娠は、外婚制メカニズムにとってほとんど避けることのできない相関的な現象である。家族集団の外部に配偶者を探すということは、偶然的な出会いを前提としているとともに、女性の性の管理が或る程度緩くなることを意味している。内婚制システムについての信頼できる数字は存在しないが、いくつかの調査の結果を見る限り、選好婚モデルでは私生児という原理そのものが排除されていることを示唆するものとなっている。イスラム諸国に関する現存するデータによると、私生児の誕生は0%から0.1%の間で揺れるきわめて僅かな割合に止まっている」151頁

「平等主義核家族の特徴
 ——相続上の規則によって兄弟間の平等が定義されている。
 ——結婚した子供たちと両親の同居はなし。
 ——ふたりの兄弟の子供同士の結婚はなし。」164頁

「絶対核家族の特徴
 ——明確な相続上の規則がない 遺言による相続が多い。
 ——結婚した子供たちと両親の同居はなし。
 ——ふたりの兄弟の子供同士の結婚はなし。」164頁

「ル=プレは…パリ盆地のガリア人たちが不安定な家族、つまり核家族の理想を実践してきたと批判していたのであった。核家族があの許し難い規律のなさを生み出しているのである! 1960ー70年代にイングランドで行なわれた研究が明らかにしたことは、社会学的な意味での個人というものは、ヨーロッパのいくつかの地域ではずっと存在していたのだということである」166頁

「平等主義的な核家族構造の地域に位置する首都や大都市は、しばしば共産主義の実体ある定着の場となっている。1921年からのパリがその例であり、今日ではアテネがそれに当たる。しかし根無し草化の影響であるこのような政治的な地理分布は、過渡的なものである。…都市化のプロセスがいったん完了すると、住民の安定化に伴なって共産主義的な受け入れの構造が必要なくなるのである。パリの場合、この増加したあと減少するという動きが自殺と共産主義の動きにおいて平行したものとなっているのである。これらの動きは1世代の間隔をおいて反復されている。自殺は1945年から減少し、フランス共産党は1978年から崩れはじめたのだ」167-8頁

「自由と平等の概念は、確かに部分的に矛盾し合うものである。個人の自由な成長は、人々の間の差異の出現を前提にしている。真の個人主義はこれらの差異を認めることであるとさえ言うことができる。平等原理はこの不均質性を拒否するのである。人類学的には、この矛盾は、父の遺産の分割によって終息する家族の争いを生み出す。平等の要求は兄弟たちの分離で停止する」177頁

「フェミニズムとマチズム
 兄弟間の非対称性原理は男と女の関係に影響を及ぼし、絶対核家族モデルと平等主義核家族モデルでは関係のタイプが異なることになる。
 核家族はその2つの変種ともに、双系制システムに属しており、父系親族と母系親族に同等の価値を付与するものとなっている。…逆説的なことに、対称性に関心を持たない絶対核家族の方が、『平等主義』家族よりも両性間の平等をより深く実践しているのである。兄弟間の対称性原理は、男性の連帯をア・プリオリに前提とするものなのだ。それがすべての社会で自然なものとなっている両性間の不平等をさらに強化するのである。
 絶対核家族は反対に、兄弟の平等や男性の連帯を意に介さないのである。それは夫婦の絆をもっとも徹底した——平等主義的な——帰結にまで発展させることで、アングロ・サクソン諸国の人類学システムを地球上に現存するもっとも女性主義的なシステムにしている。
 絶対核家族は、内部に矛盾を孕まない安定した構造である。平等主義核家族は、<夫婦の連帯>の原理と<両性の不平等>の原理との間の矛盾を抱えている。この家族構造は、双系制の核家族システムのなかで男性の優位を肯定するラテン諸国のマチズムに至りつく」178-9頁

「絶対核家族は<先験的に>兄弟の関係を決定していない。家族関係の領域において、平等もしくは不平等の原理には無関心なのである。社会的関係の領域で、対称性あるいは非対称性の原理に対していかなる明確な態度も生み出さない。
 平等主義の文化は民族間の同等性を欲する。不平等主義の文化は、優れているか劣っているかを決めたがるのである」201頁

「内婚制共同体家族の特徴
 ——相続上の規則によって兄弟間の平等が定義されている。
 ——結婚している息子たちと両親の同居。
 ——ふたりの兄弟の子供同士の結婚が頻繁。」206頁

「徹底した父方内婚制を実践していたアラブ世界によって生み出されたイスラム教は、外婚制規制が弱いか皆無の隣接地域全体に広がった。イスラム教は内婚制システムを生み出したわけではない。ただもっとも極端な近親相姦の形態を禁止するかたちで内婚制を組織立て調整したのである。つまり古代エジプトの兄弟・姉妹間の結婚、ゾロアスター教のイランの兄弟姉妹間の婚姻、古代パレスチナの異父母兄弟・異父母姉妹の婚姻を禁止したのである」208頁

「中核の均質性
 イスラム教は、その中心部である内婚制の地域ではキリスト教に対して有利さをもっている。ただ歴史の偶然によるのではなく、人類学的な土壌が存在することでより大きな適合性があるのである。キリスト教に通底する共通点は、外婚制という規則だけである。…イスラムはもっと精密であり、もっとも限定的である。…外婚制とアノミー家族の周辺部を除くと、イスラムは、人類学的観点からは完璧に均質性を保っている。反対にキリスト教は、平等主義核家族もしくは絶対核家族、権威主義家族そして外婚制共同体家族を含んでいる」213-4頁

「人間関係の水平性…
 水平的で閉じたシステムである内婚制共同体家族は、おそらく人類の歴史において造りだされた環境のなかで個人を統合させる力のもっとも強い環境なのである。…例えばチュニジアとトルコで行なわれた社会心理学的なアンケートは、イスラム家族がもっとも分裂の少ない家族のひとつであり、父は子供たちにとってまったく脅威とは受け取られていないことを明らかにしている」215頁

「内婚制のプロセスは女性の完全な管理を前提にし、結婚のための偶然の出会いや管理されない妊娠の可能性を排除するものなのである。…
 イスラムはいかなる文明よりも、まさにレヴィ=ストロースが優れて不安を掻き立てるメカニズムだと認識した家族間で女性を交換するという至上命題を最小化したのである。イスラムによってもたらされたこの外婚制の問題への解決策は、女性に特殊な地位が定義されており、否定的な理想が前提となっている点で理論的な極限といえるもので、おそらく越えることのできないものなのである」215-6頁

「イブン・ハルドゥーンは血族と国家を区別しない。イブン=ハルドゥーンは政治権力の強さは、一定の時代に4世紀以上は続くことがないある血族の活力に基づいていると考えている。彼にとっては、血縁の概念は衰退という概念を含んでいる。『ひとつの家族の威光は4世代で絶える』、息子は『父に値しない』。ここに政治的なイスラムの歴史を作り出す王朝の繁栄と衰退が由来する。
 国家の弱さはイスラム世界を政治的な分裂へと導く。イスラム世界は、ローマ、中国あるいはロシアのような帝国として存在することができなかった。…兄弟の連帯という観念は、世界の他のどの文化よりも統一への熱望と分裂の能力を併せもっているイスラム文化の根本的な矛盾を理解させてくれる。
…イデオロギーのレベルではなく家族のレベルでは、内婚制的な閉鎖性を生み出し、イスラム社会が個人からなる共同体ではなく、家族が並立することで成り立っているという様相を醸し出す。イスラム教徒共同体(ウンマ umma)の構造がそれであり、家族ではなく個人の集合である国民というヨーロッパ的な観念と対立する」220頁

「社会主義とは閉じていた家族が拡張され共同体として囲い込まれた姿を再発見したいという欲望なのだ。テンニースであればゲマインシャフトの再発見と表現したことだろう。
 社会主義イデオロギーは、同様に家族構造から派生した他の要素によっても変化する。
 ——共産主義は、平等主義かつ権威主義。
 ——社会民主主義は、不平等主義かつ権威主義。
 ——アラブ社会主義は、平等主義だが自由主義ではなく、ヨーロッパ的な意味で権威主義でもない」223頁

「強力な原理主義運動が盛んな地域は急激な変化を経験しつつある地域であるが、そこでは結婚年齢が上昇していることである。原理主義が支配的な勢力になったイランがその理想的な例である。結婚年齢の上昇が近代化プロセスに不可欠な要素である故に、原理主義はすべてのイスラム諸国をいずれ脅かすことになるだろう。すでに1980ー1982年の期間において、強烈な宗教的現象は結婚年齢の比較的高い地域と地理的に一致しているのである」226頁

こういう予言チックな言い回しが、この人の魅力よね😅

「血縁結婚の内分けの変化…都市化プロセスが親族システムに<母系的な偏向>を引き起こしている。内婚制モデルが維持されながらも、変容が起こり、都市層での妻と母の重要性の増大を示すようになる。イスラムの地においてさえ、近代化のプロセスは、女性の権力の増大を引き起こしているのである。そこからイスラム教徒でありイラン人である男性たちの不安が生まれたのである。彼らがホメイニとともにすすめた闘いは、幾分はシャーに対抗するものであったが、しかし多くはチャドール(女性のスカーフ)のため、つまりはシャーが薦めた女性解放に反対するものであった」227頁

一種のバックラッシュか…今のイラン情勢を見るに含蓄深い分析だなあ

「非対称型共同体家族の特徴
 ——相続上の規則によって兄弟間の平等が定義されている。
 ——結婚している息子たちと両親の同居。
 ——ふたりの兄弟の子供同士の結婚を禁止、<逆に>異性の兄弟姉妹の子供同士の結婚を奨励。
関連する地域
 インド南部」234頁

「システムの力動的で決定力をもつ要素は家族という目立たないが、より堅固でより濃厚な下部構造に求められねばならない…此岸においても、彼岸におけると同様に、単純なもの(家族)が複雑なもの(イデオロギー)を生み出しているのであり、その逆ではない」235頁

「父方の外婚制と母方の内婚制というこのメカニズムの2つの側面は、両方ともに重要なのである。インドのイデオロギー上の原理、とりわけカースト・システムを生み出しているのは、この2つの規則の組合せである」238頁

フォロー

「<女性の結婚年齢と識字率>の相関係数(プラス0.83[0.82?])は、事実、男性の結婚年齢と識字率のそれよりもはるかに高い。一般的な結婚年齢よりも女性の結婚年齢の方が鍵となる変数なのである。
 とりわけ顕著に見られることは、女性の結婚年齢と男性の識字率の相関係数(プラス0.79)は、男性の結婚年齢と男性の識字率の相関係数(プラス0.65)よりはるかに高いことである」312頁

「文化的水準の高いところは女性が晩婚のところであり、女性が子供として遇されることもなければ、物として扱われることもないところである。…夫婦の年齢差が小さいところでは、識字率は高いのである(相関係数はプラス0.55)。文化的テイクオフとは、女性が子供として遇されることがなくなり、妻が子供として処されることがなくなることでもあるのだ」313頁

「仮説——<家族システムの教育的な効率性は、母親の権威の力によるであろう>。この母親の権威は、人類学的な2つの異なる要素に依存している。一般的な親の権威の水準、そして家族システム内での女性の相対的地位がそれである。
 親の権威そのものが強く主張され、さらに女性の立場が高ければ高いほど、子供たちに対する母親の権威は強力なものになるのである。
 この2つの人類学的変数——親の権威と女性の地位——の組み合わせによって、さまざまな家族システムの教育的な潜在力を<先験的に>定義し得る類型を想定することができる」314頁

「組み合わせと類型
 親の権威を現す変数——縦型か非縦型——と女性の地位というもうひとつの変数——父系制・双系制・母系制——の組み合わせは、6つのケース、成長についての適性が異なる6つの家族タイプを生み出すことになる」316-7頁

「母系制というものが現実には両親の権威の分裂を意味するものであるために、アフリカ諸社会は、その母系的な性格にもかかわらず強い母親の権力の確立に至ることはなく、そこから発現する文化的な潜在力も弱い。しかしアフリカ諸家族システムがアンチル諸島へ移植された結果もたらされたいくつかの変化は、母系的傾向の確立、一夫多妻制の消滅、親の権威の再統合、さらには迅速な文化的成長を可能にするに至っている」321頁

「驚くべきことに、当時の知のシステムの外にアウトサイダーとしていたル=プレの研究を例外とすれば、過去150年間の家族に関する社会学的構築物がいかに経験的な根拠を欠いたものであったかが見えてくるのである。コント、デュルケーム、ウェーバー、エンゲルスを読み返してみると、<事実に基づいたものではない>にもかかわらずみんなに受け入れられたこの仮説[大家族の解体]を使って、紛れもなく現実を発明し、擬似情報を構築していくひとつのプロセスが稼働しているのを理解することができる。明らかに、コンセンサスがあったが故に事実が必要とされなかったのである」322頁

「<兄弟の関係が平等主義的であるシステムは全体的に女性主義的な傾向は少ない、反対に不平等主義的なシステムはより女性主義的なのである>。これは一般的な傾向であるが、無視できない例外もある。兄弟の平等と男性の連帯という理想を特徴とするいくつかの家族タイプが、かなりの女性主義的な偏向を示しており、それらは、成長の現実を分析するうえで重要な傾向と認められるのである。とりわけロシア・モデルがそうである」323頁

「構造的な一致と伝播
 家族構造とイデオロギー・システムとの一致は絶対的であり、人類学的な分布図と政治学的な分布図が性格に重なることが示しているように必然的な関係であった。だが家族構造と文化的な成長の関係は、実際にはそれよりはるかに緊密性が少ない。
 イデオロギーは夢や感情の領域のものである。平等と不平等、自由と専制といった理想は、頑強であり理屈で説明できるものではなく、地球上にはそれらの配置分布にしたがって厳格に分断され、互いに相いれない空間編成が創りだされているのである。それぞれの人類学的システムは、隣接するシステムとの交流を最小限に抑えながら自らの政治的価値を生きているのである。まさに家族構造と支配的なイデオロギー構造とが、実際上見事に一致する所以である」324頁→

「逆に文化的成長は、人間理性の普遍性に与るものである。識字化は、ある種の人類学的システムによって促進されるとはいえ、人類全体に共通する潜在力の現われであることに変わりはない。政治的な価値がかなり大幅な閉鎖性を互いに見せているのに反して、文化的な領域での交流は、諸文明の間で実に容易に進行するのである。このためにシステム同士が隣接している場合、文化伝播の現象が起こるのである。それも相互作用をおこすシステムの人類学的タイプとは関係なく伝播が発生するのである。
 地理的には隣接しながら、家族システムが異なる2つの地域があるとしよう。そこではイデオロギー的には異なる夢が生きられている。だが文化的な成長は、固有の素質と異なる傾向に従うことになる。しかしそのなかで文化的に恵まれている地域が、文化的な成長において相対的に恵まれていない地域に不可避の影響を与えることになり、隣接しているということだけで大衆の識字化の伝播が促されるのである」324-5頁

「<西欧>の家族構造のほとんどは実際、母系家族と父系家族に同等の価値を見出し、子供の出産において男と女に同等の価値を付与する双系制である。しかし、そこには微妙な差異が存在し、双系制の度合いにも違いがある」346-7頁

「世界でヨーロッパ以外に権威主義家族構造が伝統的なシステムとして見られるのは、3つの大きな地域に限られているようだ。日本、韓国・朝鮮、そしてイスラエルである。…権威主義家族は<縦型>で<不平等的>であると分類できる。…
 ところで兄弟間の不平等は、ほとんど常にその補足物として比較的高い女性の地位を生み出すことになる。このタイプは双系制で、両性の関係が比較的平等である。なぜなら女性による<相続>が実際にしっかりと受け入れられているからだ。…
 血族家系の理想に不可欠な兄弟間の不平等、男性間の不平等は、実は男性の優位性を前提とする価値体系に呼応しているわけではない。権威主義家族は長男とその弟たち、つまり相続者と非相続者を生み出す。男性に一義的に価値を見出すのではなく、男性たちを格差によって区別するのである。
…日本の家族は両親の双系制の特徴を非常にはっきりと示している。ユダヤ文化はユダヤ性の母系による継承を理想としており、しかも息子がいない場合は娘による財産の相続をしっかりと認めている。バスク文化は、他の権威主義家族にもまして財産の母系による相続を伝統としている。これほど意識的ではないが、ゲルマンの諸家族構造も実際上はそれほど違わない」349-50頁

「生活水準の向上や平均所得の増大として掲示できない『経済的』でも『物質的』でもないテイクオフ…その非物質的、文化的な成長は、心性の革命のかたちをとって進行する。それはまず識字率の向上として現われる。…次にそれは死亡率と出生率の低下として現われる。身近な生物学的な環境を制御できるようになるのである。第3の段階で成長は、ようやく工業製品の製造による物質的な富の増加として現われる」298頁

「このどちらのタイプ[絶対核家族と平等主義核家族]においても両親および母親の権威が、権威主義家族に特徴的に見られる非常に高い水準まで達することはない。いずれも縦型の双系制タイプが示すような強い教育上の力量を発揮することは望めない。核家族型は識字化の発達の中心ではなく、むしろ伝播を受容する地域を形成する」357頁

「18世紀に確認できるスコットランド(権威主義家族構造)とイングランド(絶対核家族)の発達の違いは重要である。それは自然環境から独立して機能する人類学要因の重要さを示すものとなっている。イングランド・システムは、スコットランドやドイツ・モデルほどの活性力はもっていないとしても、教育的な有効性ではヨーロッパ第2位の水準を示しており悪いものではない。このことは、ヨーロッパの近代化において中心的ではないが重要な要素である産業革命を説明するものなのである」358頁

「西ヨーロッパに特徴的な家族タイプを分析することによって、ヨーロッパ大陸のテイクオフをウェーバーの宗教的分類よりもうまく説明することができる。それは権威主義で女性主義、縦型で双系制の人類学システムが持つ根底的な働きによって引き起こされたのである。1300年頃、権威主義家族は、西ヨーロッパ全体の人類学的総体の40%を占めていたともに、北ヨーロッパでは支配的な家族システムであった」363頁

「人間による生成という『歴史』概念の起源そのものに、権威主義家族構造のなかでももっとも堅固で永続性のある構造をもつだろうユダヤ民族の権威主義家族構造が関与していたことは驚嘆に価する。…
 聖書の権威主義家族は、世代から世代へと受け継がれる相続と血縁の持続を描いている。それは父・息子・孫と続く相続を通して体現される時間の線的な概念を造り出し、繰り返し産出するのである。数学的な意味で連続し、方向性をもっているこの最初の時間概念は、したがって家族と血縁の巨大な系譜の形態を可能とするものである。
 家族の歴史として具現化されたこのような歴史の動きのイメージは、16世紀に自らの似姿をこのような聖書に見つけ、それを我が物としたヨーロッパ北部のプロテスタンティズムによって再発見された。プロテスタンティズムへと改宗した大部分の国々は、権威主義家族の伝統をもち、その一般形態はユダヤ的な家族形態に非常に似ているのである。大きな違いは、ヨーロッパ北部が、ユダヤ的伝統では大いに許されているイトコ同士の結婚に対して、はるかに敵対的であるということである」365頁

「潜在的な母系制
 世代間の関係が権威主義的で兄弟の関係が平等主義的であるロシア家族システムは、共同体家族である同類の中国、インド北部、トスカーナ地方のそれのように厳格な反女性主義である。男性同士の平等と連帯には、一般的に女性の地位が低下するという傾向がみられる。権威主義的で反女性主義的であるこの家族モデルは、成長に適したいくつかの人類学的要素のうちのひとつしか持たないことになる。つまり成長プロセスの長期化に適した親と子供の権威主義的な関係である。
 ところが兄弟間の平等と両性間の不平等が組み合わさった理論的システムに比べて、母系制の顕著な偏向を示しているロシア家族にはこのような傾向は必ずしも見当たらない。このシステムは、父系制・縦型システムとしては、女性の地位が異常に高いのである」378頁

「あまりに長い期間、人類学は、家族構造という真の基本的形式の分析をないがしろにしながら、親族システムの分類に没頭してきた。…
 エヴァンス=プリチャードが提案したこの[家族関係と系譜学的関係の]重要な区別は…(各個人間の)家族システムの分析を(イデオロギー的)な親族システムと区別することを可能にするものである。この区別の重要性が認められるのが遅きに失したために、人類学は最近まで、イデオロギー・システムとしての親族関係の分析を特権化してきた。…19世紀にすでに、フレデリック・ル=プレイがヨーロッパについて提案した類型学に匹敵するようなアフリカの家族集団についての整合性のある類型学はいまだに存在しないのである」431-2頁

いわゆるeticとemicの区別に相当するのかな?

「家族というよりは、イデオロギーとしての親族ヴィジョンから派生した慣例では、アフリカのシステムを父系制と母系制という2つの大きな類型に振り分けてきた。それは満足いくものとは言えない。…父系制/母系制というあまりに単純な二分法だけが、唯一の分類法として使用されているのである。ルシー・メイアーはその総括的な著作である『アフリカの結婚と社会変化』の付録に約90のアフリカの部族のリストを付しているが、そこで彼女が示唆していることは、それらの部族の親族システムが父系的なのか(83%の場合)、母系的なのか(17%の場合)の区別である。このような分類法ではどこにも辿りつくことはできない」433頁

「<一夫多妻>の原理が、アフリカ大陸全体に共通する特徴として地球上の他の地域とアフリカを区別しているように思われるのである。…コーランによって4人の妻を持つことが成文化され許されているイスラム諸国ですら、婚姻関係全体における一夫多妻の頻度は一般的にいって2%から4%(最大限の値)である。非アフリカ系世界全体での合法的な一夫多妻率は、婚姻関係全体の0%から4%の間であると考えることができる。アフリカではこの数値がしばしば30%に近い。…家族構造において絶対的に中核的な機能を果たしているこの一夫多妻のメカニズムが、それ自体として家族構造の可能性に或る幅を明らかに創り出しているのである」434頁

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